第4話
夏休みにに入ってニ週間が経った。
今日は夏休みの課題を終わらすべく学校の図書館まで来ていた。
最初は近くの市民図書館でやる予定だったが人がいっぱいで席が空いていなかったので仕方なく、一度家に戻り制服に着替えてから学校まできたのだ。
夏休みに入る前に決まっていた先生の奢りで決まったクラス会は、夏休み入ってすぐ行われた。
クラスのグループLINEで時間と場所が送られてきて参加する人数の確認まで行われた。
俺は正直、球技大会では何もやっていないので参加するつもりもなかったが、春希からすぐLINEが来て『先生の奢りなんだから来なきゃ損だぜ。』と言われたので、確かにそうだと思い参加する事にした。
誰かの奢りで食べるものは、やはり美味しく感じるもので、みんなして結構な量の肉を食べた。そして、最後にはちゃんと先生に感謝を伝え会は終わったが、その後クラスの女子何人かから個人のLINEを聞かれて交換した。
その中には——当然と言っていいのか——
椿原もいて夏休みの間にまた遊びに行こうと誘いを受けた。
俺から椿原を遊びに誘う事はないから、おそらく遊ぶにしてもその時は椿原の方から何かしら連絡が来るであろう。そして、今現在まで何も連絡がないという事は特に予定もないという事だ。
なら、俺がいますべきことは夏休みの課題を終わらす事だろう。
大体毎年、夏休みの課題は前半のうちに終わらし、夏休み後半は家にこもってゲームをしたりするのが俺の過ごし方だ。だからというか、夏休みに入ってすでに二週間が経とうとしてるこのタイミングで課題がまだ終わってないなのは俺的にはかなりまずい。
なので、今日は集中的に課題を進めるべく学校の図書館まで来たのだが、どうして今俺の目の前には篠崎先輩がいるんだ。
事の始まりはほんの数分前。
図書室についた俺は空いている席に座って普通に課題をしていた。
途中数学の課題で分からないところがあり困っていると、突然前の席から声が聞こえてきた。
「そこの問題解けないの?」
そしてこの声の主が篠崎先輩だったのだ。
と、ここまでが今の状況に至った経緯なのだが、そこから何故か篠崎先輩に問題の解き方を教わっているのだった。
「なるほど、こっちの公式使うんですね。
教えてくれてありがとうございます。」
「いえいえ、困っている後輩がいれば助けるのが先輩の務めですから。」
「そうですか。じゃあ、今もこの困っている後輩に教えて欲しい事があるのですが聞いてもよろしいですか?」
「どうぞ、何でも聞いていいよ。」その答えを聞いて俺は「じゃあ」と質問をしてみた。
「どうして、篠崎先輩はここにいるんですか?
まさか、生徒会長が補習を受けにきてるなんて事ありませんよね。」
「何だ。そんなこと聞きたいの?」
と言いつつ、先輩は笑った。
「私がここにきた理由は君と一緒よ。
家の中じゃ勉強が捗らないから気分転換に図書室で勉強する事にしたの。」
その答えに俺は少しビックリした顔をした。そしてその顔を見た先輩はまた笑いながら
「そんなにビックリすること? 一応私、受験生なんだけどな。」
確かに先輩は三年生で今年受験だ。けれど、勉強なんてしなくてもいいのではないかと思って、思わず何も考えないまま質問をしてしまった。
「でも、先輩は生徒会長やってるじゃないですか? 推薦では行かないんですか?」
「まぁ確かに。でも、生徒会長っていっても私が何かをやり遂げたって実績は特にないし、それなら勉強して一般で受けてもいいかなって思ってるから。」
何も考えず思った事をただ質問した俺に篠崎先輩は笑顔のままそう答えてくれた。
「それで、勉強しに図書室来てみたら君がいて、どうせなら誰かと一緒に勉強した方がいいかなって思って声かけました。」
「それなら、俺じゃなくて同じ三年生の方と一緒の方が良くないですか? 俺は先輩に勉強教えられないですよ。」
「君でいいの。 君は知らないかもしれないけど、私、結構君の事気になってるんだよ。」
そう言われて俺は思わず「えっ!」と少し大きめな声を出してしまった。
それを聞いて先輩も笑い出してしまし、入り口付近にいる図書委員の人に睨まれてしまった。
