第2話

 部活紹介のあった日から一ヶ月、流石にこれくらいの日にちが経つとクラス内である程度グループが出来上がっていた。

 クラスの中心的な感じの少し派手なグループ、同じ趣味を持つものだけで固まっているグループ、後はグループとはちょっと違うが誰とでも分け隔てなく話しかける奴。

 そして俺は後ろの席からそれらを見て毎日時間を潰している、周りからは少し近付きづらい立ち位置にいる。

 自ら望んでそうなったのだからボッチではないと思っているが、多分それは単なるそうじゃないという意地みたいなものだろう。

 周りから見てみれば俺は当然ボッチで可哀想な奴と思われてるかもしれない。

 それよりも今一番困っているのはそろそろ始まる一泊二日の宿泊学習だ。

 どうにかして休もうと思っていたのだが何となくうまくいきそうにない。こうなったら、当日に風邪でも引いてくれないかなぁと神頼みでもする勢いだ。

 特別行きたくないという理由はないのだが泊まり込みでというのが嫌いだ。

 特に仲良くもない連中と同じ部屋で一晩一緒というのがなんとも落ち着かない。普段から、休みの日は家に篭って漫画やらゲームやらで一人で静かに遊ぶ事が多いのに、部屋に誰か居て尚且つ確実にうるさくなると分かっている所へはあまり行きたくない。

「はぁ……当日マジで風邪でも引かねえかなぁ。」

 そう呟くと、隣でいきなり

「今から風邪でも引くの?」

「ん、あー、なんだ春希か。 いや今からは引かねぇよ。ただ、そろそろ宿泊学習があるだろ。あれ行きたくねぇんだよ。」

「いや、行きたくねぇって無理だろ。」

 ——コイツは進藤春希しんどうはるき。クラスの中で割と俺に話しかけてくるいわゆる誰とでも仲良くなれちゃう系のいい奴だ。——

「当日にでも風邪引けば行かなくてもいいかなぁとか思ってるんだけど無理かな?」

「無理かどうかは知らんけど、そこまでして行きたくねぇか?割と楽しそうだと思うぞ。」

「いや、楽しくねぇだろ。あれって話聞く限りただクラス同士、学年同士仲良くなりましょう的な奴だろ。」

「まぁ、そんな感じだろうな。クラス対抗でバレーかなんかやるって言ってなかったっけ?」

「こう言っちゃなんだけど、俺別にクラスで仲良くとかなくてもいいかなって思ってるから参加したくねぇ。」

「何?一匹狼的な感じがいいってことか?

 カッコつけすぎだだろ。」

 俺の割と本気で言った言葉に春希はいつも笑いながら冗談で返してくる。

 俺がクラスで唯一仲がいいと思ってるのは今の所春希だけだが、こいつの良い所はこっちの本音を笑って冗談にしてくれる所だと思っている。

 そんな冗談にこっちも冗談にして返せるから春樹といる時は安心できる。

 だから、春希にだけは割と何を言っても平気だと思って結構本音を言ったりしている。

「カッコつけすぎか。確かにそうかもな。」

「んで、当日は参加するよな。」 

「さぁ、どうかな。何もなければ参加するよ。」

 そう笑いながら言ってこの話は終わった。

 

 

 五月末、宿泊学習の日がやってきた。

 毎年この時期は一年は宿泊学習、二年は少し遠出の遠足、三年は受験前最後の旅行となっているらしい。

 結局、当日に風邪を引くなんて都合のいいことは起こらず、俺は朝から学校に来てこのイベントに参加している。

 この宿泊学習は一日目の朝学校に集合しバズで目的の宿泊地まで行く。着いたら事前に決めた班別に別れて昼食を作る。

 ——ちなみに昼食はお決まりのカレーだった。——

 そんでみんなで片付けをして一時間ほど自由時間があった後、小さな体育館に集合してクラス対抗のバレー大会が始まる。

 このバレーの時間でクラス内仲良くなりましょう的な感じらしいが——みんなで汗流して仲良くとかいつの時代だよとか思ったりしたが——バレーなんて疲れるスポーツやりたくもない俺は当たり前のように隅っこで一人日向ぼっこをして楽しそうにしている連中を眺めていた。

 ちょうど自分のクラスの試合が終わった所で誰かがこっちに近づいて来た。思わず下を向いて寝ているふりをしたが、声をかけられ一度は無視しようかと考えたが、その声に聞き覚えがあったので、上を向いてみた。やっぱりこえの主は春希だった。

