第七話 〜危険〜
〈呪術〉の一族。
魔力量が桁外れで魔法に特化した一族である。
それに加えてこの一族は一族の名でもある特殊な魔法〈呪術〉を使える。
見たものは口封じに消されていると言われているためどんな魔法なのか、能力なのか未知数で一族の中でもトップクラスの戦闘力を誇り、魔法勝負ではほぼ勝ち目はないとまで言われており〈凡〉からも他の一族からも〈呪術〉の一族という存在を危険視されている。
「会ったら最後とまで言われているね」
つらつらと述べられた一族の説明に圧倒された。
魔法能力に特化した戦闘型の一族。
誰も何も知らないとされる呪術という魔法。
ーーー人類から危険視されていると言っても過言ではない一族。
「流石にそれは大袈裟だろ。確かに俺も〈呪術〉の一族…ってか、他の一族の奴等にあった事はねぇけど、そこまで危険視されてるのはそういう噂に尾ひれがついてるからだ。実際はどうかなんて目で見て感じないと意味無いだろ」
「噂っていうのは何か根本的な事実があるから広がるんだよ。確かに誇張されてるかもしれない、だけどそれすらも《かもしれない》だ。警戒するには充分だろう?何かあってからじゃ遅いんだから。それに…〈呪術〉の一族は僕達〈守護〉の一族と相性が悪い」
「………」
「魔法に関しては僕らはからきしだからね…いくら知識を取り入れようと守りを固めようとそれを打ち破る術を向こうが持っていたら…最悪手も足も出ない状況に陥るかもしれない。〈呪術〉の一族は間違いなく、他の一族と比べて危険度は高いよ。だからなるべく会わないように…」
「それこそ無理な話だな。お前もわかってるだろ、今の世の中どこに何が潜んでるか分かったもんじゃない、村から離れた〈守護〉の一族は勿論、〈呪術〉の一族だって〈凡〉に紛れて暮らしてるかもしれない。ただでさえ〈呪術〉の一族は一族の中で一番、自分らの力を信じて疑わない、自分が優れてると証明するためなら他者を傷付ける事を厭わない一族って有名だからな」
「…それは、でも、皆がそういう訳じゃない…穏健な人もいるよ。それは自身を持って言える」
「………それ自体は否定しねぇよ。でも逆に…血も涙もない冷徹な奴もいるってことだ」
「………」
「十年も会わないうちにお前は随分甘い奴になったな。別にお前の生き方に口出しはしない。だけどな、リナに被害を及ぼすなら俺はお前相手だろうが容赦はしない。ただそれだけだ」
「それはレンもだろ。レンは…言い方はあれかもしれないけど冷たくなった気がする。リナ以外に対して。それに…」
「それに?」
「…何でもないよ」
「またそうやってはぐらかすのか」
名を呼ばれ、はっと前を向けば何かを言い争い険悪な雰囲気が辺りを包んでいる。
いや、話自体は聞こえていた、だが、二人の雰囲気が…今までとはまた少し違っていて。
まるで拘束された私を助ける為にレンが割って入り、シャルとレン、二人が出会ったあの時のような…。
しかし、仲間として今この場にいる限り…否、仲間でなくても喧嘩している二人が目の前にいれば放置なんて出来る性格では無い。
「待て待て待て、何故いつの間にかそんな喧嘩に発展しているんだ…!毎回思うが、レンは少し喧嘩腰過ぎやしないか?お互いに譲れない《何か》がある。それは私も同じこと、私の事はすんなりと受け止めてくれたのに…何故そうもお前達は啀み合うんだ」
溜息を付き、右手を額に当てる。
私の言葉を聞き二人はバツの悪そうな顔をして目をそらす。
…きっと今は話す気は無いんだろう。
この二人の関係はホントに奇妙だ、兄弟というものは喧嘩はすれどここまで険悪になれるものなのか…。
(…兄弟どころか親しい人間すら居なかった私には到底分からない問題かもしれないが)
私の記憶の中には、一線引いて畏まって頭を垂れ跪く大人達に意味もよく分からない状況でただ敬われていただけ。