「あの先輩、俺の事からかってます?」
先輩の笑いが止まるまで待って俺は、自分がからかわれてると思い聞いてみた。
「ううん。からかってないんかいないよ。
ただ、ミステリアスって言われてる君の事この機会に色々知りたいなって思っただけ。 もしかして、違う意味に捉えちゃった?」
そうニヤケ顔で話してくる先輩の顔を見る事ができず、顔を逸らしたまま俺は、「いえ別に。」と答えた。
「まぁでも、今日は勉強をしに来たわけだし、君も課題をやりにきたんでしょ? なら、今はそっちをやらなきゃね。」
そう言って先輩は勉強をし始めた。
それを見て俺も、自分の課題を再開し、お互い無言の時間が続いた。
課題に集中している間は、例え目の前に先輩がいても気にならないが、ふと顔を上げて休憩した時に、目の前で真剣な顔をして勉強している先輩を見ると何故だか目が離せなくなる。
先輩は今まで俺が見てきた女子の中で、可愛い方だと思う。そんな人が目の前で真剣な顔をして勉強しているのを見ると不思議と先輩が魅力的に見えてしまう。——もちろんそれを本人に言うのは恥ずかしいので言わないが——そんな風に見えている先輩と一緒に勉強している俺は周りからはどう見られてるのだろうか?この図書室にはそんなに人がいないので、そんな事を気にする必要はないが、純粋にどう言う風に見られてるのか気になって考え込んでしまった。
すると、ずっと見られていた先輩がこっちを見て少し照れた顔で
「流石にそんなに見られると恥ずかしいんだけど…… 私が勉強してる姿って変?」
と聞かれて、俺今、そんなに見てたかなぁと慌ててしまった。
「篠崎先輩って可愛いですよね。つい見惚れてしまってました。」
そしてあろう事か、慌ててしまった結果、言うつもりのなかった言葉をそのまま言ってしまった。
急いで訂正しようとしたが少し遅かった。
「そうかな…… ありがとう。」
先輩は少し気恥ずかしそうにそう言って、顔を少し背けてしまった。
それを見た俺はやってしまったと思った。
言ったことに対しては、それほど深い意味はないのだが、俺は他の人とは違って感情が存在しない——正確には過去に作った偽りの感情が存在する——という複雑な状態なのだ。
相手にとっては今言った言葉は嬉しいのかもしれない。けど、俺にとっては感情を持たない奴の言葉ほど迷惑なんじゃないかという罪悪感みたいなものが残ってしまう。
先輩は気恥ずかしそうにしてくれたので嬉しかったのかもしれないが俺は罪悪感がありホントに申し訳ない気持ちでいっぱいだ。
こういうのはもっとちゃんとしたイケメンとかが言って、そっから恋に発展するようなそういうセリフだと俺は思っている。
これで、先輩が俺みたいなのに恋でもしようものなら——とか自意識過剰すぎてキモ過ぎ——俺はどう責任を取るべきなんだろう。
ここは、先輩が何も感じてない事を祈るしかない。そう思いながら俺はまた課題をやり始めた。
あれから結構時間が経ち途中それぞれ休憩を挟みつつ——その間会話はなかった。——気づけば夕方になっており、図書室の閉館時間となった。
机の上を片付けながら、途中言った言葉に対して言い訳でもと考えていたが、言ったところでさらに余計な事を言いそうだなと思い何も話さないことにした。
すると帰り際先輩の方から、
「ねぇ、もしよかったらなんだけどLINE交換しない?」
「LINEですか? どうしてか聞いても?」
「しばらく課題しにここに来るでしょ?もしよかったらそっちの課題が終わるまででもいいから、一緒にやらないかなって思って。
もちろん迷惑じゃなければだけど……。」
いつも笑顔で話す先輩がこの時だけは少し緊張したように話すので俺は一瞬ドキッとした。
もちろん先輩と連絡先を交換すること自体は嫌なわけじゃない。 ただ、今日あった気まずい感じになった時のことを思い出すと、交換してもいいのだろうかと考えてしまう。
もちろん、先輩も交換についてはそこまで深く考えていないだろうと思いつつも、先輩が最初に言っていた「気になってるんだよ。」というセリフが頭から離れなくなっていてすぐに返事はできなかった。
けど、ここは先輩を信じてみようと、思い
