第48話:菜々華の葛藤 ⑧-1
その後、彼女は不登校になりながらも学校初の快挙を成し遂げることになる。
それは地域最難関と言われている桜雲学園高校付属中学校に特待生として入学することが決まったのだ。
この学校は毎年系列校である桜雲学園高校への進学も然る事ながら角上国際高校などの偏差値75以上の難関校に卒業生を送り込んでおり、卒業生には香西賢治現外務大臣や国内大手商社の駒井祐太朗社長など名だたる人たちが学んだ学校でもある。
なぜ、彼女は特待生として入学出来たのか?その理由は“彼女の発想力”と“特異性”だった。
実は彼女の才能に早くから気付いていた先生がいた。その先生は小学校3年生の時の担任の村山先生だった。彼はまだ勤続5年だったが、子供をよく見て指導している姿勢が評価され、前年度末に若手教員の中で最優秀教員に校内で選ばれるほど校長先生は評価していたのだ。
そこで、翌年は学級崩壊寸前だった彩実の学年を担当し、見事に立て直した。
ただ、翌年以降は担任の先生が替わったこともあり、次第に再び元の状態に戻ってしまい、同時に彩実など当時いじめを受けていた子供たちが相次いで不登校や長期欠席になるなど学級崩壊になってしまった。
そして、担任だった田中先生は療養休暇になるなど学年全体が徐々に殺伐とし他雰囲気になってしまった。
そんなとき、村山先生の所に彩実が10枚ほどの紙を持ってきた。そこには“私の考える事”という彼女の意見や提案などを記してあり、先生が読んだところ面白いと思い、小学生アイディアコンクールに応募したところ、その作品が最優秀アイディア賞に選ばれ、彩実には複数の企業との商品開発の交渉権が与えられた。
実はこの学校の特待生は入学者100名に対して5名ほどの狭い門で、彼女の場合は“入学金免除・学費6年間免除”という特待生2人しか選ばれない。しかも、その2人も将来的に活躍が期待されるもしくは顕著な実績がある人にしか与えられない。
そのうえ、この2人は受験した人とは別に学校長推薦等で選ばれるため、受験をしている人でもなかなか勝ち取ることは出来ない。
それだけ普通にしていても勝ち取ることは難しいのだ。
このような子供たちとの交流がきっかけで彼女はその夢に向かって進むことにした。
彼女はこれが自分にとって最適な夢だと思ったからだ。
何度も葛藤をしていた彼女にとって一筋の光が差し込んでいった。
その夢を両親に話すと両親は「菜々華の夢なら応援するよ!」と言ってくれて、彼女にとっては“夢を応援してもらえる”という心の余裕が生まれたことで、今まで後ろ向きだった学校に対する不信感も少しずつ軽減されていき、彼女が以前抱えていた人間関係の問題なども少しずつ改善されていった。
ただ、彼女と一部の同級生との間ではかなりの壁が生まれており、その壁をどのように取り除くかで先生の頭を悩ませていた。
というのも、彼女は成績を少しでも改善したいと思い、学校に行けない時にはオンラインなどで勉強するなど進級に向けて自分で出来る努力をしていたが、一部の同級生から「不正をしている」や「ゴーストがいる」などと根も葉もない言葉をかけられたことで菜々華も今まで頑張ってきたモチベーションが一気に下降してしまった。
その結果、彼女は学校に登校せず、自宅でオンライン受講をすることに決めた。
この決断を先生たちは“自分たちの力不足”と感じ、彼女の自宅学習を認めた。
その後、彼女に対していじめともとれる行為をした学生にカウンセリングやモラル教育、コミュニティサービスを命じた。その時の彼ら・彼女たちは「なんでこんなことをされなくてはいけない」という気持ちだったということが周囲の同級生から聞いた話で分かった。
そして、2年生の秋セメスターの中間テストで先生たちが提示した条件をクリアし、次の学年に進級するための望みを繋いだ。
ただ、彼女にはある不安がまだ残っていた。その不安というのが“大学進学に際して必要な入学金”だ。
というのも、彼女が行きたい大学は家から約300マイル(=480キロ)離れている国立難関大学だったため、入学に必要なお金だけで少なくとも20000ドル(約200万円)から25000ドル(約250万円)かかり、そこに移動に必要な車や保険などを考えると現在の経済状況では難しいことになるのだ。
その上、きょうだいもそれぞれ進学や就職などを控えていたため、余計な心配をかけたくなかった。
そのためには入学金が免除になる“特待成績上位者“として選ばれなくてはいけない上に各州の教育長に入学推薦をしてもらわなくてはいけないというかなり高い壁を越えなくてはいけない。
今年度の特待成績上位者試験の志望者は3人に対して5300人と倍率から考えると約1800倍以上の難関を突破しなくてはいけないのだ。
しかも、3次試験まであって、1次試験から2次試験に進めるのは500人程度というかなり難しい試験で、今年は同成績の学生が3人いたため、最終合格者は5人になったが、同成績3人はfreshmanからsophomoreに上がるときに再度試験を受けるという条件になった。
菜々華はまだ7年生だったが、すでに行きたい大学を設定していたことで今後受験勉強をする上で余裕が生まれていた。
その頃、ジャスミンもある事で悩んでいた。それは“高校受験について”と“州スチューデントメンバーへのオファー”だった。
ジャスミンは学校でも成績優秀な生徒で先生としてはエリートが集うバーニング・ヒルズ高校に進学して欲しいと思っていた。
しかし、バーニング・ヒルズ高校は全米から学生が集まり、毎年入試倍率が100倍を超えるほど人気の学校だった。
しかも、受験生のほとんどがそれぞれの地域では進学校として有名な学校の生徒ばかりで彼女のように州立校からの志望者の合格率は平均7%程度とかなり狭き門をくぐり抜けないといけない状態になっている。
そして、バーニング・ヒルズ高校出身者のヤングリーダーは年々増えており、ヤングリーダーが若者に寄り添うことや自分の考え方の発信や交流が増えていったことでその地域の治安が改善するなど一定の効果をもたらすきっかけになっている。
彼女の担任の先生はジャスミンが最年少の医療ボランティアメンバーに選ばれた経緯やいじめ等に遭った同級生や不登校の同級生への寄り添う姿勢などを見てきて、“彼女がヤングリーダーとして活躍し、多くの人に彼女の魅力を感じてもらいたい”というささやかな希望があった。
しかし、彼女は寮生活をすることに対して恐怖心を覚えていた。その理由が“友達が誰もいない学校”だったからだ。
彼女にとっては幼少期から友達という存在は精神的な支えと同じくらい重要な存在だった。
実はジャスミンが日本からアメリカに引っ越してきた当時も入った幼稚園で上手くコミュニケーションが取れず、意思疎通が難しいという状態で、日に日に彼女のストレスが溜まってしまう事が増えたことで、園の理事長先生が日本語を話せる先生を急遽着任させて彼女のストレスを緩和させようとしたのだが、関係を構築するまでに2ヶ月を要するなど悪戦苦闘していた。
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