第45話:菜々華の葛藤 ⑥

 そして、この席はボックス席になっており、離着陸時以外は向かい合わせて乗ることも出来るのだ。


 そして、出発時刻の17時になり、ボーディングブリッジがゲートから離された。


 航空機がプッシュバックを始めるとシートベルト着用サインが点滅を始め、チーフフライトアテンダント「乗客のみなさまシートベルトサインが点灯いたしました。もう1度緩みがないかどうか確認をお願いいたします」とキャビンアテンダントさんが伝えていた。


 そして、飛行機が離陸し、約1週間滞在した日本を離れて、再びアメリカへと向かって飛び立った。


 今回の席はグループシートだったこともあり、シートベルトサインが消えるとシートを反転させることで向かい合って座ることが出来るのだ。


 離陸から1時間後、シートベルト着用サインが消え、菜々華とジャスミンがシートを反転させると孝太が顔を赤らめていた。


 思わずジャスミンが「孝太が恥ずかしがっている!」と言うと、孝太は「なんか、華に囲まれて恥ずかしい」と恥ずかしそうに答えた。


 そして、機内でドリンクサービスが始まったころ、彼女はあることを思い出す。


 それは帰国の2日前に“僕もまもなく行くから”という悠太の言葉だった。


 彼女はこの言葉を何度も繰り返し言って、理由を探っていた。


 そして、空港の混雑もあり、到着予定時刻1時間遅れの12時間のフライトを経てニューヨークに着いた。彼女は空港に着いた途端、心が躍るような気持ちになった。


 飛行機を降りて、アメリカ用の携帯を起動すると両親から“Bターミナルの送迎専用駐車場で待っているから”というメッセージを見て、“分かった!”と返事をした。


 その後、言われた場所に向かうと3家族総出で迎えに来ていたのだ。


 そこには菜々華の両親、ジャスミン、ジェシカの両親、ブラッドのおじさんとおばさんと妹たちがいて、ブラッドは車の中で勉強していたのだ。


 そして、みんなでご飯を食べに行くことになり、家の近くにあるレストランに向かった。


 各々が車に乗ってレストランに向かっていると菜々華のスマホが鳴った。“何だろう?”と思いスマホを見ると知らない番号が表示されていた。


 その時は無視していたが、少しすると“メッセージを受信しました”と出たので、メッセージを開くとさっきの番号からだった。


 ただ、タイトルに“I’m Yuta”と書いてあったので、彼女がメールを開くとこう書いてあった。


“Hello. I got a new phone. And I need to tell you I have to go to High school in NY. It is short term foreign program in our junior high school. So, I can talk with you anytime anywhere.”


 “やぁ!新しいスマホを買ったよ!そして、伝えたいことがあるのだけど、今度短期留学でアメリカに行くことになって、場所がニューヨークだからいつでもどこでも話せるね!”


このメッセージを読んで悠太が言っていた言葉が理解出来た。


 彼女は彼が来るのが待ち遠しくて仕方がなかった。


 ただ、この時は彼の身に起きることを悠太も菜々華も知る事はなかった。


 そして、空港を出て20分後、みんなで予約したレストランに着いた。


 中に入るとそこはバイキング形式のレストランで、菜々花たちの席は個室だったようで、レジで伝えると他のお客さんとは違う通路で席へと向かった。


 向かう途中にもいろいろなバイキングスペースが用意されていて、見ているだけでも楽しかった。


 席に着くとそこはグループ専用の部屋で、同じ物が部屋の中に用意されており、さきほど通ったスペースには自由にいけるようだった。


 そこで、みんなで好きな物を取り、それぞれ美味しそうに食べていた。


 時間は無制限で、好きなだけ食べられるということもあって子供たちは目を輝かせながら食事を取っていた。


 2時間後、そろそろお店を出ないと子供たちの外出制限の時間になるためお開きにした。


 菜々華は日本で悠太に会ってきたことを両親に伝えると「菜々華良かったじゃない!悠太君と久しぶりに会えて良かったね」と言っていた反面、彼女が日本に行っている間に菜々華の先生から掛かってきた電話の事が気になっていた。


 それは“菜々華さんの成績はギリギリ進級出来る状態ではありますが、これ以上成績が下がると3年生に進級出来ない可能性があるので、菜々華さんにお伝えください”という“事実上のイエローカード”状態だった。


 レストランから帰宅すると他のきょうだいが部屋に戻ったことを確認して菜々華をリビングに呼んだ。


 そして、母親が彼女に先生からあった電話連絡の内容を彼女に伝えた。


 すると、その話を聞いた彼女の顔が少しずつ曇っていった。


 話が終わると菜々華が重い口を開いた。


 「実は私、いろいろあって学校を辞めようかと思っていたの。」とカミングアウトすると両親はびっくりした顔で菜々華を見ていた。


 それもそのはずで、両親は彼女が真面目に学校に行っていた時期とフリースクールに通っていた時期があるが、これまで1度も“学校を辞めたい”や“学校つまらない”という発言をしたことがなかった彼女の口から“辞める”という言葉が出てきたことが両親にとってはショックだったのだ。


 その話し合いをした数日後、再び担任の先生から連絡が来て、「菜々華さんを3年生に条件付き進級させる事が学年会で決まりました。」と伝えられた。


 両親は安心した反面、不安が同居していた。その理由とは“出席率8割”と“テスト成績平均60点以上”という条件を提示されたが、彼女は今まで出席率こそ6割程度、テストも50点程までしか取ったことはない。


 そのため、60点を取りたいという気持ちがあるなら先生たちも全力でサポートしていくという方針だった。

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