第46話:菜々華の葛藤 ⑦

しかし、彼女にとってはハードルが高い問題だった。その理由として同じクラスのチュンやチャンからいじめを受けていたことで、授業に集中出来ないことが増えていた。


 それでも彼女は何度も勉強に打ち込もうとしたが、勉強しようとする度に強い吐き気や頭痛、突発的なフラッシュバックなどが起きてしまい、勉強をすることが次第に恐くなってしまった。


 そこに彼女たちからのいじめが加わり、次第に精神的に追い詰められるようになった。そのため、学校に行ける日数が減ったのもいじめも原因として考えられるというのだ。


 ただ、彼女の場合は英語もやっと同年代で英語を母国語として使っている人と変わらないくらいまで話せるようになっていたため、学校に行かないで別の道を模索しようとしていた。


 しかし、彼女がやりたかったことは大学を卒業して、必要資格を取得する事が必要になるため、現段階でつまずいてしまうとその夢も達成することが難しくなってしまうのだ。


 その夢とは“辛い思いをしている子などが健やかに過ごせる場所を作ること”だった。


 この夢を志したのは自分の不登校の経験もあるが、ある子との交流だった。


 その子とは日本にいる山村彩実という彼女よりも2歳年下で小学校の上級生と下級生という関係だったこともあり、菜々華が小学5年生でアメリカに転校することが決まったときも彼女は何度も「菜々華ちゃんアメリカ行かないで」と訴えていた子だった。


 そして、彼女がアメリカの学校で不登校になったときにある1通のメールが届いた。差出人は彩実だったが、内容は彩実の母親が書いたものだった。


 “菜々華さんはじめまして。


 私は彩実の母の由美と申します。小学校の時はうちの彩実がお世話になりました。


 今回は少しご相談があって、メールを送らせていただきました。

 実は彩実が不登校になり、毎日自傷行為を自室で繰り返していて、親としては心配になって、彩実が家族以外で交流している数少ない方々にご相談をしています。


 彼女が不登校になった理由が他の子たちよりも成長が遅く、容姿に対するいじめや周囲との違いにショックを受けてしまうなど彼女の精神・心理が強くなっていった様に感じており、母親としては心配になることが多くなってきました。


 もし可能なら今度お時間を作っていただくことは可能でしょうか?“


 という彼女の母親からのメールだった。


 この文面を見て、当時の彼女の姿を思い出してしまった。


 彼女と初めて会ったときは本当に小さくて、他の子たちと身長差が変わらないほど違和感がなく、初対面だった上級生に対しても笑顔で寄っていくほど上級生が大好きだった。ただ、2年生になると彼女は他の子たちと並ぶと一番前で、彼女が最後に過ごした3年生の時は前から5番目までになった。その姿をみた菜々華は“まだ焦ることはない”と思っていたが、彼女は知らなかったところで最悪の事態が少しずつ起きていた。


 まず、菜々華が転校した3年生の冬頃から学年の中でも勉強がよく出来た彼女を標的にしたいじめが発生し、あるときは両方の家の祖父母から買ってもらったランドセルと塾の鞄を2階にある教室からグランドに向かって投げられて、傷だらけになってしまうという事が起きたのだという。


 この時もやった相手は“面白半分でやっただけ”と悪気はないと主張して先生がいくら注意しても聞く耳を持たない子だったため、彼女は学校に行くことが恐くなり、翌日は学校を休んだ。


 この時、母親はある異変を感じていた。それは、洗濯機に入っていた彼女が前日学校に着ていった服の一部が茶色くなっていたり、服の一部がほつれていたりと“彼女が何かをされたのではないか?”と勘ぐってしまうほどだった。


 その日はそっとしておいたが、その週末に彼女が父親と外出しているときに彼女の部屋の掃除をしたのだが、その時に彼女のランドセルとバッグに彼女がいつもスイミングで使っているタオルが掛かっていて、恐る恐るタオルをめくるとそこには傷だらけのランドセルと塾の名前が入った彼女の鞄と塾に持っていく

 そして、6年生になると個々の身長差や体格差が顕著になり始めていて、平均身長が女子だけで5年生の時から6センチも高くなっていた。しかし、彼女は背が高くならず、周囲から「彩実は子供だよね」や「うちの方が小さかったのに追い越しちゃった」と言われることが増えて、次第に心を病んでいった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る