7-4 暴食令嬢は竜の怒りを見る
「ブランシェ嬢に一方的に罪をなすりつけようとしているのは、これらの情報から予測ができる。騒ぐな、耳障りで仕方ない」
深く息を吐きだし、ヴォルフラムは言葉を発する。
つい先ほどまで声をあげていたチェルニーだったが、今は何の声も発せずにいた。
目を見開き、唇をわななかせ、ヴォルフラムを見つめている――真っ青を通り越して、真っ白にも近い顔色で。
「何かを知っている、何かをしたことはほぼ確定だと俺は見ている。ベルニエ家にも黒い噂があるのなら、これから先の付き合いを考え直す必要があると判断した。……主張は牢の中でしてもらおうか」
ヴォルフラムの手が、動く。
「俺の客人であり宝であるブランシェ・シュネーフルールを犯人に仕立て上げようとした、お前の罪は重い」
その言葉とともに、彼が指を鳴らした。
ぱきん。鳴り響いた音に反応し、光の粒子が宙に舞う。
ブランシェが一つ瞬きをした次の瞬間には、瞬きをする前は何もいなかった場所に武装した兵士たちの姿が現れていた。アーヴィンドがしていた転送魔法と同じようなものなのだろう。
呼び出された兵士たちは混乱する様子もなく、チェルニーを拘束する。
チェルニーはいまだにブランシェが犯人であると繰り返し主張しているが、その声も兵士たちの足音が遠ざかっていくにつれて聞こえなくなっていく。
まもなくして、廊下にはヴォルフラムとアーヴィンド、そしてブランシェと様子を見に来ていた使用人たちだけが残された状態になった。
先ほどまで満ちていた剣呑な空気も和らぎ、少しずつ元の穏やかさを取り戻しつつあった。
「さて。騒ぎは終わりましたよ! みんな元の仕事に戻ってください」
アーヴィンドが手を数回叩き、その場に残された使用人たちへ指示を出す。
彼の声と手を叩く音ではっと我に返ったような顔をし、使用人たちはぱたぱたとそれぞれの仕事に戻っていった。
ヴォルフラムの腕の中でぽかんとした顔をするブランシェへ、アーヴィンドが視線を向ける。
「シュネーフルール嬢もお疲れ様でした。突然のことにさぞ驚かれたでしょう」
「え、ええ……まあ……」
突然大声で呼びかけられて、濡れ衣を着せられそうになったのだ。いきなり巻き込まれて驚かないのは少ないだろう。
ブランシェの背中に回されているヴォルフラムの手が、幼い子供にそうするかのように背中をぽんぽんと軽くさする。
「アーヴィンド、あとは頼む」
「承知いたしました。陛下はシュネーフルール様のケアをお願いします」
「いわれなくても」
「あ、あの……陛下、ディリアス様……?」
ブランシェを置いてけぼりにして、ヴォルフラムとアーヴィンドの間で短い会話が交わされる。
一体全体何が起きているのか上手くついていけず、ブランシェはただ目を白黒させるしかない。はたはた数回瞬きをして、何度もヴォルフラムとアーヴィンドの顔を見比べるばかりだ。
そんなブランシェの手を優しく握り、ヴォルフラムが視線を向ける。
「ついてこい」
たった一言。
それだけを口にして、ヴォルフラムはブランシェの手を引いて歩き出した。
立ち止まっていた状態から手を引かれ、ブランシェの身体が前方へ傾く。転倒を防ぐために自然と片足が前に出て、そのあとはヴォルフラムに引かれるままに右へ左へ、足が動いた。
「わ、わ、ちょっと、陛下!? どこに行かれるんですか!?」
ブランシェが声をあげても、ヴォルフラムからの返事はない。
一体目の前の王が何を考えているのか読み取れないまま、ブランシェはヴォルフラムとともにその場を離れることになった。
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