モノクロの世界で君と見つけた景色
夢無
プロローグ
いつからだろう。
生きてることがつまらないと感じるようになったのは。
つまらないと感じてるこの世界で生きる意味すら無くしてそれでもまだ生きていようとしているのは何故だろう。
俺にはこの世界がモノクロのように色がないように見える。
いつ頃からそうなったのかは分からないけど、キッカケは多分父親だろう。
小学生の頃から八つ当たりをする時は常に俺に当たっていた。
自分がイライラしてる時は決まって俺のところへ来て机やらゴミ箱やらを蹴飛ばしながら自分にとっては関係のないことへ対して文句を言ってくる。
俺自身に直接手を挙げることはなかったけどそれはきっと怪我をされると何かと面倒だと思ってのことだろう。
俺の父親というのはそういう人間だ。
俺が父親からの脅迫のような事をされているのは母親も知っている。
けど、毎回助けようとはしてくれない。
それでも、たまに俺が告げ口のような事をすると俺のいない所で父親に強く言ってはくれる。
だけど俺は気づいてしまった。
俺が母親に告げ口をして父が母に怒られても父親からの八つ当たりが止むことはなく、むしろ告げ口をしたことに対していつもより強く当たってくるということに。そしてそれは自分にとって、すごく嫌なことであり、とても怖いことであった。
だって俺はまだ小学生という何事にも抗うことのできない年頃だからだ。
どうして父は自分に八つ当たりをするのだろうと考えたことがある。
自分には下に弟が、上に兄が一人ずついる。それなのに、父はいつも自分にばかり仕事の愚痴を言ってくる。
いろいろ考えたけど結果、理由はよく分からなかった。
兄はいつもしっかりしていて、弟は末っ子だからかいつも甘やかされている。
なら、真ん中の俺はもしかしたら一番どうでもいい存在なのではないか、だから愚痴をこぼしても、脅迫まがいな事をしても何も感じないのではないかという結論になった。
自分自身でそう思うようにならなきゃ、この地獄のような時間は耐えられない、そう感じるようになり、それ以上余計なことは考えたくなかった。
これが当時小学四年生だった俺が自分を守るために出した結論だった。
結果、小学校を卒業するまで、父親からの八つ当たりは続き、中学生になると今度は毎日、兄と比べられるようになり遠回しに「お前は出来損ないだ」と言われてるような気分になった。
けど、その頃にはもう俺には何一つとして感情が残っていなかった。
何をやっても怒られ、褒められたことなんて一度もない。
自分がこれならと思ってやった行動もすべて否定され罵倒され、もう自分でもすべてにおいて諦めることにした。
それが、自分自身にとって、楽になれる方法で誰にも期待をしなくて済む唯一だと感じたから。
そんな俺の事を母親は心配してくれていた。
けどそんな事、今更どうでも良くて無視しようかと思っていたけど、一度だけたまたま母と兄が二人で自分のことについて話してるのを聞いたことがあった。
話の内容まではしっかりと覚えていないが、多分進路のことについて話していたと思う。
その頃の俺は自分で決めて行動することはしなかった。それをするとすべて悪い方にいくような気がしていたからだ。だから、進路も親が決めたところか、周りのみんなが行くような所でいいと思っていた。
けど、その事が母親としては心配だったのだろう。
どうにかして自分自身で進路を決めて欲しい。そう思ったのか三年生になってからは商業高校とかどうだろうか?
普通科の高校に行くならこの高校はどうだろうかと、いろいろと高校のことについて言ってくるようになった。
でもその頃の俺はすでに、自分で考えることもやめていたし、何より、自分自身の感情がほとんど無くなっていた。
そして、無くした感情の代わりに自分の中に器を作って偽の感情というものまで作って普段から楽しそうにしている自分というのを作り出していた。
だからどうしても進路のことなんてどうでもいいと考えていて、正直高校なんて行く気にもならなかった。
でも、それだと母親は悲しむ、だから考え方を少し変えて、どうしたらお金がかからずに高校に行けるか考えた。
感情もない、思考も放棄していた当時の自分が頑張って考えて出した答えが兄が通っていた高校に入学するという答えだった。
俺が高校に入学する時には、兄は卒業していて制服や体操着などはお下がりで貰えばいい。そしたらかかるお金は教科書代だけで済むんじゃないかと思った。
もし、その高校に落ちたら俺は高校には行かずバイトでもして適当に働けばいいと思っていた。それ以外俺にはもう考える力は残っていなかった。
母親に進路が決まったと伝えた時は少しホッとしたように見えた。もしかしたら俺の気のせいかもしれないがそれでも良かった。
父親は憎い、けど母親だけは助けてくれなかったことに対して憎んだりすることはできなかった。だって、一応の心配をしてくれている事は知っていたから。
進路が決まって周りからは大分遅れてはいたけど塾にも通うようになった。勉強はまぁ対してしなかったけど塾では別の中学に通ってるやつなんかにも会えて周りは常に楽しそうにしていたから俺もそれに合わせて感情を作る事ができた。
そんな時だった。俺は時々自分の見ている景色に違和感を覚えるようになった。
周りが楽しそうにしているから、自分も楽しいという感情をうまく作り出せている筈なのに、急に目の前の色が消えてモノクロになる事があった。
そしてそれは日に日に増えていき中学を卒業する頃には周りから色が消えた。
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