卒業と告白 ②

 卒業式は滞りなく行われて再び教室に戻ってきた。最後のホームルームも終わりそれぞれ仲の良かった同士で写真を撮ったりして別れを惜しんでいる。


「宮瀬も来るのだろう?」

「あぁ、そのつもりだ……何事もなければ」


 皓太が俺の肩をガチッと掴んできた。夕方から打ち上げと称してカラオケに行くことになっている。クラスの大半が参加するみたいで、美影と志保も参加するらしい。はっきりとは二人から聞いた訳ではないが雰囲気的にそうみたいだ。多分、二人は気をつかってその話題をしなかったのだろう。


「ん……なんだその何事って?」


 首を傾げて不思議そうな顔で皓太は俺を見ている。皓太には話していないので意味が分からないはずだ。


「いや、たいした事ないよ……場所は変わっていないのだろう、時間も」

「あぁ、最初の予定どおりだ」

「うん、分かった、遅れないように行くよ」

「……まぁ、頑張れよ!」


 何かを察したのか、皓太は俺の肩をバンッと気合を入れるように肩を叩いてきた。


(はぁ……後でいろいろと追及されそうだな)


 大きめなため息を吐いていると、偶然こっちを見ていた美影がクスッと笑っている姿が見えた。美影は志保と一緒に仲の良かった友達と楽しそうに話をしている。

 もう一度、志保と話をしようと思っていたが、皓太が何かを思い出したようで肩にかけた手を離してくれない。


「あっ、そうだ頼まれていたんだ! ちょっと付き合ってくれよ」

「な、なんだよ……」


 いきなり皓太に引っ張られるように教室の外へ連れて行かれた。まだ約束の時間に余裕があるから問題はない。

 何処に行くのか分からず皓太に連れて行かれ、隣の隣のクラスに到着した。そのまま皓太は教室に入っていく。


(ん……このクラスは……)


 嫌な予感がする。すぐに皓太が一人の女子を連れてきた。


「宮瀬くん、聞いたよ……」

「やっぱり……」


 皓太に連れていかれた時に気付くべきだった。目の前に芳本が興味津々な顔で立っているが皓太は事情がよく分からない様子で眺めている。

 芳本は皓太の幼馴染だが、白川の友達でもあり絢の友達だ。


「最後の最後に宮瀬くんはやるわね……」


 芳本に捕まった俺はこれまでの事を詳しく聞かれた。たぶん絢も昨日、学校に登校した時に白川からたくさん追及されたに違いない。でも白川が大仏ではなく、まさか芳本に頼むとは予想外だった。

 話が終わる頃に皓太が申し訳なさそうな顔で謝罪してきた。事情を知らない皓太を責める訳にはいかずぐったり疲れた顔で教室に戻った。


 教室に入るとあまり人影がなかった。


(もうほとんど帰ったな……)


 自分の席に向かい荷物を取ると背後から声をかけられる。


「最後に一緒に帰ろう!」


 振り向くと待ちくたびれた顔をした志保が立っている。でも怒っている感じではなく嬉しそうに見えたので安心して返事をする。


「いいよ、ちょっと待っていて」

「うん!!」


 久しぶりに見た志保の幸せそうな笑顔だった。可愛らしい表情に俺も気分が良くなった。でもひとつ気になる事があって、視線を志保の背後に向けると微妙な表情をした美影がいる。

 昨日のことがあったから仕方はない。美影も志保の頼み事は断れなかったみたいだ。視線に気が付いた美影は小さく頷いて苦笑いを浮かべていた。

 この三人で帰るのはいつ以来だろうか、まさか最後の下校で一緒に帰ることになるとは思わなかった。


「ねぇ、最後に校門の所で一緒に写真を撮ろうよ!」


 これまでと違い俺を挟むように志保と美影が歩いている。隣で志保は満足そうな顔で指を指している。志保と美影との三人での写真はあまり撮った事はない、これはこれでいい思い出になる。高校生活の中ではこの三人でいる時間はいっぱいあって楽しい思い出から辛い思い出まである。

 校門の所で何人も同じように写真を撮っていた。順番を待ちながら美影が志保に気付かれないように囁いてきた。


「ごめんね、時間は大丈夫?」

「あぁ、余裕を持った待合わせの時間にしてあるから」

「よかった……でも大事な時に、心の準備だっているでしょう?」

「いいよ、志保と美影と最後に一緒に写真を撮るのもいい思い出になるよ」

「ふふっ、やっぱり別れたのは失敗だったわ……」


 笑顔で答える美影の顔を見てドキッとする。凄く優しく柔らかい表情をした美影に見惚れてしまった。俺と美影の様子に気が付いた志保から鋭い言葉が飛んでくる。


「もう! 何をイチャついているの?」


 ムッとした顔をする志保を見て俺と美影は笑顔で首を横に振って否定する。これまで何度もあったシチュエーションだ。ムスッとしていた志保がプッと吹き出すように笑って、俺と美影もつられるように声を出して笑ってしまった。


「志保も最後まで変わらないわね」

「ううん、美影だって……それに本当に由規もありがとうね、いっぱいの思い出を作ってくれて!」


 笑顔だった志保はちょっとだけ目がウルっとしているように見えた。いっぱい志保には振り回されたけど、でも志保がいてくれたから今の俺がある訳でいなければ全く違った高校生活になっていただろう。


「……ありがとうな、志保」


 俺の声を聞いて志保は満足そうに頷いていた。俺達の写真の順番がやってきて、三人揃って撮影して美影と志保、あと志保とのツーショットをそれぞれ撮った。

 志保が美影とのは撮らないのかと聞いてきたが、昨日の最後のデートでいっぱい写真を撮っていたので断り美影も同じように断っていた。

 写真を撮り終わり、校門を出ていつもより手前の所で志保と美影に別れを告げた。また夕方の打ち上げで会うのでまたねといった感じで別れた。

 いよいよこれからが本番で少しずつ気持ちを昂らせてきた。

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