第52話:新しいスタートの時 ③

 前回もボーナススコアは全問正解できたが、ステップアップスコアを2割しか取れなかった科目もあり、そのスコアが再試験科目を増やしてしまった要因になっていた事もあった。


 そして、物理・科学・数学と理系科目が終わり始めると彼女の顔が次第に曇っていった。


 その理由として周囲の同級生が「今回は何とか出来た」や「今回のテストはかなり出来がいい」などと話していたため、自分の手応えとしては数学に関しては80点以上取れたと思っているが、上位クラスの最低得点を下回ってしまうと新しく上位クラスには入れない事になるため、今回の最低得点がいくつなのか気になった。


 その日のテストが終わり、国際学・異文化研究・政治経済など社会系の科目を明日に控えている彼女にとって少し余裕が出てきたが、不安はその先にあった。


 そのテストとは入学時に特待生以上で入学した学生に課される“Diplomatic Leader education(政治リーダー育成)”という大学特定入学者選抜試験の評価にも関わる科目で、この科目で3期連続赤点を取ると自動的に推薦対象者から外れてしまうという恐ろしいテストだ。


 彼女は前回90点以上を取ったため、推薦に必要なポイントクレジットを減らさずに1回目は通過できたため、今回もその時と同じだろうと思っていた。


 しかし、今回のテストは前回のテストとは異なり“国際外交における若年層の立ち位置と必要な育成について”というテーマで学んだことを答える記述問題とテーマに沿った意見を書くという論文問題の試験があり、記述問題は前回と同様の100点満点、論文問題は基本評価A(100)~F(0)とH(-)の5段階評価で点数が変わる。


前回と違うのは今回のテストからH評価になった場合には“内容の説明が必要のため成績保留”と判断されたことになるため、担当の先生と面談をして、最終的な点数や評価が決まるのだ。しかも、文字数も前回の1000単語から1600単語以上になっているという過去の傾向もあり、毎年受講している生徒たちが戸惑う要因になっているのだ。


 しかも、昨年のこの時点で年間の成績に満たないことが確定した生徒は推薦メンバーから外れてしまうことになるため、昨年も10人いた対象者がこの時点で5人に減ってしまったという事例や過去にはこの時点で0人になり、翌年の特待生枠が増えたという年もある。


 今年は現時点で3人の生徒が選抜から外れる可能性が残っているという状態で、3人の中に菜々華は含まれていなかったが、イエローリストというすぐに外れる対象ではないが、現在の成績では推薦が出来ない可能性がある生徒のリストに彼女が入っていた。


 そのため、彼女が今回のテストでB評価以上を10科目中7科目以上出さないとレッドリスト(選抜から外れる)に入ってしまうため、次回以降の成績の好転を求められることになり、夢だった大学への特待生入学が難しくなる。


 そして、翌日になり運命の選抜クラスの試験がやってきた。


 今回の試験は政治リーダー育成クラス以外の範囲を明示されておらず、科目によっては事前の準備を出来るのは配点の低い記述問題のみという彼女にとってはかなり心配な部分があった。


 そして、政治経済のテストが始まり、問題用紙を広げた瞬間、彼女の顔が曇り始めた。


 その理由として、前回のテスト範囲との共通問題が数問出ていたことや今学期学んできた内容の発展・応用問題が出るなど彼女が予習をしていた範囲外からの出題数が多く、解ける問題がかなり少なくなっていたため、今回のテストで最低点になる可能性を覚悟してテストを解いていた。


 その後、国際学と異文化研究に関しては彼女が学習してきた範囲から出題されていたため、問題なく設問を解答できた。


 そして、その日の最大の難関である政治リーダー育成のテストが1時間後迫っていた。


 その頃、窓の外を見ると、別棟の普通科と特待生以外の生徒は帰宅の途についていた。


 その光景を見ていた菜々華とナンシー、キャロルは「私たちは選ばれた人たちだから、この子たちよりも頑張らないといけない使命がある。」というやり取りをしながら次のテストの勉強をしていた。


 その時だった。試験30分前に先生がいきなり入ってきて「ごめんね。これから緊急の教職員会議が入ったから、今日のテストを延期します」と言ってきた。


 ただ、この時間はスクールバスがなく、帰宅手段がないと帰宅できないのだ。


 少しすると、特待クラスの主任であるブライアン先生が「みんなの両親ですぐに迎えに来られない人いる?」と聞きに来た。

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