第51話:新しいスタートの時 ②
彼女は入学時のテストで学年150人中80位とそれなりの成績だが、上位5位の生徒の点数とは100点以上の差が出来ていて、その差を埋めるためにはテストのボーナスポイントをどれだけ加算し、クラスポイントもどれだけ積み上げられるかが鍵になる。
特に、彼女は第二外国語でもイタリア語とスペイン語の授業が特に苦手で、この2科目が全体の成績を落としてしまっている要因になっている。
そこで、この2科目を徹底的に勉強し、テストの成績を上げなくてはいけなかった。
しかし、彼女にとっては苦手な科目であり、今まで身近で使われてこなかった言語ということもあって、なかなか習得することが出来ていなかった。
そこで、同じクラスにスペインとアメリカのダブル(=ハーフ)であるクリステルとアメリカとイタリアのダブルであるミッシェルがいたため、2人に特訓してもらおうと考えたのだ。
ただ、彼女たちは人に教えたことはなく、自分たちも現地で学んでいたわけではないため、親から教わった言葉など基本的な事しか分からないという。
確かに、2人は3歳まではスペインとイタリアにいたが、4歳になるときに両親の仕事の都合でアメリカに来たため、バイリンガルではあっても第一言語(=ネイティブ)として使っている人のように話すことは出来ていない。
しかしながら、彼女たちもフランス語に苦戦していて、学年上位30番以内に入るためにはあと30点足りないのだ。
つまり、フランス語の赤点を回避することが必要で、再試験を受験することも出来るが、この学校のルールでは仮に100点を取ったとしても8割評価もしくは2回分の平均点のいずれか良い点が計上されるため、赤点以上の場合は前者が、赤点以下の場合は後者がそれぞれ適用される事が多く、赤点以下を取ってしまうと再試験で最低でも以前の得点の1.5倍程度の得点を取らないと赤点を回避することは出来ないのだ
実は前回の中間テストでも赤点を取って、再試験を受けたことで合格出来たが、彼女はこの制度を利用するため、本試験の結果が利用可否の評価に繋がる事になり、きちんとした成績を出さないと絶望的な事になるのだ。
そして、このテストは彼女の10年生への進級の時に指定校クラスに行けるのか、一般受験クラスに行くのかを決めるテストでもあり、本心としては気が気ではなかった。
試験週1週間前になり、彼女は先生から伝えられた範囲を徹底的に勉強していたが、やはり言語のクラスということもあり、筆記試験が出来たとしても、実技試験で落とされる可能性もあるため、きちんと知識と会話を両方バランス良く勉強しておかなくてはいけないのだ。
前回は基本単語を使って会話をするだけだったが、今回は基本単語を使いつつ、新たに習ったフレーズを使って会話する事になったため、前回のように80点以上を取れる保証はなかった。
そして、ある程度言いたいことがまとまった時に兄と姉に手伝ってもらい、会話の練習をしたが、2人からは辛口のコメントを言われてしまい、菜々華はショックで頭が真っ白になってしまった。
1週間後、試験週に入り、彼女は得意な科目からスタートと言うこともあり、以前よりも良い結果を作れるのではないか?とワクワクしていた。
1日目は国語とコミュニケーションクラスのテストが合わせて7コマある。その中でも英語と中国語は筆記試験も実技試験いずれも問題なかったが、問題はフランス語とドイツ語の筆記試験と実技試験だった。
その理由として、フランス語はプレテストでは70点と85点でプレアドバンスクラス程度の成績は取れていたが、本試験は全てのコミュニケーションクラスのテストで問題のレベルが上がり、実技課題も目指すクラスで課題が異なるのだ。
彼女の場合、来期から全てのクラスをアドバンスクラスもしくはプレアドバンスクラスに入らないと9年次での指定校クラス進級のための選考で不利になり、10年次の当該クラスの進学が難しくなる。
そして、彼女の志望校であるクローバーン大学はこの制度の対象校のため、この選考から外れてしまうと一般入試しかなくなり、入試倍率が40倍近いため、合格するには今の成績ではかなり難しい事が担任の先生から告げられていた。
1日目の試験が終わり、家に戻る途中で、“私は大学に行けるのだろうか?”ということだった。
この時、彼女の成績で行ける大学はいくつかあったが、いずれも彼女が志望する教育系や経営系の学科がなく、入学金や学費も高くて両親にはとてもではないが捻出できる額ではなかった。
そこで、彼女の条件に合う大学を探したところワシントン周辺に2校、ニューヨークに1校、テキサスとアラバマに2校ずつ見つかったが、最終的にはニューヨークにあるクローバーン大学にした。理由として、他の学校よりも教育カリキュラムが充実していて、他の姉妹校とも学校間交流のためにお互いの学校を行き来することも出来て、企業とのパイプもしっかりとしているため、他の大学に比べてさまざまな体験や経験を活かした学校生活を送れると思っていた。
ただ、学費が年間2万ドル(約200万円)とかなり学費は高いが、ラップトップとタブレットなど学習に必要な機器が新品でプレゼントされるため、仮にこの大学には入れた場合、入学準備品として必要になるのは移動手段と研修費用だけだった。
だからこそ、両親としてはこの大学に合格し、上の2人と同じ生活を送って欲しいと思っていた。(兄と姉は大学に学費免除の特待生で入学し、国費をもらって生活していた)
翌日は5科目のテストがあったが、彼女にとっては試練のような状況だったのは間違いないだろう。
その理由として、数学と物理は今回の最大の山場だと予想している同級生が多かったことや2日目はこの2つのクラスだけ範囲が広く、出題形式も明かされていないため、毎年生徒たちが苦戦して、学年平均とクラス平均、習熟度別クラスの基準点がそれぞれ下がる傾向にあるのだ。
彼女は「これはチャンスだ」と思っていたが、実際に問題用紙を見ると一気に絶望の淵に追い込まれそうになった。
なぜなら、数学は200点満点中ボーナススコアが30点分、ステップアップスコアが60点と通常の問題を全て正解しても上位2クラスには入れないし、物理に関しては100点満点だが、通常問題は半分の50点でこちらもボーナススコア・ステップアップスコアそれぞれ25点分ずつ配点されていて、この50点分の問題を落とすと完全に赤点になってしまうのだ。
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