第22話 Take the devil 7



「おいおいおい、竜騎士のヤツしくじったのかよ!」


スパイクの入った鉄製の巨大な棍棒を持った戦士が地面に静かに横たわる竜騎士の遺体を見ながら言った。


「体も完全に冷たくなっている。死後、数時間経っているわ。

 傷跡一つ無いわね。魔法かしら?」

真っ赤な修道服を着たシスターが竜騎士の体を触りながら答えた。


「辺りに争った形跡一つ無いわ。ドラゴンも戦う間もなく倒されたということね。

 一人で行かせるべきでは無かったわね」


白銀の鎧を纏った金髪の女勇者が答えた。


「おいおい、マジかよ! 竜騎士のヤツ、性格はアレたが一瞬にしてやられるほど弱くはなかったろう!」


「竜騎士とドラゴンを一瞬にして葬る事が出来るヤツがいるということね。

 アイツの言うとおり、警戒しておいたほうがいいわね」


「勇者、これからどうするのです?」

シスターが聞くと


「一度、ヘルザイムの城まで戻ってアイツにワープゲートを開いてもらった方が良さそうね

 ワープゲートがあれば先回りできるでしょう」


竜騎士の冷たくなった遺体を見ながら勇者は言った。

シスターは竜騎士の手を胸の上で組むと手刀で五芒星を斬るとしばらく黙祷を捧げた後にマジックバッグを取り出し竜騎士の遺体をしまった。




^-^-^-^-^-^-^


「ダメだな~ 上空の風が強すぎて空を飛ぶのは危険だ。

 時間も丁度いい。あそこで飯食ったら地べたを走る」


男は幾つか点在する林の一つを指差した。

ライザを荷物のように肩に担いだままゆっくりと林の一つに着陸した。

昨日の荒野とは異なり点在ではあるが緑を目にすることができる。

かつてこの辺りは緑が生い茂る大地だったのか、それとも荒野に緑が戻ろうとしているのか?

ただハッキリしているのは荒野の乾いた風とは違い多少なりとも水分が含まれていることだ。


空を見上げたとき太陽は真上に来ていた。

朝に家を畳み数時間が経過していた。

デブーとガーリはマジックバッグの中に入ってもらい休んでもらう事にした。

夜など見張りが必要なときに呼び出す事にした。


しばらく林の中を歩き


「この当たりでいいだろう」


とライザを降ろしアウトドア用の折りたたみ式・ピクニックテーブルをマジックバッグから取り出しセットした。

大量のカレーが入っている寸胴を出し、炊き立てのご飯が入っているおひつを取り出した皿によそる。

おかずにスパイシーロック鳥とトレントと世界樹の葉で作ったサラダをテーブルの上に置く。


「さぁ~喰うぞ! ライザ! 手を洗え! ウォーター!」


と言うと右手の指先からちょろちょろと水が出てくる。

ライザは何も言わずに黙って手を洗った。


「俺のカレーは超絶旨いぞ!

 カレーだけは誰にも負けない自信があるんだ。食え喰え!」


男は椅子に座り両手を合わせ


「いただきます」


と言うとライザが


「それは何? 何かのおまじない?」


「これか!?これは俺の故郷の教えといえば良いのかな?

 料理を作った人、材料となるものを作った人、材料になった生き物や植物などに対する感謝の言葉だ」


「変な風習ね」


「まぁ~そうかもしれないな。俺の世界でもこんな事をする民族は多くはいなかったからな。

 この世界では、こんな風習は無さそうだな」


「私たちの世界では弱いものが強い物へ奉仕をし、弱いものは奪われる運命にあるから。弱肉強食よ!」


「まぁ~大体の世界は弱肉強食だな。俺たちの世界でもそうだったが・・・・・・

 俺は弱肉強食より焼肉定食の方が好きだけどな!」


「馬鹿じゃない! 何言っているのよ!」


とライザは一瞬、そっぽを向いたが向きなおし


「人間! お前、寂しがりやらしいな」


「お、お、お前、誰に聞いたんだよ!」


男はいきなり振られ焦った。


「な、わけねーだろ! とっとと喰え!

