第54話:新しいスタートの時 ⑤

その頃、生徒たちは新学期に向けて自宅学習を始めていた。


 菜々華は来年最終学年になるが、現時点では進級に必要な単位数が休校とテスト延期により得られていない。


 そのため、先生に「私たちは進級できるのでしょうか?」と聞くことにしたが、仮に聞いたとしても必要な成績や評価をもらえていない以上進級の可否も判断できないことになる。


 しかし、このままいくと新学期は休校に加え、前年度の体制をそのまま引き継ぐ形になるため、先生たちは子供たちと2年目をスタートすることになる。


 これは生徒たちにとっても先生たちにとってもどのような判断をするべきなのかを迷わせてしまう要因になってしまう。


 菜々華は他の学校に通っている友人たちに連絡を取ってみたが、他の学校は通常授業になっているため、進級には支障が出ないというのだ。


 この時彼女は焦っていた。その理由として、今回の特例措置は彼女が通っている学校のみ適用されており、このままでは受験する際に不利になってしまう可能性があるのだ。


 だからこそ、州としても今月末には新しい運営企業が決まり、生徒たちが受けられていないテストを受けて、新学年に向けたオリエンテーションが始められるように教員や教育委員会が動いていくことになっていた。


 しかし、今年度で異動になる先生が担当しているクラスの生徒の総合学習評価や学習記録などをまとめなくてはいけないため、一部のクラスでは未受験の試験が複数ある生徒の評価を誰が代わりにするかを決めなくてはいけない状況になっていた。次の移動先の学校には連絡をしているが、次に着任する学校での授業開始に間に合わないことになった場合、その学校にも迷惑をかけることに繋がっていく。


 その後、再試験を春休みに登校日を設けて実施すること、これらの延期科目の評価は点数に準じた評価をそのまま採用すること、全員の進級を認める事などを州教育委員会で決定し、彼女が通っている学校に通達し、今回の措置に該当する生徒に対して通知した。


 菜々華はこの通知を受けて、来年度は最終学年の生徒として学習することが可能となり、推薦条件の一部に該当しない可能性のある項目も最終学年の春まで猶予が設けられ、そこまでに条件をクリアすることでスカウト型推薦か試験型推薦のいずれかを選択して出来る権利を学校からもらえることになっていた。


 ただ、彼女にはある不安があった。


 それは、高校を卒業出来たとして国籍選択の問題が出てくる。


 彼女は現時点で約7年間のアメリカへの居住があるため、今後グリーンカードを申請することで永住権を取得することが出来て、現地の人と同じ条件で就職などが出来るようになる。


 しかし、日本国籍を選択している場合は改めて必要なビザの発給を受けることや就職するにしても学生ビザから就労ビザに変更する手続きもしなくてはいけないため、何かと手間がかかってしまう。


 だからといって、日本に帰国し、日本の大学を受験したとしても、今まで日本の学校に通っていたのは小学生の時のみで中学校以降の学習は日本で受けていないため、問題の解き方も異なるだろうし、面接も日本語と今まで英語中心で暮らしていた彼女にとっては1つの挑戦になる事は間違いない。

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