第21話 Take the devil 6


「パパ・・・・・」


ライザは与えられた部屋のベッドに横たわり窓から外を眺めた。

が、見えるのは土で出来た壁だけだった。

この部屋はかつて男の妹が使っていた部屋で暖色で統一され、縫いぐるみなどを初め女の子らしいファンシーグッズが多数置いてあった。

ライザにとってすべてが珍しい物だった。が・・・・

それを一つ一つ確かめる気にはなれなかった。

そして、天井を見ながらヘルザイムとの思い出が思い出される。

ライザの母はヘルザイムと同じ悪魔族だと聞いた。

ライザを産んだとき母は亡くなったそうだ。

甘やかしに甘やかすことしか出来なかったがヘルザイムは男で一つでライザを育てた。

我が侭ではあるが母に似たのか周りの者を労わる気持ちに溢れ、優しく思いやりがある子だった。

お付きの魔族たちからも愛され大切にされていた。


「パパもいない・・・・・周りの人たちはどうなったのかな」


とポツリと呟いた。


「眠れない」


体を起こしベッドから降りドアノブを握り回すと扉が開いた。


「鍵が掛かってない・・・・閉じ込める気は無いのかしら」


廊下を出ると隣の部屋から


「グーピーーーー!! グーピーーーーー!!」


とイビキが聞こえてくる。


「うるさいわね! 下品!!」


階段を降り一階へ向かうとリビングから話し声が聞こえてくる。

太った男と痩せた男が談笑しながら見たことの無い酒を飲んでいた。

食事のときにあの男が紹介してくれた悪魔だった。

普段は人間の格好をしているが、あの人間曰く


「二人ともヘルザイムより強いぞ!」


ということらしいがパパより強いなんて有り得ない。

魔族界でも歴史上最強の強さを誇るパパより強いなんて有り得ない!

そんな強い魔族が弱い人間なんかに付き従うわけが無い。

痩せた男が気がつくと


「ヘルザイムの娘、どうした?」


それに続き太った男が


「眠れねーのか? こっちへ来い! ココアでも炒れてやるぜ!」


と言うと太った男は立ち上がりキッチンへ行った。


「ここに座って待っていろ」


痩せた男・・・確かガーリがテーブルを指しながら言う。

テーブルには椅子が4脚ありその一つを引いて座る。

テーブルの上には色々な見たことのないオードブルらしきものが多数、並んでいる。


「お前も喰え! アニキが作ったものだから格別だぞ」


「『お前』じゃない。ライザ! ライザと呼べ!」


「おおそうか、ライザ、食え喰え! 見たことのない珍しい料理ばかりだろう! アニキの料理を喰えるときに食っておいたほうがいいぞ!」


確かにどれも見たことのない料理ばかりだった。


「俺たちは色々な世界を巡っているから、ライザの知らない料理だらけだと思うぞ」


ガーリが小皿に色々取って目の前に置いてくれる。

食べようと思うがフォークが無い。

あるのは2本の細い棒だけだった。

あの男とこの男たちは器用に2本の棒を使って挟んでいたが私にはそんな真似は出来ない。

それに気がついたガーリは


「おい、フォークを寄こせ!」


太った男に言うと太った男は背中を向けながら右手首だけでピュッ!という感じでフォークをガーリに向け投げる。

それをいつものことという表情でガーリは受けると私の前に置いた。

少し水分を含んだピンク色の柔らかい物をフォークで刺し口の中に入れた。


(魚類?)


口の中に燻された風味が広がる。

肉質はどこまでも柔らかく噛むごとにまろやかな味と燻された風味が広がる。


「それはスモーク・リバイアサンだ」


え!リバイアサンって海の支配者と言われる巨大な魚の魔物!


「こうやって、ドリアードの実の酢漬けを中に入れて喰うと旨いぞ!」


というと種を入れた後、2本の棒で綺麗にスモーク・リバイアサンを丸めて小皿に取り分けてくれた。

それを口の中に入れるとさっきの味にすっぱさと辛味が加わりより一層複雑な味になる。


「おいしい」


思わず口に手を当てて言ってしまった。

さぞマヌケな顔をしていたことだろう。


「だろ!?」


ガーリがしたり顔をする。


「お前たちはリバイアサンをどうやって手に入れたのだ?」


「どうやてって、狩ったにきまってるだろ。

 色々な世界を回ってもリバイアサンなんて、簡単に売っているわけないだろ!」


「このリバイアサンは海にいる巨大な化け物だろ!」


「お前は何を言っているんだ! 小さかったり、陸にいればリバイアサンとは言わないだろ」


「お前たちは、海にいる巨大なリバイアサンを狩ったのか?」


「そうだが、まぁ正確に言えばアニキ一人でほぼすべてのリバイアサンを狩ったけどな」


「そうそう、俺とガーリじゃ水中は分が悪いからな。 

 あのときは100匹くらい狩ったんじゃないか?」


デブーがココアを持って戻ってくると私の前にそっと置いてくれた。


「100匹もいる世界があるのか?」


「なんつったかな? アクリー? アークなんとか」


「アクアリーだ。人魚達からの依頼だ」


「そうそう、一面、水の世界でな。俺たちは水中戦は得意じゃないから大変だったぜ!

