卒業と告白 ③

 美影達と別れてそのまま約束していた公園に向かい、約束していた時間より三十分以上早く着いてしまった。


(気持ちの整理がつかない……)


 美影と志保の三人で久しぶりに楽しく下校したのでなんとなく心の中にぽっかり穴が空いたような感覚になった。このまま絢に会っても上手く伝えられないような気がして落ち着こうと公園のベンチに座ることにした。


「ふぅ……今日は暖かいなぁ」


 大きく息を吐いて空を見上げた。気温自体はまだそんなに高くないが日向はかなり暖かい。気を休めようと体の力を抜いて目を瞑った。ほんの少しの間だけ気を緩めるだけで居眠りするつもりはなかった。


「……ん? あ、あれ……なんで……」


 頭に軽い振動を感じて目が覚めたがまだ意識はぼんやりとしている。何か柔らかいものにもたれかかっている感覚で、それに甘い香りがする。

 顔の向きをゆっくりと変えると視線のすぐ前に絢の顔が見えた。


「えっ!? な、なんでこの状態は……」


 若干、パニックになりながら体を起こすと、俺の頬に当たっていた柔らかかった場所は絢の二の腕だった。絢も慌てた様子で俺の顔を見ている。


「ご、ごめんね……せっかく気持ち良さそうに寝ていたのに起こしてしまって」

「い、いや、そんなことはないよ、俺こそ、ごめん……」


 だんだんと状況が分かってきた俺は項垂れるように頭を下げた。いきなり大失敗をしてしまったと反省をする。

 時計を見ると約束した時間を十分以上過ぎていた。絢を呼んでおいて居眠りをしてしまうとは情けなくて言い訳なんか出来ないが、昨日の美影との出来事と今日の事であまり寝付けずに寝不足だった。


「そんな謝らなくてもいいよ、よしくんの寝顔が見られたからね」


 ちょっと落ち着いた様子で絢が微笑んでいた。俺も絢の笑顔でやっと気持ちが安らいだ。

 落ち着いたところでどうやって告白しようかと悩む。本当は絢が来る前にいろいろなパターンを想定して考えるつもりだったが、居眠りをしてしまったのでまだ考えが固まっていない。このままではまた同じことの繰り返しになってしまう可能性がある。

 だんだんと心の中は焦ってきて、次の言葉が出てこないまま無言が続いてしまう。そんな俺の様子に気が付いたのか絢は気を遣って話し始めた。


「ねぇ、この場所は変わらないわ……あの時とね」

「あっ、う、うん、そうだね」


 重たい空気を振り払うようにはっきりとした声で答えた。何故この公園を約束の場所に指定したのかちゃんとした理由がある。

 ここは中学二年の冬に絢に初めて告白をしようとした場所だ。


「あれから三年以上が経つのね……」

「うん……あの時は情けなかったよな何も言えなくて……」

「ふふっ、本当はあの時ちょっとだけ期待していたの、でもよかったのよ……あれからたくさんの思い出が作れたし、今もよしくんと一緒にいることが出来ているからね」

「そ、そうなのか?」


 告白が失敗に終わったことを良かったと言われて少し複雑な気持ちになる。でも確かに絢の言う通りで、もしあの時点で付き合い始めていたら美影に会っても今みたいな関係にはなっていなかったかもしれないし、絢との関係だった続いなかったかもしれない。


「うん、だって結果的にはよかったでしょう?」

「まぁ、確かに……」


 絢が嬉しそうに押され気味な俺を見ている。絢の笑顔で重たくなりそうな雰囲気が一掃された気がした。


(今、このタイミングだな……)


 このチャンスを逃したらまた失敗に終わってしまいそうな気がする。


「……絢、今回はちゃんと言葉にするよ」

「うん……」


 二人の間の空気が少しだけ変わる。俺が張り詰めた雰囲気を出したのかもしれないが、笑顔だった絢は息を呑むよう返事をした。


「長い間、待たせてごめんなさい。俺は絢のことが大好きです。もう離したくないので、これからもずっとずっと側にいて下さい! いっぱい大事にします!」


 前もって絢に伝える言葉を考えていたのだが、やっぱり上手くいかなかった。言っている途中で纏まらなくなってきた。でも多分気持ちだけは伝わったはずだ。


「……は、はい」


 真っ赤な顔になった絢が小さな声で頷いた。思っていた以上に恥ずかしそうな反応をする絢に変な感じがした。もしかして変なことを言ったのかと不安になる。


「えっと、あ、絢……俺、おかしなことを言ったかな?」


 どうしても気になるが、絢はすぐに答えてくれなくてまだ恥ずかしそうに俯いたまま黙っている。二人の間に気恥ずかしい空気が流れる。


「……うぅ、ううんそんなことはないの」


 やっと絢が口を開くがまだ落ち着かない様子で、俯き気味で目を合わせてくれないままで顔は火照ったように赤いままだ。


「……ん?」


 未だに状況が掴めない俺は首を傾げる。そんな俺を見て絢が照れるように小さな声を出す。


「よしくん、まるでプロポーズみたいなんだけど……」

「えっ、えっと……あ、あぁ……」


 突然の絢の発言で今度は俺が思いっきり動揺する。そんな大袈裟なことは……自分が言った言葉を思い出してみる……あっ、言ってる。今更、付き合うとか言うのはおかしいしから考えたのだが……でも嘘偽りのない気持ちには違いないのだ。


「私もずっとよしくんに付いて行くよ……本当に私でいいの?」


 俯き気味だった絢は恥ずかしそうに顔を上げてやっと俺と目線を合わせて微笑んだ。なんとも言えない可愛い絢の笑顔に俺はますます恥ずかしくなる。


「……うん」

「ありがとう……」


 なんとも言えない雰囲気になってお互い俯いてしまう。でもちょっと予定とは違っていたが、やっと堂々と絢と一緒に前へ進んでいけるような気持ちになった。

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