第23話 Take the devil 8


「あのクソガキ!! 何してくれるんだ!」


男は怒気を発しながらも空に舞い上がり飛んだ。

ライザの後を追いかけるがなかなか距離は縮まなかった。


「ガキのクセに速いな! さすがヘルザイムの娘といったところか」


リーンリーン!


男の胸に入れてある携帯電話が鳴った。

取り出し折りたたみ式の携帯電話を開くと、そこには小学校高学年くらいの子供が写っていた。


「お主! 妾じゃ。 何故? 反対方向へ戻っておるのじゃ?」


「ヘルザイムの娘が城の方へ逃げたんだ」


「何をやってるんじゃ! まぁ、良いのじゃ! 

 それより、シーカーとシンクロさせた水晶に面白い物が写っていたぞ。

 お主の前方に200くらいの魔物の一団がおるぞ!」


「ヘルザイムの残党か?」


「かもしれんが敗残兵としては士気が高そうに見えたのじゃ。注意しておくにこした事はないぞ」


「ありがとう。おばば」 


(面倒な事になりそうだな・・・・)


男はライザに追いつくためにさらにスピードを上げた。

目の前100mほど前を飛ぶライザが急に地上へ向け降下を始めた。

ライザが地上に降りた先には見た事が無い一人の魔族が右手で左肩を押さえ地面に蹲っていた。

ライザはその魔族を気遣うように近寄り痛めている箇所に手をかざし回復魔法を掛けている様子だった。

男は二人の側に静かに着地した。

傷ついた魔族は、頭部に2本上に伸びた赤い角に少し浅黒い肌で、これまたエロイ・・・・いや露出の激しい革のような素材で作られたビキニにマントを羽織っていた。


「ガーベラ! 大丈夫?」

ライザは膝をつきエロイ、いや、露出の激しい女魔族に声を掛けた。


(ガーベラ? どこかで聞いた記憶が・・・・・あっ!!ヘルザイムの言っていた魔法を得意とする奴か!)


「ガーベラ、どうしたの?誰にやられたの? 人間?

 パパはどうしたの?」


「魔王様は・・・・・・」


「パパは!!!???」


「ま、魔王様は・・・・・ペンザにやられました」


「エッ? ペンザが!! 嘘!! ペンザがパパにそんなことするわけ無いじゃない!」


「ほ、本当です! ペンザが裏切りました! 勇者たちと内通していたようです」


「うそ! うそ!! ペンザは私が小さいころから・・・ずっとずっと仕えていたのよ!」


ライザは子供のころに遊んだ多くのことを思い出していた。


「勇者と対峙している時、魔王様を後ろからグサッと一突きに・・・・・・

 そして、私も・・・・不覚です」


「まさかペンザが! ペンザは聖騎士なのよ!!」


(ペンザってあの先代の四天王のペンゴの息子だったよな。巨大なペンギンのクセに親父は聖騎士の職に付いていたからな・・・・・・息子も騎士道がなんちゃらとか言っていたよな~)

とペンゴとペンザのことを思い出した。


治療が終わるとガーベラは立ち上がりライザに声を掛けた。


「ライザ様! 私と一緒にゼンセン城へお戻りください。そして軍を建て直しペンザと勇者に復讐を!」


「分かってる! 私もパパのお城に戻るところだったの」


「では、私と一緒に!」


「ハーーイ! ちょっと待った! エロイ格好のお姉さん!!

 俺はヘルザイムからこの我がままお姫様を魔族領へ連れて行ってくれと頼まれているんで、ハイそうですか!とライザを行かせるつもりは無い」


男はライザとガーベラの会話に割り込んだ。


「何だ!人間!! お前は関係無い! 殺されたくなければ失せろ!」

ガーベラが目を見開き睨みつける。


「エロイ姉ちゃん! そう言われてもヘルザイムとの契約だからな! ライザを渡すわけにはいかない!」


「黙れ!人間!! ライザ様、こちらへ」


ライザは一瞬、迷ったがガーベラの方へ歩いていった。


「ライザ! 俺はヘルザイムとの約束があるので、こっちにきてもらう」


ライザの手を掴もうとしたとき、ガーベラが虚空庫から小型のステッキを取り出し男の手を遮った。


「人間! ライザ様の意思だ! お前の用は済んだ! すぐに立ち去れば命だけは助けてやる」


「そうはいかない! ライザを連れて行きたければ俺が魔族領に送ってから連れ出せ!

 一度、魔族領にさえ送ればヘルザイムとの約束は果たされる」


「それでは時間が掛かりすぎる。今すぐ報復する!!」


男は頭をかきながら言った。


「お前はペンザが裏切ったと言ったが俺にはあの脳筋ペンギンが裏切るとは思えない。

 これでもアイツの親父とは何度かやりあったことがあってな」

 


「ペンゴ殿は50年以上前に前線から降り魔族界におられる!