「分かりました。いいですよ。」
と、答えた。
「ありがとう。早速今日の夜連絡してもいいかな。 明日何時に集合するか決めよう。」
「分かりました。 じゃあ、連絡くるの待ってますね。 じゃあまた明日。」
「うん。また明日。」
最後別れる時篠崎先輩は笑顔だった。
感情がなくなってそろそろ半年が経つ。けれど俺は、もしかしたら感情は消えたんじゃなくて心に鍵を掛けてあるだけなんじゃないかと思ってしまった。
なぜなら、今俺は篠崎先輩の帰る姿を見てドキドキしている。このドキドキが何なのかよく分からないが、もしこれが感情の一部だとするなら俺は感情が全て消えたわけではないと証明できてしまう。
俺はもうしばらく先輩と関わることになる。その間にこのモヤモヤとしたものが何なのかもう一度ちゃんと考える必要があると感じた。
その日の夜、約束通り篠崎先輩から連絡が来た。
『こんばんは。 今大丈夫?』
『こんばんは。 大丈夫ですよ。』
『よかった。 今日は課題してるとこに急にお邪魔してごめんね。 迷惑じゃなかった?』
『いえ、こちらこそ解けない問題教えていただきありがとうございました。』
『どういたしまして。 帰りに話した事なんだけど、もし良かったたら明日からも一緒に勉強ってどうかな?』
『はい。俺の方は問題ないですよ。 俺が先輩に教えられることは何もないですけど、先輩はそれでも大丈夫ですか?』
『安心して。後輩に勉強教えてもらおうなんて思ってないから。笑 私は休憩する時に話し相手が欲しいだけだから。』
(うん。よかった。 先輩、俺が図書室で言ったことあまり気にしてなさそうかな。)
俺は、今こうして普通に返信してくれる先輩とのLINEを見ながらそう思った。
特に根拠らしいものはないけれど、返信が割と早く返ってくることと、あの先輩ならそこまで変に勘違いなんてしないだろうと思い込みたい自分がいる。
もちろんそれは、明日会ってみてはっきりすることではあるだろうが、俺が今感じているのはあの先輩とは割と気楽に話せそうだなよく分からない安心感みたいなものがある。——もちろんこれも、特に根拠はない。——
『明日、先輩は何時ごろ図書室行きますか?』
『うーん、明日は朝から学校に行くけど、図書室行くのはお昼過ぎごろ予定してるかな。』
『そうですか。分かりました。』
『君は何時に学校に来るの?』
『朝はいつもゆっくりなんで、学校に行くのはお昼過ぎだと思います。なのでもしかしたらお互い、いいぐらいの時間に図書室で会うかもしれないですね。』
『そっか。分かった。じゃあ君が学校に着いたら連絡くれる? そしたら私も図書室向かおうかな。』
『学校に着いたら連絡ですね。 分かりました。』
『ねぇ、まだ時間大丈夫?』
(ん?何だろう。 時間は二十一時前だから一応大丈夫か。)
『まだ大丈夫ですよ。 どうかしましたか?』
『ちょっと聞きたい事があって、今日私の事可愛いって言ってくれた時、どんな気持ちで言ったのかなぁって気になっちゃって。』
(まさか!さっきまで大丈夫だと思っていたのにまさか先輩からその話題に触れてくるとは思ってなかった。)
『あー……、あれはあまり気にしなくていいですよ。 ちょっと調子に乗って思わず言葉にしちゃっただけなので。』
『そっか。特に深い意味はないんだ……。なんかごめんね。変なこと聞いて。
自意識過剰だろとか思ったでしょ。笑』
『いやいや、そんな事ないですよ。 あれは完全に俺が悪いんでそんな事思ってもいないです。』
『そう。ならいいけど……。』
『むしろ、こっちこそすいません。 突然あんなこと言っちゃって。』
『まぁビックリはしたけど、特に何もないならいいや。 もし、明日会った時、今度は告白なんかされちゃったらどうしようって考えちゃった。 もちろん冗談だけど。』
(なんか意外だ。 篠崎先輩に可愛いと言ったのは冗談とかではなくホントにあの時そう思ったから言ったのだが、先輩は言われ慣れてると思っていた。)
『じゃあもし、俺が明日先輩に告白したらどう答えるつもりだったんですか?』
『それは……』
また、余計なことを言っただろうか?
