第23話わたしとカレ㉓

あの時もそうだった。

課長と約束をしていた日、朝になって突然こっそり呼び出され


「ごめん、あゆみ。今日夜会えなくなった。」

「どうして?」

「え・・・と・・・実は娘が熱を出したらしいんだ。妻が一人じゃ大変だからって・・・

俺・・・家じゃいい夫演じてるしさ。悪いんだけどまた今度な」


そう言ってすたすたと行ってしまった。

分かってたけど・・・分かってたけどさ・・・

悔しくて悔しくてその日は全く仕事が手に付かなかった。


終業時間になり、そそくさと部署を出ていく課長を見て余計に苛立った。

何も予定がなくなった私はどこかへ一人で飲みに行こうかと考えながら会社の玄関付近に直人が携帯をいじってるのが見えた。


3人で会うのを断ってからというもの、直人にもみさこにも全然会っていなかった。


「直人!」駆け寄って声をかけると携帯を止め

「お!あゆみ!何か、久しぶりだな!最近食事に誘っても来ないってみさこが言ってたぞ」

私は一瞬心が淀んだが

「あ・・・最近忙しくってさ・・・今日も・・・みさこと?」

「・・・いや・・・何か残業になっちゃったらしいんだ。最近ちょこちょここーゆー事あるんだよな。メシ行こうと思ったのに」


それを聞いて久々に直人と二人きりになれる!と思った私は


「じゃあ、たまには私と行こうよ!」

「あ・・・うん・・・でもそしたらみさこにも言っておかないとだな。後で来るかもしれないし」

それを聞いてカチンと来たので


「実は・・・みさこに言ってないことがあって・・・私の・・・彼の事なんだけど・・・

直人には・・・男として意見を聞きたいんだけど・・・ダメかな・・・?私も、彼氏いるし、ね・・・?いいでしょ・・・?」

と可愛く演じてみた。直人は「しょうがねぇなぁ・・・」と言って渋々オッケーしてくれた。


その後は簡単だった。直人にひたすらお酒を飲ませて酔わせた。

何度かみさこに連絡を取ろうとしていたが酔っぱらった人間の携帯を奪うのは容易かった。念の為「女と一緒にいる」証拠写真も撮ったしね。


そう、元はといえばアンタたちが悪いんだ。

私を選ばなかった直人も、いつも外面のいい女を演じてるみさこも。

課長の事だって・・・アンタたちのことがなければ。


だから私はあの二人をめちゃくちゃに壊してやろうと思った。

酔っぱらった直人をお店の外に連れ出すのは大変だったが、何とかホテルに着き、

直人は寝ぼけてみさこと勘違いし、私を抱いた。


私の中の悪魔が笑っていた。

・・・だけどどこか虚しかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る