それぞれの道 ②
クラスの打ち上げは無事に終了してとても楽しい時間を過ごすことが出来た。美影とはお互いに意識することはなくいつもと変わらない雰囲気で過ごせた。美影との間に常に志保がいたので余計にでも変わったことは起きなかった。
卒業式の三日後に美影の本命の合格発表があった。その日はバイトが休みで絢と会うことになっていた。ちょうど待ち合わせの約束していた時間に絢と俺のスマホのメッセージの着信が同時に鳴る。
「「もしかして……」」
絢と俺はパッと顔を合わせてスマホの画面を見る。
「「よかった!!」」
再び同じタイミングで声が出て、まるで自分達の事のように抱き合って喜んだ。美影の事だから大丈夫だと思ってはいたがやはり合格の報告を聞いて素直に嬉しかった。絢も俺と同じことを思っていたみたいで嬉しくてたまらない顔をしている。
「ねぇ、これからみーちゃんの所へ行かない?」
「うっ、うぇ!?」
絢の突然の提案に俺は声にならないような返事をしてびっくりさせられる。でも絢の目は本気で冗談じゃないことがすぐに分かった。
「やっぱり気まずいかな?」
俺の反応を見て絢は不安そうな顔になる。せっかくの喜びに水を差すようなことをして拙かったと反省をした。
「そんな事ないよ、うん、そうだな、美影さえよければいいんじゃないか?」
変に動揺しているとせっかくこの前の告白した時の気持ちが揺らいだかのようになる。そんな事はないし、この先も起きる事はないので、すぐに自分に言い聞かせた。曇ったままの表情をしていた絢は少しだけ落ち着いた感じになる。
「よかった……そうだよね、変なこと言ってごめん……」
「いいや、俺がおかしな返事をしたからいけないんだ。もう絢に寂しい思いはさせないよ!」
はっきりとした声で俺は伝えるとやっと小さく絢が頷き表情も緩んできた。いつもと変わらない雰囲気になってきてやっと俺も緊張が緩んだ。
絢が美影に家に行ってもいいのかとメッセージを送るとすぐに返事がいいよと送られてきたみたいで急遽、予定を変更して美影の家に向かう事になった。
美影の家に着くと美影が出迎えくれた。
「おめでとうーー!」
「ありがとう!!」
開口一番絢が笑顔で伝えると美影もいっぱいの笑顔で絢に抱きついて喜んでいた。さすがにその輪に加わる訳にはいかないので俺は側で二人の姿見守っている。笑顔の二人を見ているだけで俺は嬉しかった。
「ふふふ、よしくんもありがとうね!」
「あぁ、これで一安心だな、みんな揃って希望通りの進学が叶って良かったよ」
ひとしきり絢と喜びを分かち合った後に美影が優しく笑いながら俺の顔を窺っていた。美影と関係が完全に終わってから意外な形で三人が揃う事になった。
お互い意識していた訳ではないのだが、顔を見合わせて変な間が空いてしまう。笑顔だった絢が気にするような素振りをして俺の側にスッと寄ってくる。
「そ、そうだ、せっかく来てくれたのにここで話すのも悪いから私の部屋に行こうよ!」
絢の様子を察した美影は表情を変えることなく笑顔のまま俺と絢を招き入れようとする。思っていたほど絢は気にしていなかったのかすぐに笑顔に戻ると喜んで大きく頷いた。絢の表情を見て顔には出さなかったが心の中ではホッとしていた。
俺も二人の後を追いかけようとしたが、よく考えたら別れたばかりの元カノの部屋に入ることになる。意識し過ぎなのかもしれないが、少しだけ緊張してきた。でもそんな事を考えているのは俺だけみたいだった。
「ん……どうしたの?」
美影の部屋の前で俺が立ち止まるので絢が不思議そうな顔で見ている。美影も絢の隣りで同じ様な表情をして俺の顔を窺っていた。
「う〜ん、初めて美影の部屋に入るからちょっと……ははは」
「あっ、そうだねーー、初めてだったね、部屋に入るのは」
照れ笑いをする俺を見て、美影が思い出したように笑みを浮かべる。家の前までは来た事は何度もあったが家の中に上がる機会は不思議と一度もなかったのだ。
「えっーー!」
突然、絢が大きな声を出すので俺はびっくりしてしまい、美影は苦笑いをしている。絢が驚くのは仕方がないが、美影の部屋に行く機会がなかったのは特に理由がある訳ではなくたまたまなかっただけなのだ。
学校に通っている時は、部活があって帰宅時間が遅かったし、休みの日の部活はほぼ志保も一緒に帰っていた。定期試験の時は図書室やバイト先の喫茶店ですることが多かった。
部屋の中に入ると思っていた通りだった。ちゃんと整理整頓が出来ていて美影の性格が表れて、落ち着いた雰囲気の中に所々可愛らしいグッズがキレイに飾られている。
「う〜ん、美影の部屋って感じだね」
「ふふふ、ありがとうね」
俺が深く頷き素直な感想に美影は嬉しそうな笑顔をしている。部屋に入る前の緊張は徐々の解れていて、逆にちょっと安心してしまう。
「もうー! あんまりじろじろ見たらダメだよ!!」
「えっと……」
絢は俺に機嫌悪そうに鋭い視線を向けて頬を膨らませいる。いくら美影の部屋でも絢は彼氏が部屋に入るのには抵抗があるのかもしれない。絢はもちろん何度も来ているので慣れた雰囲気だ。絢の冷たい視線にたじろいでいると、美影は俺と絢の様子を見てやれやれといった感じで笑みを浮かべていた。
「ふふっ、あーちゃん、そんなこと言わないでいいよ!」
「えぇ〜だって……」
相変わらずムッとしている絢に美影は優しく笑みを浮かべている。美影のおかげでこれ以上絢から冷たい視線を浴びせられることはなさそうだ。
絢は慣れた感じで部屋の真ん中にある小さなテーブルの前にちょこんと座った。俺も美影に促されるようにして同じように座らされた。美影は飲み物を準備して来ると言って一度部屋から出ていった。
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