第十七話 策士策に溺れる


 子供しかいない秋のテーマパークにて、香夜は計画の練り直しを余儀なくされていた。


 夏のテーマパークで梨紅に邪魔をされ、作戦の第一段が失敗したので、第二段への移行 ──春のテーマパークにて実施予定──は、詠の判断にて秋のテーマパークにされてしまった。

 だが、香夜の心は折れてはいなかった。


 むしろ子供に戻ったことにより、あの頃の甘酸っぱい気持ちが蘇り、さらにやる気が出た香夜だ。

 ぐへへ。小さい頃の兄さんちょーキュート。無邪気な笑顔が堪らない。危うくショタコンに目覚めるところだった。あの邂逅にて香夜の脳裏には、子供な兄さんにエッチな手解てほどきをするJK自分目眩めくるめく展開が上映されていた。全然甘酸っぱくないし、やる気ではなくる気だった。

 そんな妄想を一欠片ひとかけらも表に出すことはせず、香夜は可愛らしく首を傾げた。

 

「レナ、どこで仕掛けるべきかしら?」


 香夜とレナの計画に秋は入っていなかったが、リサーチはしていた。


「第一段の巻き直しになるけど、お化け屋敷で吊橋効果を狙うのが良いと思う」


 確かに吊橋効果は良かった。梨紅に邪魔をされなければ成功していた自信がある。

 本日二度目だが、童心に戻ったことにより詠が警戒していないのも良い。


 脳内では昨日読み込んだ秋のテーマパークについて情報を洗い出していた。

 魔法で内部空間が拡張された超大型のホラーハウスで、泣き出す子供が続出。あなたは耐えられるかという記事が載っていた。

 さらにこのホラーハウスでは、探索の途中でグループがバラバラになるという強制イベントが発生する。

 とはいえ、初めから少人数(三人以内)グループの場合は起きない。四人以降のグループではペアごとに強制分断されて合流を目指すイベントがあるのだ。※奇数のグループは三人組ができる。狙うとしたらここである。怖がるふりをして絶えず詠の腕にしがみついていれば十中八九同じペアになれることだろう。


「どうする? また由希せんぱいを利用して提案させる?」


 香夜はしばし悩んだ。


「いえ、子供になった今なら別の方法がとれるわ」


 そう言うと、視線を梨紅に向けた。

 現在、みんなでハロウィンインベーダーのアトラクションをやってた。

 参加者におもちゃの武器──魔法銃や魔法のステッキが配られ、迫り来る空から迫りくるカボチャを撃ち落とすゲームである。

 色とりどりの光線がカボチャを撃退していく。

 何人でも参加でき、一定時間の撃退スコアを競うのだ。

 羽が生えて飛んでいる掲示板に、日間、週間、月間、累計のスコアが表示されている。

 みんなレコードを更新するのだと、はしゃぎながら遊びに興じている。


 ちなみに香夜とレナはカボチャを撃ち落とし、楽しく遊んでいるのを装いながら、作戦会議をしていた。

 梨紅などは香夜に勝負を挑み、絶対に勝つと意気込んでカボチャを撃ちまくっている。香夜は表面上はそれに乗っているが、こんなゲームの勝敗など心底どうでも良いと思っている。重要なのは、どちらが詠の心を奪うことができるかのラブゲームのほうだ。

 童心にかえっただけで、そんなことも脳裏から飛んでしまうなど、ちゃんちゃらおかしい。


 このカボチャインベーダーは、梨紅が、日間、週間のベストスコアを更新し、憎らしいほど勝ち誇った顔をこちらに向けた。

 香夜は、それに悔しがる真似をしながら、ある提案をした。


「ハロウィン・ホラーハウスで勝負です」


 先に怖がり悲鳴をあけだほうが負けというルール。


「いいだろう。まあ、今度もボクの勝ちは揺るがないだろうけどね!」


 香夜は内心で失笑した。

 そのゲームの勝ちは譲ってあげる。その代わりに詠をもらう。永遠に渡しはしない。


「香夜、ホラーハウスなんて大丈夫なの?」


 詠に引っ付いて甘えるため、昔から怖がりな演技をしている香夜だ。怖いものを苦手だと思っているので、心配して声をかけてくれる。


「……大丈夫! おにいちゃんが一緒なら負けないよ!」


 香夜は抜け目なく、怖いけど強がっているという演技をした。


「ならいいけど」


「行こっ!」


 詠の手を引いて、ホラーハウスに急いだ。



 ハロウィン・ホラーハウス。

 その見た目はおどろおどろしい古い洋館だった。

 それなりに人が並んでいたが、入口が複数あるようで、どんどん人がホラーハウスに飲み込まれていった。


 それほど待つことなく施設内に入るために誘導される。

 複数ある入口の一つに向かって歩く。そこに着くまでに、中から悲鳴が聞こえてきた。評判通りなかなか怖いようである。

 ちなみに案内する職員も子供だった。秋のテーマパークには、見た目が大人は一人もいないのだ。まあ中身は知らないが。

 

「本日は、当ホラーハウスにお越しいただき誠にありがとうございます。案内人のパンプキン・金時きんときでございます」


 カボチャの帽子をかぶった男の子がホラーハウスについて簡単に説明してくれる。


「当ハウスは、世界最新の空間拡張魔法が駆使されており、内部空間の延床面積はなんと402,000㎡、超大型ショッピングモール並みの広さを有しております」


 そのため複数のグループが一気に入っても施設内で、遭遇することはございません、と自慢気に告げられた。


 香夜はこの段階から、怖さで震える演技をしていた。詠の腕を掴んで離さない。梨紅がその様子を見てニヤニヤを隠さない。もうすでに勝ったつもりなのかもしれない。香夜は涙目で睨みつけておいた。

 そんなこんなで、もうすぐ入口というところで案内人から爆弾発言がされた。


「なんと、今日からホラーハウスの新企画が始まります!」


 ──ホラーハウスに入った瞬間、ランダムにペア決めされて、それぞれのポイントに飛ばされます。仲間と合流しながらゴールを目指してくださいね、と続けられた。


「「……え?」」


 思惑がはずれて、レナとともに愕然とした顔で案内人を見る。

 詠とペアになれなかったら、計画がおじゃんだ。

 いや待て、それよりも梨紅が詠とペアになってしまったら──


「それでは皆さま。いってらっしゃいませ♪」


「ちょっと待──っ」


 扉が開く。

 いきなり床が動いて、そのまま扉の中に全員放り込まれた。

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