第14話わたしとカレ⑭
さんざん泣いた後、私は午後の業務をこなした・・・はずだ。
自分の部署に戻った時に戻るのが遅いからと周りに不思議そうに尋ねられたが
適当に理由を言うと、それ以上何も聞かれる事はなかった。
終業時刻になると直人からメールが入った。
‶今日、一緒に帰れるかな? 直人〟
今日はそんな気分になれなかった。
‶ごめん。今日は用事があるから、また今度ね。 みさこ〟
それだけ送ると私はすぐさま帰る支度をした。またメールの着信が入っていたが、直人だと分かると見る気になれなかった。
どうにか家へ着き、電気をつけるとまたあのおじさんがソファーでいびきをかいて寝ているようだった。
私はソファーの正面に向かって文句を言おうとおじさんを見ると言葉が出なかった。
昨日よりも、会社にいる時よりも、おじさんの体も布切れもボロボロでさらに汚くなっていた。それを見て驚きつつも
「ちょっとおじさん!そんな汚い恰好でソファーで寝ないでよ!」
おじさんは目を開けるとふぁ~っと大きなあくびをしてこちらを見た。
「どうしてまたいるんですか!?それに!何でまた汚くなってるんですか!?
悪いけど本当におじさんに構ってる暇はないんで、さっさと出てって下さい!!
本当に・・・迷惑なんです!!」
大分強く言ってしまったが、おじさんはしばらく黙った後
「・・・それだけ思ってることを俺に言えるのに、何で彼氏やあゆみっちゅう女にはハッキリ言えへんのや?ホンマは思ってる事むちゃくちゃあるのに・・・我慢しとるのしんどないか・・・?」
「だから・・・ほっといて・・・下さい!私の・・・問題ですから・・それに・・・
私さえ・・・我慢すれば。それに・・・私にも・・・悪い所、たくさんあったみたいだし」
私は溢れそうな涙をぐっと堪えつつ、声は震え、その場に座り込んだ。
「何でねーちゃんが全部悪いっちゅー事になるねん。確かに、自分の悪い所を認めることは大事なことや。せやけど自分の気持ちにウソ付いたまま一生生きてくんか?
あゆみっちゅう女とも、彼氏にも、ねーちゃんがホンマに相手の事見てへんし、向き合おうとせんから離れてしまってるんとちゃうか?」
おじさんは、恰好こそ汚いがその目にはとても力強さや信念があるように見えた。
「あゆみっちゅー女にも言われたやろ?誰にでもいい顔すなって。それはアンタの本当の気持ちが分からなかったんとちゃうか?本当は思ってる事はめっちゃあるのに、それをずっと隠してる。彼氏にもそうやったんとちゃうか?もう一度、自分の気持ちに向き合ってみたらどうや?」
私は、何も言えなくなっていた。あぁ。確かにそうかもしれない。
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