第49話:菜々華の葛藤 ⑩
の後、英語を話せるようになったことで他の同級生とも円滑にコミュニケーションが取れるようになっていったが、その後も問題は尽きなかった。
そのため、これまでさまざまな問題を抱えていた彼女にとってバーニング・ヒルズ高校を受験することは容易ではなく、毎日頭の中でモヤモヤが止まらなくなっていた。
その要因になっていたのが、“全寮制”と“海外研修”など経済面のことだった。
今まではボランティアでも自己負担がほとんどなく、自治体負担や国負担の活動が主だったが、この高校は海外研修も積み立てがあり、ボランティアに参加するにも数十万の参加費がかかるなど今までとは違い、個人負担がかなり重くのしかかっていく。
そこで、先生から両親に話してもらい、了承を得た上で受験することにしたのだ。
後日、先生と両親が学校で面談をして、進路や現在の成績など受験に関係することを話し合い、受験に関しての最終決断はジャスミンとよく話し合うことになった。
その日の夜、ジャスミンと両親は受験に関して話していて、彼女のある異変を感じていた。
それは、彼女の総合成績は上がっていても、月間成績や定期テストの成績が停滞していることだった。
これは菜々華も似た状況になっていた。
しかし、彼女の場合は高校だけ決まっていたが、そこを受験できるだけの学力がないため、受験できるだけの学力を先に付けないといけないのだ。
そして、進級条件をクリアして、現役で合格しないといけない理由があった。
それは“次年度以降は男女共学に移行し、編入も年5人までとします”という高校側からの受験生に向けたアナウンスだった。
その理由として、“受験者の減少が著しく、これまでの教育の質を維持することが難しくなったため“という説明があったが、同級生に聞くと2年後に近くの高校と統合することになったため、男女共学校として再スタートをきることになったというのだ。
もちろん、彼女にとっては嬉しい話しだが、一方で“競争相手が増えること”・“これまでの合格基準よりもハードルが高くなった”など彼女にとっては試練も同時にやってきたことになる。
2人とも受験という名の荒波に向かって突き進んでいるが、どこか挫折してしまい、立ち直れなくなりそうなほど見ている側は心配で仕方がなかった。
そして、ジャスミンと菜々華の受験まで1年に迫った頃だった。
それぞれが通っているミドルスクールでは受験に向けた講習なども始まり、慌ただしく1日が過ぎていく日々が始まった。
そして、菜々華は今まで週に3日放課後に通っていたフリースクールから完全に学校に戻ることになり、両親も一安心だった。
その頃、悠太は留学先のニューヨークの中学校に向けて海の上を飛行していた。
機内では他の留学生は寝たり、英語の勉強をしたりしていたが、彼は久しぶりの飛行機に緊張しすぎて何も出来なかった。
そして、ニューヨークの空港に着くと第一声に“ここに菜々華が住んでいるのか”と小声で言った。
実は菜々華がアメリカに引っ越してから1度もアメリカに来たことはなく、住んでいる地域も3ヶ月前に知ったばかりだったため、どのような場所なのか興味があった。
今回、留学メンバーに選ばれて、彼女が住んでいる州に来られたことが彼にとっては嬉しくて仕方がなかった。
ただ、学校のプログラムということもあり、留学期間の3週間はスケジュールが決められていて、メンバーや現地の学生たち以外との外出する機会は与えられていなかった。
そのため、今回は現地で彼女に直接会うことは出来ないが、時差を気にせずメールでやりとり出来るため、彼にとっては留学も頑張れると思えた。
それから2週間後、テストが終わった菜々華とジャスミンはお互いの家を行き来しながら受験勉強をしていた。
この時、菜々華はテストが終わったことで安堵した一方で次に待ち受けている壁に不安を感じていた。
その壁というのが“来年度の習熟度別クラス編成テスト”だった。
このテストは最終学年である8年生で学ぶクラスを決めるもので、進学先ではなく、個人成績でクラスが決まるため、彼女の受験予定の高校へ進学するには文系科目をミドルクラス以上、理系科目を上位2クラス(アドバンス・エキスパート)のメンバーに入らないと彼女が志望する高校への進学は難しくなる。
彼女は昨年のテストでは文系科目はかろうじてミドルクラスの成績基準を満たしたが、理系科目はエキスパートクラスとアドバンスクラスの基準を満たさなかったため、プレアドバンスクラスだったこともあり、彼女にとっては屈辱の1年になってしまった。
その思いを2度としないためにも彼女は寝る間を惜しんで勉強に打ち込んだ。
翌朝、起きてみると携帯に“Missed”と表示されていた。
彼女は「こんな朝早くに誰だろう?」と思って不在着信を確認すると“Yuta”と書かれていた。なんと、早朝の電話は悠太だったのだ。
彼女は急いで折り返したが、電話に出ず、またあとで電話をしてみることにした。
お昼になり、電話をしてみると彼もお昼休みで寮に戻っていた。
彼女が今朝の電話について聞いてみると、彼は「テスト終わったと言っていたから電話してみた」と言っていたが、朝の6時に電話が来るとは思っていなかった彼女は虚を突かれた。
そして、彼は「あと3日で帰国になるけど、学校の先生の許可をもらったから空港まで来られる?」と聞いてきた。
彼女は「土曜日だから大丈夫だと思う」と答えたが、彼が「待っているよ!」と言われた事もあり、彼女の頭の中でグルグルとさまざまな事が渦巻いていた。
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