そこに親しみなんてものは何一つも無い。
「…まぁいい。ある程度〈呪術〉の一族については分かった。一族の中でも最も危険な一族、と言うことだな?」
この二人の関係に関しては今はどうにも出来ないと判断した私は元の話題に話を戻し、結論付ける。
「うーん…確かにそうではあるけど…でも最もと言われたら…少し微妙かも」
「…と言うと?」
「確かに厄介だし、危険ではあるけど、そもそも一族の人間自体がなるべく関わり合いたくないというか…」
「どの一族も話に聞いただけだけど、まぁ、特殊な奴等ばかりだからな。敵に回すのに正解の一族なんて存在しない」
二人の話に首を傾げ問いかける。
「…他の一族も危険…という事か?」
私の問いに二人は迷うことなく頷く。
「さっき他の一族についても簡単にまとめておいたんだ。残る一族は四つ…。〈心眼〉〈獣人〉〈狩人〉…そして〈神子〉の一族」
パラパラと並べられる紙には丁寧な字で今言われた中で四つの一族の名とその詳細が簡単に記されていた。
[〈心眼〉の一族
・人の心を読む一族。
・戦闘能力は突飛したものは特に無い…が、心を読むと言う点が非常に厄介。
・心理戦では敵わない。
〈獣人〉の一族
・動物や魔物の力を取り込み扱える一族。
・動物との会話も可能。
・魔物の力も扱える点から戦闘になると予測し得ない展開に持ち込まれる可能性あり。
〈狩人〉の一族
・別名エルフ
・視力が一段と優れて身体能力も多少優れている。
・回復能力も高く噂ではエルフの血はどんな病も治るとされており、闇ブローカーに目をつけられてる。
・一族の名の通り優れた視力や身体能力が少し厄介か。
〈神子〉の一族
・未来予知が出来るとされる一族]
と以上の文面が書かれていた。
最後まで読んで、私はまた首を傾げる。
「…この〈神子〉の一族についてはこれで終わりか?」
一文で止められた説明文。
他の一族の説明を見ると少々簡潔すぎて、正直に言うと拍子抜けだ。
しかし、シャルは私の疑問に目を彷徨わせながら…やがてしっかりと私を見据えた。
…まるでこれから重要な話をするかのような…少し重たい空気が私の周りを支配する。
シャルはゆっくり口を開き、発する。
「この〈神子〉の一族っていうのは…君のことなんだ、リナ」
「…は?」
告げられた言葉に、私は言葉を失う。
私が〈神子〉の一族。
衝撃的な話に、思考が停止する。
「君の疑問も分かるし、何も考えられなくなっちゃうのも分かる。でも今は、先に他の三つの一族について説明させて、…その後に、君についてもゆっくり話そう」
シャルの提案に、ゆっくりとした動きで私は頷く。むしろ願ったり叶ったりだ。思考を整理するためにも、私は彼の話に耳を傾けることにしよう。
「と言ってもほとんど書いてある通りなんだけど…〈心眼〉の一族は見た相手の心情、思考を読み取る事ができると言われてて、心理戦だと右に出る者はいないだろうね」
「…〈心眼〉ね…。元より嘘なんて付く気はねぇけど、この一族相手に嘘なんて無駄だろうな。駆け引きとかも難しい」
「思考を読まれるということはこっちの手札が相手に丸見えって事だからね。戦闘能力は特に目立ったものが無くても、相手にするには少しね。……次に〈獣人〉か…。この一族は動物との会話が出来る他に動物の能力、そして魔物の能力の《一部》を使えるらしい。魔法にも似たような物があるけど…それとは多分桁外れで、尚且使われる能力によっては面倒かも」
「まぁ大前提、一族の中でも優れてる奴とそうでないやつは必ずいるからな。優れた一族の奴プラス魔物の力も合わさるとなると…笑えないな」
