卒業と告白 ①
翌日、眠たい目を擦りながら教室に入ると既に半分以上が登校していた。美影も登校していて教室の中で志保と会話をしている。俺が登校して来たのに気が付いたようですぐにこっちに向かって来た。昨日の別れ際のことで美影と顔を会わせるにはまだ心の準備が出来ていない。思わず慌ててしまう。
「おはよう!」
「お、おはよう……」
「ふふふ、元気ないよ、大丈夫?」
「う、うん……」
予想外に明るく元気な表情の美影に押され気味になる。まるで昨日の事は何もなかったかのようだ。頭の中で言葉を選んでいるがなかなか出てこないにで落ち込んでしまう。
「もう、そんな顔をしないでよ!」
「うん、でも……」
「今日は終わりじゃないからね!!」
「……はい!?」
美影の言葉に思わず混乱してしまう。終わりじゃないとはどう言うことなんだろうか迷ってしまう。困惑している俺の様子を見て美影は体を寄せてきた。周りに気を配ってトーンを下げて俺にしか聞こえない声の大きさになる。
「昨日はありがとうね。私はもう大丈夫だから、今度はよしくんの番だよ!」
「えっ……ど、どういう……」
「もう後悔をすることがないように気持ちを伝えないとね!」
「う、うん……そうだけど」
美影は優しい笑顔になって心強く応援するような雰囲気になる。
「ふふっ、心配しなくてもあーちゃんの答えは決まっているから大丈夫だよ!!」
一瞬、俺の頭の中を駆け巡る。美影の言葉を聞いてどのくらい前から絢の本当の気持ちを知っていたのだろう。もしかして随分前から気付いていたのかもしれない。
「……うん、ありがとう美影」
別れた彼氏にここまで励ましてくれる美影には感謝しかない。美影とどう接していいのか悩んでいた俺は反省しないといけない、もっと自然な感じでよかったのかもと思った。
「ううん、私はこれからも二人を見守らないといけないから……そう時々、二人に刺激を与えないといけないだろうからね、ふふふ……」
今度は茶目っ気たっぷりで美影は笑っている。あまりに可愛らしくドキっとしたが、『刺激』という言葉に少し不安な気がした。俺と付き合っていた時に絢がやっていた事をするつもりなのかもしれない。
「あまり過激なのはやめてくれよ……」
「ふふふ、冗談よ……でも見守っているのは本当だから! また明日からよろしくね!!」
可愛く笑いながら美影は志保達が話している所へ戻って行った。きっとこれからも美影とは友達以上恋人未満みたいな関係が続くような気がした。
少なくともこの春休みはまた三人揃って遊びに行くことになるにちがいない。
美影が戻ってきたタイミングで、志保と目が合ってしまった。志保の表情は何か言いたそうな顔をしているので美影との事に違いない。
まだ美影と話していた余韻は残っていたが無視する訳にもいかない。志保にも俺の口から説明しないといけないだろう。俺は席を立ち廊下に向かうと志保も合わせて廊下に出てきた。お互い声をかけるように挨拶を交わす。
「久しぶりだね、こうやって二人で話すのは……」
「……そうだな」
想像していたより志保の様子が違う。キツい口調でくると思っていたので拍子抜けになった。表情も思っていたのとは違って柔らかく見える。でも志保らしくいきなりストレートで問いただしてきた。
「いつ美影と別れ話をしたの?」
下手に誤魔化してもダメなので素直に答える事にした。いつも志保とは違うみたいだ。
「……夏休みの始め頃だ」
「やっぱりあの頃か……何かおかしいな感じがしたのよ、二人ともね」
思い当たる節があるみたいで志保は記憶を遡っていた。さすがに志保も美影との付き合いが長いのでちょっとした変化には気が付いていたようだ。
「美影から何も聞いていなかったのか?」
「うん、ちょうどあの頃は美影が本格的に受験勉強を始めていたからなかなか会う機会がなかったんだよね。でもメッセージを送っても反応が悪かったんだ」
寂しげな表情を志保が見せる。やはり親友の一人として話して欲しかったに違いない。美影は俺と志保の関係を考えて黙っていたのだろう。たぶん志保もそれは理解しているみたいだ。
もし話していれば残りの二学期以降はいろいろと問題が起きていたと思う。そのおかげでこの卒業まで無事に迎えることが出来たのだ。
「理由は聞いたのか?」
「うん、ちゃんと聞いたわ、なんとなく予想はしていたけどね」
「そうか……ごめんな、黙っていて……」
俺は頭を下げて心から謝罪した。別れる事を言わない約束だったとはいえ美影と付き合うきっかけを作ったのは志保なのだから黙っているのはよくなかった。
「もういいわよ、美影にも由規を責めないでと言われてるから……それに一応ちゃんと由規も話してくれたからね」
やっと志保から笑みが出てきた。ちょっとだけ緊張の糸が緩んだ気がして、志保の言葉を聞けて安心した。志保に何も言わずに卒業してしまうのはやはり心残りだった。
「でもほっとした顔をしている場合じゃないのでしょう?」
「えっ、な、なんで?」
「もちろん知っているわ、ふふっ……ちゃんと伝えて来なさいよ!」
優しく微笑みかけるように志保が見ている。思わず見惚れてしまうぐらい可愛らしい笑顔だった。初めの頃に会った時の初々しい笑顔を思い出した。
「……分かってるよ」
思わず照れてしまったのを隠すように返事をしたが、心の中では感謝しかなかった。
「そろそろ時間だね、戻ろうか……」
「あぁ、そうだな……」
すっきりしたような顔をして志保は美影が待っているグループに戻って行った。俺も志保の後をゆっくりと歩いて教室の中に入った。朝イチ登校した時よりも気持ちは随分と晴れやかな感じだった。
それからすぐに担任の先生が教室に入ってきてこれからの式についての話が始まった。
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