 貴様はどう見ても20歳そこそこでは無いか! お前こそが嘘をついている!!」


「こう見えても楽に1万歳は越えているんだよ。

 お前のような小娘なぞより遙か年上なんだよ」


というとガーベラは一瞬目を拡げて驚いた。


「ペンゴほど正々堂々とした戦いをする奴は見た事が無い。

 そんな親父に育てられた息子が後から主君を刺す姿が想像つかないんだが?」 


「私が嘘をついているとでも?」


「まぁ~そうなるな。で、お前は一人で逃げてきたのか?」


「そうだ! ペンザの奇襲を喰らって私の部隊もほぼ全滅だ! ペンザめ! 許さない」


目の前でビキニにローブというサービス満点の女魔族が拳を握った。


「じゃ、お前の後方にいる部隊はお前とは関係無いんだな! ヘルフレイム!!」


と言い終わらないうちに左手を前に突き出すと袖の中から灼熱の火の玉が飛び出し、男の前方、ガーベラの後方4,500mに飛んで行く、そして、着弾した瞬間に火柱が上がった。

火柱とともに魔物が吹き飛んだのが見えた。


「止めろ!!」


ガーベラが叫ぶ。


「おいおい、何故止める? お前が知らないと言うことはペンザの追っ手じゃないのか?

 その傷はペンザにやられたんじゃないのか? 放置しておくと、お前は殺されるんじゃないのか?

 じゃ、止めにもう一発! 今度はもっと大きいヘルフレイムでも!」


と左手を男の前方に伸ばしたとき


「サンダーアロー!」


ガーベラは魔法を撃ってきたが、魔法は袖の下へと吸収された。


「おいおい、ガーベラさん! 何故、俺に攻撃をかける?

 お前を助けるためにヘルフレイムを撃とうとしたんだけどな~

 どういうことか説明してくれないか? それともお前の子分達か?」


ガーベラは何も答えず再度サンダーアローを撃ってきた。

男は左手を前の出し袖の下に仕込んであるマジックバッグが何事も無かったように吸収した。


「図星かい?」

と言うと口元が嫌味たらしく笑った。


「フン!」

それを見てガーベラも一瞬、眉間にシワを寄せながら鼻で笑った。


「ウインドアロー」


「はーーい! ゴチになります!!」

と左手を突き出しマジックバッグが魔法を吸い込んだ。

相手から見ると吸い込むというより、あまりの速さに左手の平で対消滅したように見える。


「エロっぽい姉ちゃん、俺に魔法は効かないぜ!」


「ならこうするまで!」


虚空庫から片手サイズの両派の剣を取り出した。

その剣は怪しい色を放っており一目見て魔剣のたぐいであると言うことがわかった。


「おお、なんか怪しそうな剣だな」


「フフフ、分かるか? うぐ!」


ブサ!


男はどこからとも無くナイフを呼び出しガーベラ目掛け投げつけた。

ガーベラは足から崩れるように静かに倒れた。


男が投げたナイフはサックブラッド・ナイフといって刺さった瞬間に大量の血を吸うアイテムだった。

このナイフは男が始めて異世界へ召喚されたときに、女神さまから授けられたチートアイテムだった。


「ガーベラ!!」

ライザはガーベラの下に駆け寄った。


「ガーベラ! ガーベラ!!」

もう二度とガーベラが動く事は無かった。


「殺すこと無いじゃない!! 人でなし!!」


「魔族に人でなしと言われる日が来るとはな~」

男は苦笑いをした。



ドダドダドダ


けたたましい音をたてへフレイムを撃ち込んだ方向から砂煙を上げなら集団が近づいてきた。

50を超える魔族たちが男の目の前に現れた。

(おお、けっこう生き残っていたな)


「ガッ ガーベラ様!!」

「ガーベラ様!!」


トラや豚、ゴリラのような魔族が倒れているガーベラの下に駆け寄る。

そいつらは全員、角が生えていた。


「貴様か! 貴様がガーベラ様をやったのか?」


「俺の邪魔をするので消えてもらった」


「貴様! 許さん!」


トラの魔族が拳を振り上げ殴りかかってきたが男はスッと身を切り返し足を引っ掛けトラの魔族を躓かせた。


「おいおい、止めておけ! お前らの主を瞬殺したんだぜ。

 子飼いのお前らが敵うわけないだろう?」


「死ねーー! 人間!!」


今度は豚の魔族が棍棒を振り上げながら迫ってきた。


「チッ! 面倒だな。 バースト・ネガティブ!!」


男はバックステップでかわし左手を前に突き出した。

自分の前方にいるすべての魔族に対し魔法を掛けた。


「「「うわーーーー」」」

「「「ウグッ!!」」」

「「ギャーーー!」」


ある者は仰向けになって倒れ

ある者は膝を屈しうごけなくなり

ある者は地面をのた打ち回る

ある者は奇声を発し続けた。


「おぉぉ~ 効果てき面! まさか魔族にもこんなに効くとはな~

 ガーリのしたり顔が浮かぶぜ!」


この魔法は悪魔のガーリが編み出した拠点を無力化する魔法だった。

相手に負の感情を増大させ戦う気力を奪い取る魔法だった。

男は人間相手に町などを無力化するときに使っていた。

が、魔族など対魔耐性のある者に使った事は今まで無かった。

だいたい魔族相手には殲滅系の魔法を行使することが多かった。

なぜなら魔族に対する人間は魔族の殲滅を望むことが多かったからだ。


「止めろ人間!! あいつらは私の同胞だ!」


「お前の親父殺しの犯人の部下でも止めるのか?」


「そ、それでもだ!」

ライザは男を睨みつけながら強く言った。


「安心しろ!2、3時間もしたら魔法は解ける。さぁ~行くぞ!」


「止めろ!!」

と男の手を払うが男はライザにお構いなく荷物のように担ぎ空を飛んだ。


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