ちょっと先輩が困ったらいいなぐらいで言ったつもりなんだが、まさかそこまで考えるとは思わなかった。
『まだあまりよく分からないし断るかな。』
『ですよね。 これでいいよって言われたらどうしようかなって思いました。』
『えー、自分で聞いときといてそれはないよ。』
『いや、俺も先輩が返事に困るなんて思ってもみなかったですよ。』
『それは、ちょっといいかもなって考えてみたんだよ。 流石に即答は傷つくかなって思ったから。』
『そんな、冗談のつもりで言ったので気遣わなくても大丈夫なのに、先輩優しいですね。』
『ありがとう。 明日も朝から学校行かなきゃだからそろそろ寝るね。』
『確かそんなこと言ってましたね。 分かりました。』
『じゃあまた明日。 お休みなさい。』
『はいまた明日。 お休みなさい。』
最後そう締めくくってLINEを終えた。
先輩との話し合いは自分が思っていたより緊張した。
まさか冗談で言った言葉に先輩が気を遣ってくるなんて思ってもみなかったし、途中笑顔の絵文字なんか使ってくるあたり、やっぱり先輩は可愛い人だなと思った。
先輩はどんな風に思いながら俺と話していたんだろうと思わず想像してしまっていて、先輩も俺と同じように緊張してたり、少し照れてたりしたら嬉しいなぁとか考えながら、俺も明日のために今日は寝ることにした。
——篠崎先輩の部屋——
(はぁー……。まさか告白したらどうしますかなんて質問されるとは思わなかったなぁ。)
篠崎先輩はメッセージのやりとりが終わってからずっと、ベッドの上で独り言を呟いていた。
「あんな質問ずる過ぎだよ。 今日だって図書室でいきなり可愛いとか言ってくるし、あんなのなんて答えたらいいか急には出てこないって。」
篠崎先輩は零士が思っているよりかなり自室で悶えていた。
「可愛いなんて同級生のそれも同性からしか言われることないし、ましてや後輩の間でカッコいいって噂されてる子からの言葉なんて嬉しいに決まってんじゃん。」
先輩は相変わらずベットの枕に顔を埋めながら足をバタバタさせて独り言を叫んでいる。
そしてしばらくして、落ち着いたのか枕から顔を出して上を向き明日のことを考えた。
「はぁー…… 明日どんな顔して会えばいいんだろう。 普通の顔して話せるかなぁ。」
そんな心配をしながら、先輩はそのまま眠りについた。
次の日、昨日いつもより早く寝たせいか朝は八時には目が覚めた。
——夏休みに入ってからは日付が変わってから眠り、お昼頃にしか起きない。——
久しぶりに朝早起きして、これもまた夏休みになってなから食べてなかった朝ごはんを軽く済ませて午前中はゆっくりしていた。
先輩との約束はお昼頃なのでそれまで時間はまだ充分にある。
久しぶりの早起きで何したらいいか分からず——ゲームは夢中になりすぎて時間を忘れるからできないし——また、ベットに横たわり漫画を読んでお昼まで時間を潰すことにした。
漫画を読んで時間をつぶしていると、急に携帯がなって思わずビックリしてしまった。
LINEの主は篠崎先輩だった。
『おはよう。 もう起きてるかな?
今日なんだけど、私図書室行くのちょっと遅れそうだから先に入って勉強しててもらってもいいかな?』
先輩からの連絡は今日の勉強会のことだった。
『分かりました。 じゃあ先に図書室で勉強してますね。』
と、返すとすぐに既読になりそこから返事は返ってこなかった。
そういえば先輩、今日は朝から学校に行くって言ってたけど何してるんだろ?