「バレー、やっぱり参加しないんだな。」

「飯食った後にすぐこんなハードな運動できねぇっての。せっかく食べた飯吐くぞ。」

「まぁ、同じようにサボってる奴何人かいるしあまり目立たないとは思うけど、流石にこんな端っこにいると気になるぞ。」

「いいんだよここで。この時間ここが一番あったかい。」

「あったかいって。何?光合成でもしてんの?」

「生きていく上で光合成は大事だぞ。」

「ハハハ、確かに光合成は大事だな。じゃあ俺も、次の試合まで光合成していくわ。」

 そう言って春希は本当に俺の隣に座り始めた。

 やっぱり春希はいい奴だ。あまり深くこちら側に踏み込んでこないし、かといって遠くからこちらの様子を伺うような事はしない。

 話しかけてくる時もいつも笑って冗談を交えながら話してくる。

 こんないい奴だからこそコイツとばっか話してると俺に変な噂でもたたないかと心配になってくる。——俺にそっちの気は全くない。至って普通だ。——

 まぁでも、そいう噂がたつ前にある程度他のクラスメートとも話しかけた方がいいかもな。これから授業によっちゃグループに分かれてレポート提出なんてあった時一人だけ輪に入れないと気まずいし。

 けど、このバレーには意地でも参加はしないけど。

 

 

 夜、風呂に入って夕飯食べて消灯時間になると同じ部屋の奴らは割とすぐに寝た。昼間あんなにバレーではしゃいでいたから当然と言えば当然かもしれないが、運動してない俺は特に眠くもなくどうしたものかと考えていた。

(そういやこの辺り、他に灯りが無いから夜は真っ暗だよな。もしかしたら外に出れば星でも見えるかな?)

 そう思い、先生たちにバレないようちょっとの時間だけ外に出てみることにした。

 さすがに廊下には先生がいたりしたが幸い居眠りをしていたのですんなりと階段を降りて外に出ることができた。

 一応部屋にもベランダがあってそこから空は見ることができるが、どうせなら外に出て座って空を見る方が趣があっていいと感じる。

 それに、今日は新月で、空は真っ暗思った通り星が出ている。

 けどやっぱりというべきか、空に星は出ているのに俺の視界は色がなくモノクロのままで、せっかくの星を見てもそこまで感動することはなかった。

 まぁでも、色はなくても星は綺麗だと分かる。だから少しは星を見て落ち着くことができるというものだ。

 

 星を見てどのくらい時間が経っただろうか?おそらく五分と経っていないとは思うが余りにも夢中になりすぎて自分に近づく足音に気付くのが少し遅れた。

「そこで何してるの?」

 急に声をかけられ俺は先生にバレたと思ってしまった。恐る恐る声がした方に振り向くとそこに居たのは一人の女生徒だった。

 とりあえず先生ではなかったことにホッとしてさっきの質問に答えることにした。

「星を見てた。ここなら周りに何も明かりがないから綺麗に見えると思って。」

「星? ホントだ。綺麗に見えるね。」

 そう言って彼女は立ったまま空を見上げた。

「えーっと、君はどうしてここに?」

「眠れなくて、とりあえずトイレに行こうとしたら外に誰かいるのが見えて気になって来ちゃった。」

「廊下から見えたの?」

「うん。暗いから誰かまではわからなかったけど人がいるのは分かったよ。」

 しまった。外は暗いから見えないと思っていたのだが、案外誰かいるのは分かるのか。

 少し焦った俺は先生にバレる前に自分の部屋に戻ろうとした。

「教えてくれてありがとう。外に出たのがバレる前に戻るね。」

「あっ、そうだね。私もつい気になって出て来ちゃっけどバレたら怒られるね。」

 そう言って彼女も俺と一緒に戻る事にした。

 部屋に戻る道中彼女は小声で俺に話しかけて来た。

「倉知君って星とか好きなの?」

「えっ!」

 突然自分の名前を呼ばれて少し驚いた。

 どうして彼女が俺の名前を知っているのか考えていたら彼女の方から答えを教えてくれた。

「やっぱり、私の事知らなかったか。一応クラスメートなんだけどな。」

 そう言いながら彼女は頬を少しだけ膨らませた。

 こういうことする女子は男子からはモテるんだろうなと思いながら彼女に向かって、ゴメンと謝る。

「いつも一人でいるの見かけてるし、覚えてなくても別にいいけど。今名前教えるから覚えておいてね。

 私の名前は椿原つばきはらあかり。よろしくね。」

 彼女名前を聞いた所で自分の部屋がある階についた俺はそのまま彼女と別れた。

 別れ際、彼女はまた小声で「じゃあね」と言ってきたので軽く手だけ振って別れた。

 椿原あかり。彼女の第一印象は自分の事を可愛いと認識した上で話しかけてくる、できる事ならあまり関わりたくないタイプの奴だなと思った。

 ただ、同じクラスメートであると言っていたし、今少し話した事でおそらく彼女はまた話しかけてこようとするだろう。

 その時は諦めて適当に受け流すしかないだろうなと思い、部屋についた俺はそのままベットに入って寝た。

 そして、その予想は次の日の朝早速当たった。

「おはよう、倉知君。昨日の夜は部屋戻る時バレなかった?」

「おはよう、椿原さん。部屋に戻るまで誰にもバレなかったよ。」

「そっか。よかったね。 それより、私の事はあかりって呼んでほしいな。同じクラスなんだし名字で呼ばれたくないな。」

 ——やはりめんどくせえ。何が名前で読んでだよ。昨日少し話しただけだろ。そんな仲良しアピールみたいなのやめろよ。——

「うーん。分かった。できるだけ努力します。」

 心の中で思った事は何とか飲み込んで苦笑いしたままとりあえず誤魔化した。

 彼女はあまり納得してなさそうな顔をしたが一瞬で顔を元に戻した後ニコッと笑って

「じゃあ、なるべく早く名前で呼ばれるの期待しておくね。」

 と言い、その場を去っていった。

 そのすぐ後、後ろから肩に腕を回しながら春希が声をかけてきた。

「おいおい、今の椿原だろ。いつの間に仲良くなったんだ。」

「別に。仲良くなってはいないよ。ただ、昨日の夜たまたま会って少し話しただけ。」

「昨日の夜どっか行ってたの?」

「眠れなくてバレないように外に出て星見てた。んで、そこに椿原さんが来て話しかけてきただけ。」

 春希になら話しても大丈夫だろうと昨日会った経緯を大雑把に話した。

 すると、春希は少し笑いながら

「お前それ大丈夫か?多分椿原の奴二人だけの秘密ができたと思って喜んでんじゃねぇ。それで今も声かけてきたんだろ。」

「いや、流石にそれはないだろ。だって、昨日初めて話したばっかだし。それに俺は昨日名前知ったんだぜ。」

「いや、分からねぇぜ。お前は知らないだろうけど、クラスの女子の間じゃお前の事ミステリアスでカッコいいって思われてて話したいと思ってる奴結構いるみたいだからな。」

「はぁー!何それ。ミステリアス?俺がか。冗談も大概にしろよ。」

「いやいや、お前いつも一人でいるだろ。んで。何考えてるか分からなぇから周りから見たらミステリアスって感じに映るんだよ。」

(マジかよ。初めて知ったぜ。)

「それに、椿原。アイツもお前と話したいと思ってた一人だろうから気をつけた方がいいぞ。秘密の共有とか好きそうだからな、アイツは。」

「はぁ、勘弁してくれよ。先生にバレないようにって動いてはいたけど別に、秘密とかって思ってねぇし。」

「ハハ。まぁ、どんまい。多分これからアイツから話しかけてくること増えるだろうけど、いい機会だしもうちょい周りと関わってみれば?」

(はぁー、俺の平穏な学校生活がこんな形で崩れるのだけは避けたい。)

 俺にとってこの宿泊学習はいろいろな悩みを抱えたまま終わりを迎えた。

 クラスの女子の間でミステリアスに思われていた事。

 椿原あかりという、ちょっと面倒くさそうな奴に目をつけられた事。

 これから先この二つの課題をどうにかしない事には俺に平穏は訪れなさそうだ。

 とりあえず女子と話すのだけは良しとしても、春希が言ってたように椿原が勘違いしてそうな秘密の共有に関してはすぐにでも解決した方が良さそうだ。

 こういう事は後回しにすればするほど後々ややこしくなってさらに面倒な事になる。

 これが終わって休み明けにでも何とか椿原と話すことができればいいのだがどう勘違いを正すかしっかり休みの間で考えおこう。

 俺はそう決めてこの宿泊学習が終わり五月も終わりを迎えた。

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