第47話:菜々華の葛藤 ⑧

 その話しを両親にしたところ、念のためホルモン検査を受けることにした。実は彩実の兄も身長がなかなか伸びず、ホルモン検査を受けたところホルモン分泌に異常があり、きちんと成長ホルモンが分泌されにくくなっていたことがあった。


 兄はその後ホルモン注射を受けるなどして成長ホルモンが通常の値に戻っていったが、定期的にホルモン成分を点滴しなくてはいけないなど近くで兄が受けていた治療を見ていた彩実にとってはその順番が回ってきたと思うと恐くて仕方がなかった。


 後日、ホルモン検査を受けるとある衝撃の事実が分かった。


 それは“成長ホルモンの分泌量が正常の人の半分しか分泌されておらず、このままでは骨の成長や体の成長に対して大きな影響や成長不順を起こす可能性があるという観点からすぐに治療をしないと彼女の成長が止まってしまう可能性がある”というのだ。


 この説明を聞いたときに母親は泣き崩れた。なぜなら、彼女の子供たちは何かしらの問題が起きていたことで“こうなったのは私のせい”と母親が自分を追い込んでいたのだ。


 これは菜々華があとで知ったことだったが、やはり彼女の事が心配だった。


 そこで、その週の土曜日の現地時間21時(日本時間:朝7時)にテレビ電話をすることにしたのだ。


 その事を伝えると、菜々華は彼女についての話しを母親から聞いて、その話すときに備えようとしていた。


 そして、土曜日になり、彼女に連絡を取ると画面に菜々華が出てきたことでお母さんに「えっ!?菜々華さん?」と彼女は3年ぶりに画面越しの再会を果たした事が信じられなかったのだ。


 そして、彼女と話しているうちに彼女があることを話した。


 それは、“私、身長が低くて他の子が出来る事が出来ないのです。例えば、他の子たちは普通の鉄棒で逆上がりが出来るのですが、私はその鉄棒では手が届かなくて”と辛い胸の内を打ち明けた。


 その話を聞いて、ふと自分がアメリカに来たばかりの頃を思い出した。


 当時、彼女は初めてのアメリカでの学校生活が始まり、周囲の子供たちと仲良く出来るか不安だった。


 そして、日本にもあった鉄棒で遊んでいたときのこと。彼女がやろうとすると鉄棒に違和感があった。実はアメリカの鉄棒は日本とは異なり、低い鉄棒は多くないため、ミドルスクールに上がると背が高い鉄棒しかなかった。


 そのため、他の子たちは普通に出来ていたが、菜々華だけは鉄棒が出来ずにただ見ているだけだった。


 その時の光景が彩実の現状と重なってしまってどのようにアドバイスをして良いのか分からなかった。


 彼女が考えていると彩実が「今度中学校の制服の採寸があるのですが、私だけサイズがないかもしれないと言われていて、すごく不安です」と言ってきた。


 この相談に関して菜々華はアメリカの学校の例を挙げて話した。


 「実は入学時に私も制服のサイズがなくて、特別注文で作ったのだけど、アメリカが多様性の国だからか追加料金などはかからなかったし、先生も業者さんに『この子はもっと背が伸びると思うので、すぐに新しい制服を作る時期が来ると思います』と言っていたの。この言葉を聞いて私はもっと大きくなりたいと思ってたくさん食べるようになったの。」


 この言葉の裏には彼女が周囲から「ナナは細いよね。私たちうらやましい」と言われたことがあった。実は彼女の学年は身長も高いが、平均体重も彼女の1.5倍になっている。そのため、彼女がクラスルームの写真を撮ると同級生との体格差で幼く見えてしまうこともしばしばだった。


 その経験を彼女に話すと「菜々華さんもそういう事があったのですね。私だけだと思っていたので安心しました。」と言って彼女は雑談を始めた。


 その雑談の中で彼女が違和感を覚えたのは“私はみんなから避けられているような気がする”という言葉だった。


 この言葉を聞いて以前に彼女のお母さんが言っていたことを思い出した。


 そして、彼女から詳しく話しを聞くと学校では他の子たちの背の高さを見ていると自分との身長差が大きくて、自分以外にも背が低い子はいるが、自分とは違って可愛がられていることや同級生でも妹のように可愛がられている姿を見て自分と何が違うのか分からないというのだ。


 この話を聞いた菜々華は「彩実ちゃんは彩実ちゃんらしく過ごしていいよ。だって、そうやって可愛がられないということは彩実ちゃんがその人たちよりも上のレベルにいるということだから気にしなくていい」と伝えた。

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