三年生だし先生と面接とかの練習でもしてるのだろうか?などと、呑気に考えていると、またよく分からないモヤモヤとしたものが込み上げてきた。
時々くるこのモヤモヤを自分なりに考えたりしてはいるが、未だにその答えは分からない。
このモヤモヤは今まで感じたことのないもので、突然やってくる。
けど自然と、嫌な感じはせず、どっちかというと懐かしいと感じたりする。
なぜそう思うのかハッキリしないが、特に今このモヤモヤをハッキリとしたくないと思っている自分がいて自分自身でもよく分からない気持ちでいる。
とりあえず俺は、よく分からないモヤモヤの事は置いといて、この後のことを考えた。
先輩からの連絡で時間を確認すると、今はお昼十二時前だ。先輩も遅れると言っていたし慌てる必要は無くなったが課題をやる時間は少しでも長い方がいい。
俺は少し早いがお昼ご飯を食べて、学校に向かうことにした。
午後一時前、俺は学校に着いた。先輩に連絡しようかと考えたが、先に勉強している事は先輩も分かっているだろうし別に大丈夫だろうと、連絡はせずそのまま図書室へと向かった。
図書室に入って一応周りを見渡したら——先輩がまだきてないことを確認して——、昨日よりかは人がいたがそれでも席は結構空いていたので、窓際のエアコンがいい感じに当たって気持ちいい席に座り課題をやり始めた。
課題をやり始めてしばらく、
「遅くなってごめんなさい。待った。」
そう言って篠崎先輩はやって来た。
「いえ、別に。 自分も少し早めに来てやっていたので。」
と言いつつ、チラッと時計を見て時間を確認した。
時刻は午後三時半、俺が来たのが一時頃だったと思うので、すでに二時間半近く経っていた。
「だいぶ遅かったですね。 先生と面接の練習でもしてたんですか?」
俺は、先輩に遅くなった理由を聞いてみた。
「ううん。違うの。 今日は朝から生徒会の方でやる事あってそっちが長引いちゃった。」
「夏休みなのに生徒会って仕事あるんですね。」
「二学期入ってすぐ生徒会の引き継ぎ式があるからその準備とか、引き継ぎの資料作ったりとかしなきゃだから。夏休みも学校来て仕事してるんだよ。」
「へー。そうなんですね。」
生徒会って大変なんだな。
ていうか、次の生徒会長ってもう決まってるんだ。あまり気にしてなかったんだけど、いつ決まったんだろう。
聞いてみるか?
「先輩ちょっと聞いていいですか?」
俺は勉強の準備をしている先輩に話しかけた。
「次の生徒会長って、いつ決まったんですか?
「うん?そっか。一年生は知らないかもね。」
先輩はそう言って俺に一から生徒会のことについて教えてくれた。
「次の生徒会長は今の二年生の生徒会メンバーの中から現生徒会長が推薦して決めることになってるの。 だから今だと、私が次の生徒会長を決めるって感じかな。因みに、副会長は新しく生徒会長になった人が同じように生徒会メンバーから指名して決める方針になってるの。」
「それじゃあ、生徒会長選挙みたいなのはやらないって事ですか?」
「そういうことね。昔は選挙もやってたみたいだけど、私達の五つ前の代の時にそれが無くなって今の形になったみたい。
毎年生徒会長に立候補するのが生徒会のメンバーしかいなくて新しく生徒会に入ろうって人が全然いないから、それならやらなくてもいいんじない?ってなったみたいだよ。」
「へー。そうなんですね。 じゃあ一年生で生徒会に入りたい人とかってどうしてるんですか?」
「それは、校内の掲示板に貼ってあるよ。生徒会メンバー募集って。見たことない?」
「あー……。掲示板は見たことないですね。別に見なくてもホームルームで先生が話してくれるかなぁと思って気にしたこともないです。」
「ふふっ。そうなんだ。どうする?生徒会のメンバーに今からでもなってみる?
