6-2 暴食令嬢は痛みを味わう
(何かしら、この味)
もう一口だけスープを口に運び、舌先でじっくりと転がして正体を探る。
(何かの調味料であることは間違いないと思うのだけれど)
じっくり考えても、コンソメの風味の中に溶け込んでいるものの正体がなかなか掴めない。
けれど、どこかで一度口にしたことがあるような記憶もある。
塩でも胡椒でもない、調味料として作られたものたちが持つ天然の味ではない、天然の味を真似てたようなこれは。
(まるで、薬の味付けに使われるみたいな)
ぐらり。
ブランシェの世界が大きく揺らぐ。
体内から一瞬で多くの力が抜けていき、立っていられないほどの目眩と倦怠感、そして強い飢餓感が全身を襲う。
豆皿がブランシェの手から滑り落ち、床に落下し、高い音をたてて砕け散った。
(まずい)
脳がけたたましく警鐘を鳴らしている。
しかし、ブランシェの身体が何らかの対応をするよりも早く、目眩と倦怠感が全身のバランスを失わせる。
視界の端で、つい先ほどまで会話をしていたシェフが顔色を真っ青にしたのが見えた。
「シュネーフルール様!?」
悲鳴に近い声が鼓膜を震わせた。
聞き覚えのある声だけれど、誰の声なのか考える余裕もほとんどない。
重力に引っ張られて倒れかけたブランシェの身体を、誰かが抱きとめて支えてくれた。
「シュネーフルール様、大丈夫ですか!?」
「……っその声は……メリア……?」
抱きとめてくれた誰かの顔をちゃんと見たいのに、それも叶わない。
視界がぐるぐる揺れる。宙に浮いているかのように足元がふわふわとして、ちゃんと両足をつけて立っているのかわからない。指先を動かすのも億劫なほど身体が重く、腹の底がむせび泣いて全身を締めつけている。
一瞬のうちに何が起きたのか正しく理解できていないが、何らかの異常が引き起こされたことだけははっきりと理解できた。
焦りを滲ませた声で呼びかけてくる誰か――おそらくメリアの手に自身の手を添え、ブランシェは重たい唇をなんとか動かした。
「エリサを、呼んで。それから、あの鍋の中身は、絶対に誰にもお出ししないで」
ほとんど動かなくなりそうな腕を持ち上げ、いまだに火にかけられている鍋を指差す。
何が入っていたのか、何が盛られていたのかわからないけれど。
「絶対に、陛下には食べさせないで」
生物の身体によくないものが入れられていたことははっきりしている。
エリサを呼びに行く声、こちらに呼びかけてくる声、何が起きたのかよくわからずにうろたえている声。
さまざまな声を聞きながら、ブランシェの意識は闇の中に呑まれた。
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