それぞれの道 ①

 なんとか無事に絢に気持ちを伝えることが出来たが、少し予定と違った言葉だったのでお互い照れ臭そうにして目を合わせられないでいる。沈黙の時間が少し続いて、気恥ずかしそうに立っていた絢は俺が座っていたベンチにゆっくりと座る。俺も同じタイミングで絢の隣に座った。


「えへへ、なんかね〜、う〜ん、なんだろう〜」

「ど、どうしたの?」


 座って少し気持ちが落ち着いたのだろうか、絢は嬉しさが溢れんばかりの笑顔になる。まだ顔が赤いけど美影と違って割と喜怒哀楽をはっきりと見せる絢がここまで嬉しそうな表情を見るのは初めてのような気がする。


「うん、だって、幸せだなぁ〜ってじわじわと感じてきたからね〜えへへ」

「そう言ってくれると俺も嬉しいよ」


 やっと俺も落ち着いて絢の顔を見ることが出来るようになった。これまで何度か絢に気持ちを伝えようとして失敗し続けてきたのでやっと胸のつかえが取れたような気がする。


「ねぇ、手を繋いでもいいかな?」

「う、うん、いいよ」


 甘えた声で絢が手を差し出してきた。ギュッと俺が絢の手を握るとなんとも言えない安心感があった。これまで何度も手を繋いできたが感じたことのない感覚だった。さすがにこの公園でイチャつくのは抵抗があるので手を繋ぐぐらいがちょうどいい感じだ。でもそれだけでもすごく幸せな気持ちになってきた。絢も俺と同じ気持ちだったみたいでジッと顔を見る。


「本当はね、ギュッと抱きつきたいんだよ! でも我慢してるの、さすがにここではちょっと恥ずかしいからね」

「ううん、ごめんな……この殺風景な公園でもっと雰囲気のいい場所を選べば良かったのだけど……どうしてもここで伝えたかったんだ」

「いいのよ、私もここで良かったから」


 何もない公園だけど二人にとっては思い出の場所だ。あの時は夜でクリスマス時期だったのでちょっと雰囲気も良かったけど、今日は昼間で特に何も無い時期だからこんな感じになってしまった。

 でもこれで本当にすっきりとした気持ちで俺は絢と向き合える。絢の手の温もりを感じながら二人の時間を過ごしていた。


「……ねぇ、よしくんのクラスも打ち上げがあるの?」

「うん、あるよ、でもまだ時間は全然あるよ」


 時計を見るとまだ集合時間まで余裕はある。でも絢はあまり時間がなさそうな雰囲気で、俺のことを気にしながら迷っているみたいだ。


「うぅ……あ、あのね……」

「いいよ、気にしなくて、行ってきなよ!」

「いいの、本当に?」

「あぁ、心配しなくていいよ、だって明日からはいっぱい時間があるから大丈夫!」


 不安そうな顔をしていた絢はパッと嬉しそうな笑顔に変わった。ここで絢を引き留めていると、最後の最後に白川から何を言われるか分からないし、焦ることもないのだ。これからはいつでも堂々と絢と会う事が出来る。


「ふぅー、よかったぁ、ありがとうね」

「ううん、俺こそこんなタイミングで伝えることにしたから……」

「そんな事ないよ、私は凄く今幸せなんだから!」


 俺が申し訳なさそうな顔をしていたので絢は必死に否定している。絢の必死な顔を見て、絢の言った幸せと言う言葉を耳にして俺はつい嬉しくなって笑みが溢れた。絢も優しく微笑み安心した表情に変わる。

 そろそろ絢は行かないといけない時間になるのだろう。


「じゃあ、また夜に連絡するから」

「うん、今日はありがとうね! 絶対に忘れないよ今日の事は!!」


 絢は嬉しくたまらない様子で笑顔いっぱいだった。俺がベンチから立ち上がると同じように絢も立ち上がると俺の顔をジッと見つめる。ゆっくりと絢は目を閉じてキスをねだるような甘い雰囲気を醸し出してきた。俺はちょっとだけ周りを気にしていると絢が早くしてよと言わんばかりに甘い声を出す。


「もう……」


 絢が声を出してすぐに少しだけしゃがみ俺は唇を重ねる。もう何度目のキスになるか覚えていないが、罪悪感が全くないキスは初めてだった。予定外のキスだったけどただただ幸せな気持ちで優しく自然な気持ちになれた。


「えへへ、なんか照れちゃうね〜」

「……ん、なんでだろうな」


 絢もこれまでのキスとは違うと感じたみたいで、いつも以上に照れた表情になっていた。お互いなかなか視線が合わせられなくて、初めてのキスみたいな雰囲気になった。


「じゃあ、行くね……」


 そう言って恥ずかしそうに絢は小走りで公園の出口に向かうので、俺は絢の後ろ姿を見送った。絢の姿が見えなくなり俺も自宅に帰ろうとした。まだ少し胸の鼓動が大きい気がする。

 ゆっくりと歩き出して公園を出ると急に脱力感を感じるので、やはり無意識に緊張をしていたみたいだ。鏡を見た訳ではないが、自分の顔が緩んでいるような気がする。


(無事に言えて本当に良かった……)


 ひとつ大きな責任を果たしたようで心の底からそう思っていた。これから絢との関係が急に変化する事はないけど心の中にあったわだかまりがなくなった。

 この後クラスの打ち上げで美影に会うけどちゃんと話が出来そうな気がする。美影は元カノだけどちゃんと大事な友達として付き合っていける自信がついた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る