第13話 現れた救世主
泳ぐのは楽しかった。
普通の運動と違い水の中では嘘のように体が軽い。
私は夢中で泳ぎを楽しんだ。
そのせいかスイミングクラブの人たちからは、うじうじしてるとか暗いといわれることはなく、楽しくおしゃべりもできた。
そして私の初めて親友と呼べる友達、姉御肌の鮎川知美と知り合ったのもこの場所だった。
楽しかった夏休みはあっという間に終わりまた学校が始まった。
でも私はこの夏休みで変わったんだ、大丈夫。
しかしそんな張りぼての自信はすぐに打ち砕かれた。
「お前、体が弱いとか言うわりに良く日に焼けてるなぁ。学校サボって、海にでもいってたんじゃないのか」
小学校が同じで、事あるごとに私をからかってくる有田という男の子。
学校が始まってすぐに彼はそういって私に絡んできた。
私はただ黙ることしかできなかった。
自分は変われたはずなのに……。
涙がでそうになるのを必死にこらえることが精一杯だった。
クラスメイトは聞こえているはずなのに誰も助けてくれない、むしろその状況をおもしろがっているようにさえ感じられた。
(もう、限界かも)
そう思った時世界が一変する出来事が起こった。
「お前こそ女子をからかっておもしろいのか!」
強い怒りの篭った声だった。
そして、一瞬なにが起こったかわからなかったが、自分が有田の呪縛から解き放たれたのを知った。
それと同時にかけられるやさしい声。
私はこの声の主を知っている。
(木下君、でもなぜ?)
「飯島、大丈夫か……」
木下君にお礼をいわなくては、そうおもうが顔を上げることができなかった。
少しでも顔を動かせば泣き出してしまいそうだったからだ。
でもそれはさっきまでの悔しさからではなく、戸惑いとうれしさの入り混じった安堵の涙だった。
それでも泣き顔を見られるのははずかしい、だからいけないと思いつつ木下君を見ることはできず顔を伏せたまま頷くしかできなかった。
その後木下君がクラスから去ったのをきっかけに急に緊張から解放され、大きく息を吐いた。
同時にクラス中の人が、話しかけてはこないが何かを探るように自分を見ているのを感じた。
そんなことがあったせいか次の授業中に一気に発熱してしまい、結局その日木下君にお礼をいうこともできないまま家に帰ることになった。
「明日ちゃんとお礼を言わなくちゃ」
しかし次の日あんな噂が流れるとは、この時の私は思ってもいなかった。
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