練習試合とクリスマス ①

 今年も絢の学校で練習試合があるのだが、昨年と違い今年はクリスマスの日に組まれていた。


「宮瀬はいいよなぁ……彼女が同じ部活だからクリスマスに練習試合でも問題ないよな」

「なんだよそれ?」


 愚痴るような口調で皓太が半分八つ当たりのように呟いている。皓太のように彼女がいる部員は後輩も含めて同じように俺に愚痴ってきた。かなり今回の練習試合は不評のようだ。

 ちなみに俺達はこの前の試験勉強の時に約束した通りで、美影と絢の三人で練習試合が終わった後にイルミネーションを見に行く予定になっている。


「なんか宮瀬……機嫌良さそうだな? 無性に腹が立つな……」

「おまえなぁ……」


 完全に八つ当たりで、皓太のフラストレーションがだんだんとエスカレートしてきたみたいだ。試合前から不穏な雰囲気で、まともな試合になるのか不安が過ぎる。


「はぁ……ちょっと外に行ってくる」


 大きなため息を吐いて、まだ試合開始まで時間があるようなので外に出ることした。ここにいると皓太から更に愚痴られそうで試合前に疲労困憊になりそうだ。

 俺は逃げるように体育館の外へ出たが、昨年と違い特に目的がないので行くあてもない。


(前回は絢を探そうとこの辺を歩き回って、白川に会ったんだよな……)


 適当に歩いていると思い出し笑いをしそうになった時に声をかけられる。


「今回もここで会ったわね……なんで笑っているの?」

「え、えっ、な、なん……」


 予想外のことで慌てて確認すると声の主は白川だった。俺が一人で笑っているのを見て少し引き気味な顔をしている。白川の隣には優しく笑みを浮かべる絢が立っている。

 あんなに昨年は探し回って見つけられなかった絢が目の前に普通に立っている。この一年で劇的に俺の周りは変わったなと感じた。


「どうしたの、こんなところで?」


 絢は不思議そうに俺の顔を窺っている。


「あぁ、試合前に気分転換をしようと……」

「なにかあったの?」


 絢が心配そうな顔をするので、俺は慌てて否定する。


「大丈夫、なにもないよ」

「良かった……あっ、そうだ、この前動画送ってもらったの」


 安心した絢は話題を変えて笑顔でスマホを出した。俺はなんの動画なのか分からず絢のスマホを覗き込む。すると映し出された画像は、この前の球技大会のものだった。


「えっ、この動画はどこから? 美影は試合中の撮影していなかったし……」


 俺は首を傾げて考えるが思い当たる人物が出てこない。


「未夢ちゃんが送ってくれたのよ。あの最後のシュートはすごいね!」


 絢が少し興奮気味に話している。俺は皓太が休み明けに出てきた時に芳本が動画を見せてくれた話を思い出した。


(でもあれ……最後に美影が飛びついてきたところまで撮ってたのかな?)


 少し不安な気持ちになるが、俺が悪い訳ではないし美影は彼女な訳だから問題はないはずだ。変に気にするのもおかしいので普段通りに話そうとした。


「あのシュートは無我夢中だったからな、もう一回って言われても出来ないよ」


 不安な気持ちにを打ち消すよに笑顔で答えたが、絢のひとことに驚いてしまう。


「みーちゃんはいいなぁ……羨ましいよ……私も同じようなことしてみたいな……」


 絢は寂しそうに呟くと隣にいた白川が呆れた顔でため息を吐く。俺はどんな顔をしたらいいの迷っていたが、白川のひとことで苦笑いをする。


「仕方ないわね。どうせ絢にはそんな勇気ないわよ」

「そ、そんなことはない……かも」


 そう言って絢は現実に引き戻されたかのように残念そうに俯く。白川は何度も同じことを聞かされたのかもしれない。俯いた絢を愛想笑いで見ていると白川が思い出したように問い質してきた。


「そうだ、宮瀬くん。本当に今日、三人で行くの?」

「えっ、なんだよ、いきなり……」


 ここで白川が聞いてくるのかと動揺してしまう。


「だって絢がおかしなことを言うからね。疑っていたんだけど、本当みたいね」


 返事をする前に俺の顔色で白川が判断をすると、凹んでいた絢が顔を上げて薄笑いをしている。


「ほら由佳ちゃん言ったでしょう、嘘じゃないって」

「そうね……間違いないようね、でも宮瀬くん」


 そう言って白川が鋭い視線で俺の顔を窺っている。もう何度も動揺しても仕方ないので、観念した俺は開き直って返事をする。


「なんだよ……」

「宮瀬くんは本当にそれでいいの?」


 なんとなく同じことを幼馴染みから言われたような気がした。


「なんか大仏みたいだな、白川は……」

「そんな冗談はいいから答えなさいよ」


 思わず出てしまった言葉に白川が若干キレ気味な口調になる。白川の返事を聞き反省をして今度は真面目に答えようとしたが上手いこと説明するのは難しい……


「そうだな……納得した答えにならないかもしれないが、絢と美影、俺の三人で決めたことだからいいんだよ」


 下手なことを付け加えずに俺は淡々と答えて、白川の反応を窺う。俺の言葉を聞いて始めは微妙な感じで理解出来ていない雰囲気だったが、少し間をおいて白川が小さくため息を吐いてあきらめたような表情をした。


「私がとやかく言うことでもないか……でも宮瀬くん、円には伝えておくからね」

「えっ、な、な、なにを言うのかな……」


 白川が不敵な笑みを浮かべて俺をじっと見るので、いらないことを言うんじゃなかったと猛省した。


「ねぇ、時間は大丈夫?」

「あっ、そうだな、そろそろ行くよ」


 話に加わっていなかった絢が心配そうな顔をしている。既に白川からいろいろと言われているに違いない。


「後で応援にいくね。頑張って!」


 絢はいつもの笑顔で小さく手を振って隣にいる白川も小さく手を振っていた。ちょっとだけ気分転換するつもりだったが、時計をみると結構な時間が経っていたので慌てて体育館に戻った。

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