野藤狂

森田さんが黒い大きなごみ袋を持って拾い集めているのは、山から降ってくる藤の花だ。


これを放っておくと、あなた、大変なことになるわよ。きれいね、なんて言って甘くみちゃいけない。放っておくとやられちゃうわよ。


森田さんはそう言って、地面の藤を両手で掻き集める。すべてを拾い切ることはできず、指の間からいくつかのむらさきが溢れた。


無心であった新芽が精に目覚める今、この辺りの山々は一斉に藤に染まる。野生のそれは化け物のように蔓を延ばし、木の幹を這って枝を蔦って、葉の上を覆い尽くす。締め上げられた木は光を奪われ、藤はあめ降らしの生き物になる。


やられる前に拾って捨てないと、なにもかも全部、下品な色になってしまう。絡みつかれたらお終いよ。あなたもぼんやり見てないで手伝いなさいよ!ほら、はやく!


気まぐれで横暴な風に身を任せて、あざ笑うかのように藤は降る。しゃがんでひとつ、拾う。おまえ、嫌われてるよ。森田さんの髪も、おまえと同じむらさき色をしているのにね。

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