 空からアニキの援護していた方が多かったけどな」


「一応、俺たちも単独で数匹退治したけどな」


「あの男、そんなに強いの?」


「強いと言えば強いのかもしれないなが・・・」


ガーリが答えると


「アニキの強さって殴る蹴るとかの強さじゃないからな、判断が難しい。

 が、死ぬことは無いから・・・・・最終的には勝つというのが正解かもな。

 死ななければ何度もリベンジ出きるだろ。

 最強の剣士でも数千回戦っていれば疲れるだろ。

 最高の魔道師でも何れはMPが尽きるだろ。

 そのときを狙ってグサッと!」


「まぁ~物ぐさのアニキのことだから、その前に即死魔法・デスクリムゾンを使うだろうが」


「デスクリムゾンって竜騎士がいきなり倒れた魔法?」


「なんだ、ライザは見たのか」


「デスクリムゾンって言ったら竜騎士とドラゴンがいきなり倒れたのよ」


「アニキと竜騎士は剣の打ち合いはしなかったのか?」



「いきなり魔法を撃ったわ」


デブーの問いにライザが答える。


「珍しいな、最近、アニキはデスクリムゾンをあまり使わないのだがな」


「あの竜騎士がパパを侮辱するような事を言ったのよ」


「あぁ~なるほど、アニキはそれで頭に来たんだろうな。

 アニキはヘルザイムの事を高く評価していたからな。

 ヘルザイムを馬鹿にされて不快だったんだろうな」


「パパの事をよく知っているみたいだけど、何故?」


「兄貴から聞いてないのか? 俺たちは2,300年くらい前に、この世界に来たことがあるんだ。

 そのときの四天王と八大将軍を始め、主だったヘルザイムの配下をあの世に送ったんだよ」


「いや、一人だけ見逃したはずだ! ペンギンみたいなヤツを」


「ペンゴ?」


ガーリの問いにライザが答えると


「あぁ~~そんな名前のヤツだ!

 アニキが戦い方が騎士道だか武士道精神に溢れてとか言ってと止めを刺さなかったはずだ。

 あのペンギンは今どうしている?」


「引退して魔属領に戻っているわ。今は息子のペンザが後をついで四天王の一人になっている」


「ほーーあのペンギンにも息子はいたのか」




「ねぇ~さっき、あの男が死なないって言ったけど、どういう意味よ!」


デブーの答えによく分からないという表情で疑問を呈した。


「その言葉の通りだ。アニキは死なないんだよ。

 より正確に言うなら『死ねない』というのが正しいんだがな」


「死ねない?!」


ライザは思わず呟いた。


「え!?どういうこと?」


「そのままの意味だ。詳しい事はアニキに聞いてみればいい。


デブーが答えるとガーリが続けて


「それで、アクアリーの話しには続きがあってな・・・・・悲惨な結末を迎えたんだよ」


「悲惨!?」


「そう。さっきも話したがアクアリーというのは陸地がほとんど無い一面水の世界だったのさ。

 そこに住む人魚たちはリバイアサンに食べられ数を減らしていったのさ。

 人魚の女王が俺たちにリバイアサンを1匹残らず退治してくれと依頼されたんだ。

 が、アニキは全部殺すと生態系が崩れすぎて何かしらの環境破壊を起こすかもしれないから数匹は残しておけと忠告したのだが女王はアニキの話を一切聞き入れずに一掃が条件でな・・・・アニキは根絶だけは止めておけと何度も忠告したんだがな~」


「あの女王が人魚たちがリバイアサンを憎むのも分かるんだけどな・・・・

 アニキは依頼どおり一掃してな・・・・・その、数百年後くらいにアクアリーへ行ったら・・・・・

 アクアリーは砂漠の星になっていたんだ」


「砂漠! 水の星が?」


ライザは驚いた。


「そうだ。砂漠になっていた。

 リバイアサンが水を司る精霊の役目をしていたのかもしれない。

 他に何か原因があったのかもしれないがリバイアサンが100匹もいるなんて普通じゃないだろ。

 まぁ、俺たちには関係の無い話だ。

 アニキは忠告したし、依頼どおり全滅させたのだからアニキが気に病むことは無い」


「俺たち悪魔から見ると言われたとおりの事をしただけだが、アニキは残念がっていたけどな」



「「根は優しい人なんだ」」


と二人の悪魔は声を揃えて言った。


「根が優しすぎてな。優しすぎて、やさぐれちまったんだよ!ハハハハハ」


「あれでもアニキはデリケートだからな!」


「デリケートで優しい人だが『善」じゃないわな~」


「俺たちに影響されて『悪』になったのかも。ハハハハハハ」


「いやいや、昔から『悪」だぜ!」


「今は『超~極悪』だけどな!」


「「ハハハハハ」」


と二人の悪魔はマジメに聞いているライザをそっちのけ無責任に笑った。



「あんたたちは何故、あの男に付き従っているの? 使役されているの?」


「違う、違う。俺たちの意思だ」


ガーリが答えると続けてデブーが


「アニキは寂しがりやなんだよ、ハハハハハ。

 俺たちがいないと寂しくて泣いちゃうんだよ、ハハハハハ」


「そうそう、俺たちの慈善事業だな。ハハハハ!」


と二人は再度無責任に笑うとテーブルの上に用意された肴をつまみに酒を飲んだ。

 


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