一応空きはまだあるよ。」
「いえ。大変そうなのでお断りします。」
「残念。生徒会入ってると内申点良くなるのに。」
「いやー、内申点とかぶっちゃけどうでもいいんで。 授業とかもサボりまくってますし。」
「授業はサボっちゃダメじゃん。 せめて、教室にはいようよ。」
「だって、話聞いてると眠くなる時ってあるじゃないですか?」
「まぁ、確かにそれはあるけど……。
その時は堂々と寝ちゃえばいいよ。」
「いや、それ生徒会長が言っちゃダメじゃないですか? 一応生徒の見本なんですから。 もしかして、先輩授業中寝たりしてるんですか?」
「それは……。だって、お昼食べた後とかお腹いっぱいで眠くなるじゃない。 私だって生徒会長である前に一人の人間だもん。眠気には抗えないよ。」
「人間だもんって。 先輩面白いですね。」
俺はそう言ってあまり大きな声を出さないよう笑った。
この時、俺は割と本気で面白いと感じて笑ったような気がする。
そして、ほんの一瞬先輩の周りだけ明るくなって、先輩の顔や制服の色までハッキリと見えた気がした。けれどそれは、すぐに消え次見た時は色が消えていた。
生徒会の話をした後、俺と先輩はお互いの勉強をし始めた。
先輩より早く来て勉強していた俺は時々休憩しながら、そして先輩は、遅れて来た分集中して勉強をしていた。
休憩しながら、さっき見た色のついた光景の時のことを思い出しながらその時の事について考え事をしていた。
あれはたまたまそう見えただけなのか?それとも、幻覚だったのか?どちらにせよ、そう見えた事に何か理由でもあるのかと考えたりしたが、いまいち分からなかった。
何せ、色が消えてから今までそんな事は一度もなかったのだから何が違ったのかなんて全く検討がつかなかった。
そう思いながら俺は、時々また見えるんじゃないかと思い顔を上げて先輩の方をジッと見つめたりもした。
けれど、また景色に色がつく事はなくどっちかというと、先輩が髪を耳にかけたりする仕草にドキッとしたりしてあまり長い事先輩を見ることができなかった。
これは先輩だけでなく、女性全般に共通することだが、何ともない仕草にドキッとしてしまうことがある。
もしこれが、何かしらの感情の一部だとするなら、俺は別に感情を全て無くしたわけではないという事になる。
それは俺にとって、いい事なのかもしれないがそれを確認しようにも、わざわざ本人に向かって『これってどういう感情なんですかね?』なんて、恥ずかしくて聞けやしない。
今まで、誰とも関わらないようにとしてきた事がこんな時になると、どうしたらいいのか分からなくなる。
こいうい時に春希がいてくれたならすぐ聞けたかもしれないが夏休みに外で春希と会ったのはクラス会の時だけで、それからは一度も会っていない。
できる事なら今すぐにでも、このモヤモヤしている気持ちと一緒に、これが何なのか春希に直接会って話したいと思ってしまう。そうこう考えながら課題をやっているうちにあっという間に時間は過ぎていて、今日もこれで解散する事になった。
お互い帰る準備をしながら明日はどうするかという話になった。
「俺は課題が終わるまでは学校に来てやるつもりですけど、先輩は?」
「私も勉強は学校でやろうかなって思ってる。こっちの方が余計なものなくて集中できるし。」
「じゃあ、先輩さえ良ければ明日からも一緒に勉強しませんか? 俺は大体お昼過ぎ頃、学校来て勉強してると思いますし。」
「良かった。私もそう思ってたの。 一人で勉強もいいけど、休憩してる時に話し相手がいるとちょうどいい息抜きになるし、何より楽しい。」
「ですね。俺も先輩と話してる時は結構楽しいですよ。」
「ホント?ありがとう。 それじゃあ時間は大体お昼過ぎ頃でいいかな。あまり細かく時間決めないで先に来てたら勉強始めているくらいな感じでどう?」
「分かりました。それでいいですよ。」
「良かった。じゃあ明日からしばらく一緒に勉強しましょ。 よろしくね。」
「はい。こちらこそよろしくです。」
そう言って帰る支度も終わって、校門の所で分かれた。
それから一週間ほど先輩との勉強会は続いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます