第1話
今日から新しく俺は高校生になる。
結局、周りから色が消えた日から今まで周りの色が戻る事はなかった。
春休み中は、高校入学の準備を早めに終わらせて後は家に引きこもってゲームや漫画やらでずっと一人の時間を過ごしていた。
高校も何とか兄が通っていた高校に入学する事ができ、とりあえず計画通りになって一安心という感じだ。
色が徐々に消え始めるようになってから俺は周りと少し距離を置くようにした。
だから、高校も同じ中学のやつが少ない所で同じ中学の奴がいても特に仲が良かったなんて奴は一人もいない。そういう高校を選んだ。
高校じゃ完全に一人の状況からスタートできて周りとの関係をどうしようかと休み中悩んだが、結論は多少の距離を取りつつ一人でいることにした。
それが、今の俺にとって一番いいと思ったからだ。
もしまた、色を取り戻す事ができ、嘘の感情のコントロールができるようになれば人と関わるのはいいかもしれない。
けど今は、モノクロに見える世界で周りの感情を読み取ることなんて上手くできない。
そんな状態じゃどう感情を作っていいのかすら分からない。なら、人と関わるのは最低限でいい。
高校生活を送る上で最低限の関わりだけ持てば自分にとって何事もなく平穏な高校生活を送れるだろう。
高校なんてものはただの『暇つぶし』だ。
世間体を気にする人間の為、とりあえず高校までは卒業する。そうすれば、卒業後に何をしてようがうるさく言われる事はないだろう。
それにしても、入学式ってのは面倒だ。
そこまで大きくない体育館に新入生、教師、親、それからどっかのお偉いさん達。そんなにたくさんの人達を集めて式の最中、暑い中ひたすらどうでもいい話を聞かされる。
本当につまらないし、時間の無駄だと思う。
何のためにやっているのかすら俺には分からない。
それに今もそうだ。式が始まる前に新入生は武道場のような所に集合して待たされている。時間になるまで特にすることもなく周りの連中はいくつかのグループに分かれて行動している。
元々同じ中学の奴同士固まって話してるグループ。中学は違えど同じ部活の大会で仲良くなったであろうグループ。そして、どこのグループにも属さずただ時間になるのを待っている奴ら。
俺はもちろんどこにも属さず時間になるのを待っている方だが、その中でもおそらく俺が一番今この瞬間をつまらないと感じているだろうと思う。つまらないと思うからこそどうしたものかと考えとりあえず周りの人間観察をやって訳だがそれにも飽き始めてきた。
入学式まで後どのくらい待たされるのか知らないが、マジでやる事がねぇ。
「はぁー……」
あまりの暇さに我慢できずため息をついて俺は外に出ることにした。
確か外に出てすぐ左に渡り廊下がありその手前に小さな階段があったはずだと思いそこに座って時間が来るのを待つことにした。
そこなら集合の時の声も聞こえるだろうし何より、人がたくさん集まった場所というのは空気が重くて嫌いだ。
階段に座り手を後ろについて雲ひとつない、だけどもモノクロにしか見えない空を見上げゆっくりする。誰かもわからないやつと話すよりこうやってただ何も考えず、ぼーっとしてる方が俺にはあってる。そう思いながら時間が過ぎるのを待っていた。
「君は新入生だよね。そろそろ時間だからクラスごとに並んで欲しいんだけど、集まってくれるかな?」
急にかけられた声に一瞬ビクッとして
「えーっと、どなたですか?」
そう尋ねた俺に声をかけてきた女性ーー顔は割と整っていて髪は肩ぐらいまで伸びていて、可愛いと言うよりは綺麗系に近い感じーーは少しクスッとしながら
「ごめんごめん。私は三年の生徒会の者なんだけど、そろそろ式が始まるから外に新入生がいないか確認してたの。」
なんだ先輩か。
「そうだったんですね。すいません。すぐ行きますね。」
とりあえず謝り俺は武道場に向かおうとした。すると、また先輩に呼び止められた。
「ちょっと待って。ズボン少し汚れてるよ。」
そう言われて俺は少し頭を下げつつズボンを叩いて汚れを落とした。
この時の俺はこの先輩のことを特に何とも思ってなかった。だから名前も聞かなかったし、顔もちゃんと見なかったのであまり覚えてない。
けどまさか、これから一年間この人と多くの時間を関わることになるとは今この時は夢にも思っていなかった。
入学式の次の日、早速オリエンテーションから始まり、校則やら部活のことやらいろいろ説明があった。
部活動に関しては強制ではないが、ほとんどの生徒は何かしら部活動に入っていると説明していたが部活は興味がないので、どこかに所属するつもりはない。
とりあえず、今日の午後は部活紹介の為の時間がとられているのでそれには絶対参加と言われた。
他に説明があったのは五月の終わり頃に一泊二日の宿泊学習的なのがあるのと七月の夏休み前に新入生歓迎球技大会があるらしいというまぁ、一学期のイベントの話をしてたと思う。
途中から眠くなってあまり話をちゃんと聞いてなかったのでそこら辺は曖昧だけどどうにかなるでしょ。多分……
とにかく、今日の午後にあるという部活動紹介をどう乗り切るか今から考えていた方がいいかもしれない。
俺は部活動に入るつもりはないので部活動説明なんてされても興味がない。故に、どうにかしてサボろうと思っている。
一番は調子が悪いとか適当に理由つけて保健室で休む案だが、流石に初日からいきなり保健室は後々使えなくなりそうだから避けたい。となると、やはり体育館の隅っこの方で壁にもたれながら寝るか?
先生たちに見られてなければ多分いけると思うがバレたら適当な理由を考えようかな。
なんて考えていたら午前のオリエンテーションが終わっていた。
昼休み、まだ学校が始まって初日ということもあり、弁当の時間になると皆同じ中学の友達がいる教室や昨日の入学式の時に少しだけ仲良くなった子らと食べていたりして特にグループみたいなのはできていなかった。なので、俺は一人でご飯を食べていたが特にクラスにいても浮いたりはせず落ち着いて食べる事ができた。けどこれも、いつまで続けられるかわからない。
正直グループなんてのは割とすぐにできると思っている。特に女子に関してはクラスの中心になりそうな人が一人決まるだけで特定のグループなんてすぐできるだろう。
そうなると、一人で食べてても目立たない場所を探さなくてはならなくなる。
当面の俺の学校生活での目的はお昼を快適に過ごせる場所を探すことになりそうだ。
部活もしないし、とりあえず放課後や移動教室なんかの時に校内はいろいろと回れそうだからその時にでも探そうかなって思う。
快適さを求めるものの中で最重要事項なのは昼寝ができる場所かどうかで決めたい。
なぜなら、ご飯を食べた後は眠いからだ。そうなると理想は保健室かなぁと思うけど許されるかどうか微妙かな。
まぁ、どこで食べるかはこれからゆっくりと考えようかな。
ご飯も食べ終わったし、そろそろ体育館に向かおうかな。少し早めに行ってサボれそうなところ見つけたいし。
「えー、一年生の皆さん集まりましたので、これから部活紹介を始めていきたいと思います。進行は生徒会が、させていただきます。よろしくお願いします。」
昼休みが終わり少し経ってから部活紹介が始まった。
どこでサボろうか考えていたが、いざ始まってみたら最初はクラスごとに並んでいたのが始まってすぐバラバラになった。というのも、部活紹介時は舞台の前に集まってもいいし、後ろの方で見てても構わないらしい。
つまり、自由ということだ。
どうやってサボろうか考えていた自分が少し馬鹿だなぁと思った。
俺は後ろの方で壁にもたれながら遠くから部活紹介を眺めてた。壁にもたれかかってるのは俺だけだったが、後ろの方で見てるやつは割といたから俺だけ浮くという事はなかった。
しばらく眺めてるとだんだんこちらに近づいてくる足音が聞こえてきた。
横を向いてみると知らない女の人が歩いてきて俺に声をかけてきた。
「なんでこんなことで見てるの?」
なんで?ときたか……
さて、どう答えたものか。
「前は人がいっぱいいて窮屈そうだからですかね。」
そう答えた俺の顔を彼女は少し覗いて、
「嘘だね。つまらないって顔してるよ。」
「そんなにつまらなそうにしてますか?」
「そうだね。つまらなさそうだし、何より自分には関係ないって感じしてるよ。」
そこまで言って彼女は少し笑った。
「まぁ部活紹介は真面目にやる所もあるしふざける所もあるけど、さっきやってたサッカー部の紹介はコスプレとかもしてたし楽しかったと思うけど、どうだった?」
「そうですね。コスプレしてて楽しそうではありましたけどそもそもサッカー部には入らないので。」
「部活に入る入らないは自由だからいいけど、もう少し前でみてもいいと思うけど嫌かな?」
——なんだろうこの感じ。全てではないけど何となく自分の事が見透かされてるような感覚。少し試してみるかな。——
「そうですね。気が向いたら前の方に行きますよ。それより、先輩ですよね?どうして俺に声かけたんですか?」
少し笑いながら気になる質問を直球でぶつけてみた。
「うーん。そうだね。声かけたのは昨日の入学式の前にもそうやってつまらなそうにしてたからかな。」
昨日? 俺は昨日は特に誰かと話した覚えはないんだけどな。
いつだろう?
「昨日って、俺と先輩会いましたっけ?」
「覚えてないかな? 式が始まる前に階段の方に座ってたでしょ。その時に声かけたんだけどな。」
式が始まる前?もしかして……
「その顔は思い出してくれた? まぁ、ホントに少ししか話さなかったから覚えてなくてもよかったんだけど、私的には印象に残ってたから覚えててまた声かけちゃった。」
少し照れた感じでそういう彼女に確かに覚えはあった。でも、あの時は特に何もしてなかったように気がするけど何がそんなに印象的だったんだろう?
「昨日のことそんなに印象に残るような事ありました?」
「階段に座って空見てたじゃない?だけど私には、空を見てるようでどこか、もっと遠くを見てるような気がして何見てるんだろうって感じたの。それが印象に残ってたかな。」
そう言われて俺は少しドキッとした。
もちろん、恋愛的なものではなく——そもそもそんな感情持ち合わせてない——自分には色が見えていない事がバレたのではと思ったからだ。
でも、そんなはずはない。
先輩と会ったのは昨日が初めてだし、そもそも色が見えていないなんて告げても信じてもらえるわけがないだろう。
どう考えてもコイツ頭おかしいのかなって思われるに決まってる。
「じゃあ、先輩には俺があの時何も見てたと思いますか?」
「さぁ?分からない。 そもそも君と会ったのは昨日が初めてだし、私は君の名前すら、まだ聞いてない。知らない事だらけだからね。だからあの時君が何も見てたのか私には想像もつかないかな。」
やっぱりそうだよな。普通分かるはずがない。
今俺には見てるもの全てがモノクロに見えているなんて想像すらできないだろう。
だけどこの先輩は、俺がつまらなそうに見ていた事がただ気になっただけ。
ただそれだけで、俺に声をかけてきただけなのだ。
でも、違和感を持たれてることに対しては少し警戒しといた方がいいかもしれない。
もし、俺の秘密がバレたら俺は学校に居づらくなってしまう。
別にそのネタで脅されたりされても怖くはないが、変な奴というレッテルが貼られてしまうとそれを払拭するのは一番面倒臭い。
この先輩のことは多少なりと知っておいた方がいいかもしれない。
「先輩。 俺の名前は
俺はこの先輩とはこれからも関わるかもしれないと思い名前を聞いた。
名前を知ることでこの先輩のことは覚えるし、いつ話しかけられても、その時はこの人を観察できる。
もし、この人が俺の秘密に気づいた時は、なんとか対応できるようにしておかなければならないと思った。
「いいよ。 私の名前は
生徒会長だと! マジかよ。すでに面倒くせえじゃねえか。
「また、イベントの時君がつまらなそうにしてたら声かけるね。
その時は、何がそんなにつまらないのか理由を教えて欲しいかな。倉知零士君。」
彼女——篠崎凪——は最後に俺の顔を覗きながらそう告げ、どこかへ行ってしまった。
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