 喰い終わったらデザートでも出してやるからよー」


ライザは何も言わず、頷きもせずにスプーンに乗せたカレーを食べる。

口に入れ咀嚼した瞬間に目を見開いた。

口の中にカレーの辛さ、うま味が広がりすべての味覚を刺激する。

慌てて顔を上げると目の前の男は勝ち誇った顔をしていた。


「ムカつく!」


「旨いだろ!」


「お前の顔を見た瞬間すべてが不味くなった!」


「強情なお姫様だな~」


「フン! 人間のクセに生意気な奴だ!」


と言うと顔を背け黙々とカレーを口にした。

男はクスっと笑った。

(可愛いもんだ!)




食べ終わる頃合をみて男は袖の下に手を入れ透き通った袋に一つ一つ梱包された物を取り出した。

その中には薄茶色で表面が少し凸凹しており少し潰れた球状のモノが入っていた。


「これはこうやって」


と言うと男は器用に透き通った袋を破り中身を取り出した。

「男なら齧り付いてもいいんだけど女はこうやって」


と言うと二つに割って一つをライザに手渡した。

中身は黄色いクリーム状のものが入っていた。

男はそれを口にした。

ライザもそれに習い口に入れる。


「甘い!」


今まで口にした事のない甘さだった。


「何だこれは!」


「シュークリームと言って俺の世界では人気のお菓子さ」


「人間界にはこんな物があるというのか?」


「いや、俺が産まれた世界だ。俺はこの世界の住人では無いのでな」


「何を言っているんだ? お前は! 夕べもお前の悪魔達が変な話をしていたが世界は一つしか無いだろ!」


「いや、無限に有る。見えないだけであって無限に世界はあるんだよ。

 ライザのすぐ後にも世界が広がっているんだよ」


と男が言うとライザはハッとした顔をして後ろを振り向く。


「振り向いても見えないぜ」


「お前は私をからかっているのか?」


「いや、マジメな話しさ」


「お前は見えるのか?」


「見えるわけないだろ! 作り話だから」


「お前!! ムカつく!! もっと寄こせ!」


男は袖の下に手を入れ新しいシュークリームを取り出した。


「今度は中身がカスタードと生クリームになっているヤツだ。

 俺は欲張りで2色シュークリームの方が好きなんだよ」


テーブルの上に置いたし新しいシュークリームを先ほど男がやって見せたように透明の袋を上手に破り口に入れた。


「こっちの方が好きかも!」


「だろ、生クリームが有ったほうが美味しいだろ」


ライザは2色シュークリームを食べながら男に聞いた。


「お前は人間なんだろ。昨日の黒騎士が言うように、何故、私を人間に引き渡さない?

 私を人間に引き渡せば手柄も褒美も思うままだろ。 

 200年前は人間側で戦っていたのだろ?」


「まぁ~前回は人間側だったが、今回は魔族側というよりヘルザイムに雇われたからだ」


「人間を裏切ってもか?」


「裏切るも何も今回の雇い主がヘルザイムだからな~

 この世界の人間とは関係無い」


「雇ったと言うけど、お前を雇うのにはどうすればいいんだ?」


「なに?俺を雇ってこの世界でも征服する気か?

 俺を雇いたければ、これを手に入れるしか無いな」


と男は言うと袖に手を入れ拳大の赤い玉を取り出しライザの前に置いた。

ライザは手に取り眺めた。


「これは何だ?」


「俺は勝手に『欠片』と言っている」


「何のためにこれを集めているんだ?」


「俺の願いをかなえるためだな」


「願い?」


「そう。願い」


「お前の願いとは何だ? まさかお前が言う『ありとあらゆる世界を征服する』とかなのか?」


「おいおい、止めてくれよ! 世界征服なんて暇人のすることだ!」


「じゃ何が望みなんだ?」


「お子ちゃまには分からないことさ」


「ムカつくーーーー!!」


と言うとライザは立ち上がると欠片を明後日の方向へ力一杯投げつけた!


ピューッッと凄い音を立てて欠片は飛んでいった。


「うわーーー! バカ野郎! 何てことするんだ!!」


男は立ち上がり玉が投げられた方へ飛んだ。

そして、テーブルの方を振り返るとライザが魔王城のほうへと飛空魔法で飛び去って行った。


「あ~~クソ~~!!!」


と空中で頭を一度掻き毟るとライザの後を追った。


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