冬の球技大会 ③
ハーフタイムが終わり第三Qが始まった。長山達のクラスは前半までの勢いはなくなっていたが俺達のクラスはなかなか追い付くことが出来なかった。俺も長山もお互いに譲らずシュートを決めさせないように競り合っていた。
「今日は一段とハードなディフェンスをするな……」
「これぐらいしないとな、宮瀬の好き勝手にはさせないぞ」
長山は鼻息荒く俺に向かってくる。俺達のクラスがシュートを放つと、俺と長山がゴール下でリバウンドの体制に入る。長山はかなりのプレッシャーをかけてきてなかなかポジションが取れない。
「くそっ……」
上手いこと長山にポジションを取られて、跳ぶことが出来ずにボールを取られてしまう。中学時代も試合で長山とゴール下で競り合っていたが、当時は長山の方が体が大きかったのでリバウンドを奪うことができなかった。今でこそ体格の差はないが、この試合は抑え込まれることが多かった。
だんだんと競り負けるイライラが積もってきていた。今度は相手のオフェンスで長山がリバウンドを取ってシュートにいく時に思いっきり手を叩いてしまいファールを取られてしまう。長山はニヤッと笑い、フリースローを確実に決める。
「これ以上離される訳には……」
俯きながら呟くとイライラな気持ちに焦りが出てき始めた。その後も同じようなミスを繰り返してしまう。
第三Qももうすぐ終わりそうな頃にはイライラが最高潮になっていた。自分自身でも分かるぐらい雑なプレーが増えていた。幸いなことに試合は意外と均衡したままで大きく得点差が開いていなかった。試合を観ているお互いのクラスメイトはかなり盛り上がっている。
「もういつまでそんなプレーするの! 落ち着いてしっかりしてよ‼︎」
美影の大きな怒声が響いて、盛り上がっていたクラスメイトの歓声が一瞬静まり返る。俺も一気に目が覚めた感じに振り返ると険しい表情をした美影が仁王立ちしていた。周りにいるクラスの女子はかなり驚いた表情をしているが、美影の隣にいた志保はやれやれといった顔をしている。
(なんか前にもあったな、こんなことが……)
ちょうどマイボールになり、サイドからのスタートだったので俺は大きく深呼吸をて頭の中をリセットした。
「うん、大丈夫だ」
そう呟いて、パスをもらいドリブルで一気に攻める。長山がすぐに俺について止めにきたがゴールの手前まで行く。俺は勢いのままシュートにいこうとすると長山がブロックに入る。
俺は落ち着いてフェイクを入れて長山の動きを止めると、そのままひらりと長山をかわして簡単にシュートを決める。これまでとは全く違う動きに長山は意外そうな顔をして呟いた。
「やっといつも宮瀬に戻ったか、厄介だな……」
その言葉を聞いて苦笑いをした。
第三Qが終了して第四Qに入る前に一度水分補給をする。ハーフタイムの時と同じように美影が持ってきてくれた。
「ありがとう美影……いつも助けてもらってばかりで」
「ううん、いいのよ。これぐらいしか出来ないからね」
美影はそう言って優しく笑っていたが、何故か顔が赤いように感じた。志保がスーッと寄ってきてひとこと俺に言う。
「由規、ビシッと決めてよね! さっきから美影はみんなから冷やかさればっかりだから、由規が魅せればみんな納得するから」
「よく分からないけど、任せておけ‼︎」
美影と志保に見送られて第四Qが始まる。
調子を戻した俺は得点を重ねていくが、長山達も負けじと点を取る。さすがに俺も長山も始めから出場しているのでそれなりに疲労が出てきている。残り時間も僅かになり、応援しているお互いのクラスもかなり盛り上がっている。ひとつひとつの動きに大きな声援が送られる。
もうワンプレーで終わりの時間になり、俺達のクラスのマイボールになる。得点差は二点差で、ここでシュートを決めれば同点だ。
(俺の実力からしてスリーポイントは無理だ……最後に長山と勝負だな)
フリースローラインまでドリブルで攻めると長山が必死にディフェンスにくる。シュートを打たせまいとかなりのプレッシャーをかけてきて、ゴール下まで行ってしまう。
(しまった、下まで入り過ぎたな……)
このままだとエンドに出てしまい、試合が終わってしまい長山の作戦通りになる。多少強引だけど無理矢理シュートにいくが、すぐに長山はシュートブロックの体勢になる。このままだと確実にブロックされてしまう……長山はしてやったりといった顔をする。
しかし俺はそのままゴール下側に体勢を変えると長山もつられる。俺は二歩目で体を投げ出すように向きを変えてバックシュートを放つ。全くゴールは見えていないが、感覚で放り投げた。俺はそのまま倒れ込んでしまいボールの行方が分からなかったが、この試合一番の歓声が上がる。
すぐに立ち上がると、悔しそうな顔をした長山が目に入った入った。
(ゴールが決まったんだ!)
点数を確認して嬉しさのあまりガッツポーズをしようとした瞬間、飛び込んでくる勢いで抱きついてくる人影があった。
「やったね‼︎」
満面の笑みをした美影だった。一瞬、何がなんだか分からなかったが、さすがに大勢のクラスメイトの前だったので一気に恥ずかしくなった。でも興奮していたのか美影がそのことに気がついたのはちょっとしてからだった。暫くの間はみんなから冷やかされるネタになってしまった。
試合が終わりみんなの興奮も落ち着いてきた頃に美影に確認をした。
「なんであんなに興奮してたんだ? 美影にしては珍しいよな」
「えっ、な、なんでだろうね。気がついたらよしくんに抱きついてたの」
薄く赤くなり照れた様子で美影が答える。
「でも本当に美影のおかげだよ」
心から感謝するよるように伝えると、美影は顔を左右に振り遠慮した感じで微笑んだ。
「私はよしくんの彼女になれて良かった。またひとつ思い出が出来たね」
美影の言葉に俺はなぜか一瞬、違和感を感じたがこの時はあまり気にしなかった。
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