「………最後に〈狩人〉。この一族は記述してる通り、視力がとにかく良い。これと噂だけど、マシンガンの玉すら見切れる位ほど動体視力も優れてるって言われてるね。そして元々この一族は人里離れて暮らす習性があるらしくて、そこで動物を狩ったりして生きてる事から〈狩人〉の名がついたって話。そして別名エルフに関してはブローカー内での隠語らしくてね。……〈狩人〉の一族は回復能力も凄いとされていて、僕ら〈守護〉の一族もそれなりに回復能力は高いけどそれ以上って言われてる…。そしてどこから来た話なのか、エルフの血は万能薬…って噂されてて、エルフの血。飲めばどんな怪我も病気も治るって、それ目当てにブローカーには目をつけられてる」
「その話は俺も聞いたことあるな…。というか数年前から闇ブローカーの動きが活発化してるっぽいな、エルフ問わず、《一族狩り》がされてるってよ。その中でも一番人身売買とかで高値で売り出されるのが〈狩人〉の一族、通称エルフ」
「…治安の悪い街に行くと嫌でも耳にするからね…最早隠語の意味が無いと思うんだけど…。にしても《一族狩り》ね。人身売買ってのも反吐が出るけど…。ブローカーに関しては〈凡〉だろうが関係無い。売れると判断され目をつけられたら最後。だから僕らも気をつけないとね…。と、こんな感じだけど、理解できたかな?」
一通り説明が終わり、再び優しい声色で問われる。
私は閉じていた瞳を開き、頷く。
「…あぁ、ありがとう。ある程度理解できた。色んな力を持った者がいるんだな…。今までの話を聞いた限り、二人共四つの一族には会ったことがない…と言っていたな、それでも結構詳しく感じたんだが…。それらも噂…か?」
「そうだね、真実かどうかはともかくそういう話は何処にでも転がってるから。色んな情報を手にして、自分で考えて見極めて取り入れる。世の中を渡り歩く為には必要な力だよ」
一族の話に限らず…と後から付け加えるシャル。
レンに目を向ければ肯定の意味で縦に首を振られる。
「他の一族に関しては、まぁ、置いといて。今の話で個人的にリナが気をつけてほしいのはブローカーの方かな…。君の性格を考えると…自ら突っ込んでいきそうだから…」
「あぁ…それは言えてるな。困った人は放っておけないからなお前は」
「うぐ…いや、だが…流石に引き際は…弁えてると…思うんだが…」
「口ではそう言ってても、あれだろ?体が勝手に…ってやつ。お前が…っていうより、他の奴の為に自分から巻き込まれるタイプだ」
「………」
図星過ぎて何も言えなくなってしまう。
今日の出来事の事も含めて二人は私に釘を刺してるのだろう。
「別に首を突っ込むことに関しては構わないよ。どんな状況に陥ろうと僕等が必ずリナを守るから。だから一人でどうにかしようとだけはしないで」
「お前が進みたいなら俺等はそれについてくだけだからな。それがどんな危険な茨の道だろうと、だから頼って欲しい」
「…分かった、約束は出来ないがな」
また、守る。
確かに私はこの二人よりも全然世間知らずで戦闘面でも役に立てるか分からない。
それでも少し………。
(なんと言うか…あまり気分良くは無いな)
悲しみや苛立ち?
自分でも表現しきれない感情。
しかし、出会ったばかりの彼等に、この思いを伝えるには少々勇気がいる。
そして今の私には、他に聞くべきことがある。
先程より気持ちは落ち着いている事を確認し、大きく深呼吸を一つ溢して、二人を見る。
「よし、気持ちの整理はついた。それじゃ聞かせてもらおう。その〈神子〉の一族…私の事について」
ハッキリと面と向かって告げれば、目の前の双子はキョトンとしたあと顔を見合わせ、笑う。
「男前だね、さっきまで困惑してたのが嘘みたい」
「ま、良い事だな。…それじゃ、準備も整ってるようだし…」
「うん、話そうか。ーーー〈神子〉の一族について」
月明かりが雲に隠れて、パチパチと燃える炎だけが辺りを照らしている。
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