第44話:菜々華の葛藤 ⑤

  30分後、先発の飛行機の搭乗が始まり、お客さんが吸い込まれるように飛行機に乗り込んでいった。そして、搭乗口が閉まり、飛行機がゲートから離れていく様子を見るといよいよ日本を離れるときが来たのだと寂しい気持ちがこみ上げてきた。


 そして、先発便が出た後、彼女たちが乗る飛行機が2時間遅れで搭乗ゲートに入ってきた。そして、搭乗開始時間が定刻から2時間遅れとなることがアナウンスされ、彼女たちは荷物を持って搭乗開始を待った。


 彼女たちは搭乗ロビーの前で今から始まる長旅を緊張しながら待っていると、ある男性が横に座ってきた。


2人は「この人は誰?」と思いながら、その男性の顔をのぞき込んでいた。ただ、背格好が誰かに似ているような気がしたが、気のせいだと思い、彼女が持ってきた小説を読んでいた。


 すると、座っていた男性に「お待たせ!」と言って女性が合流すると2人はその声にびっくりした。


 なんと、日本に留学しているジャスミンの姉であるジェシカだった。そして、横に座っていたのはジェシカのボーイフレンドである同じ大学の孝太だった。


 ジャスミンは「ジェシカは何でここにいるの?」と聞くとジェシカが「あれ?お母さんから聞いてなかった?今日お姉ちゃんと一緒の便で帰ることになっていたの。」と留学中の大学が冬休みになったため、一時帰国をすることにしたのだった。


 そして、ジェシカは結婚を前提に付き合っている孝太とアメリカに帰り、2人の交際を両親に認めてもらう事や定期的に会いに行くことなどを報告する予定だという。


 実はジャスミンも小学校で出会ったブレッドという彼氏がいる。彼はかなり頭が良く、中学校の中でも注目されていた存在だった。しかし、彼の家は3年前に父親の暴力で両親が離婚し、母親・コートナーがブレッドと兄・ブライアン、妹3人を引き取って1人で育てていたため、兄のブライアンとブレッドは妹たちが自分たちにお父さんを探してしまったときにどのように父親の代わりをしてあげられるかを考えていた。


 なぜなら、10歳離れたマリンは両親の離婚後に生まれたため、父親の顔を知らない。そのため、将来的に出生について聞かれたときに父親がどんな人なのかを説明出来るか分からないし、7歳離れたノエル、5歳離れたメアリーは離婚当時4歳と6歳だが、父親と母親がノエル2歳、メアリー4歳の時に別居しているため、父親の記憶がほとんどない。


 そのため、今でも「ノエルのパパはどこ?」とブレッドに聞いてくることやブライアンを「パパ」と呼ぶなど父親を知らない妹たちは年の離れた兄であるブライアンを“パパ”と呼び、ブラッドを“お兄ちゃん”と呼ぶようになってしまった。


 そして、母親は昨年再婚し、まもなく双子の妹が生まれてくることになっていた。


 そのため、マリン、ノエル、メアリーは今の父親が自分のお父さんではない事は分かっていたが、自分の本当のお父さんを知りたかったのは彼女が1番思っていたことだろう。


 今は小学2年生になり、周囲の友人たちがお父さんと一緒にバス停に来る姿を見て、「私には本当のお父さんはいない」と1人で落ち込んでいた。


 その話を聞いたジェシカはある一抹の不安を彼から感じていた。


 それは“将来結婚するときに僕がいなくなると妹たちが孤立するのではないか?”ということだった。


 実は今のお父さんは今度生まれてくる子供には愛情を注いでいるが、異父姉妹である3人の妹に対しては「お前は私の子ではない!」と言って十分な愛情を感じられない状態になっていた。


 そのため、日に日にメアリーが情緒不安定になっていき部屋に引きこもるようになり、ノエルも学校から帰ってくると自分の部屋に引きこもるようになった。


 メアリーは自分の部屋がなかったため、幼稚園から帰ってくるとブラッドの部屋で過ごしていた。


 そして、夕飯も父親よりも早く食べて、寝るときは子供たちの部屋の上に作られている20畳ほどのロフトで寝るようになっていた。


 この話をジェシカから聞いた菜々華は経験がなかったが、その光景を想像するだけで恐くていられなかった。


 そのような話しをしていると「お待たせいたしました。スカイ航空2便ニューヨーク行きの搭乗を開始します。まず、ファーストクラス、エアラインゴールドメンバーのみなさまからご案内させていただきます」とゲートスタッフから案内があった。


 それぞれの搭乗券を見てみるとジャスミンと菜々華が35AB、ジェシカと孝太が36ABに座ることになり、後ろが知り合いだと安心して機内で過ごすことが出来ると思っていた。


 そして、彼女たちの搭乗順になり、チケット処理をして機内に乗り込んだ。


 この日は上級クラスが満席、彼女たちが乗るエコノミークラスは7割程度埋まっていると聞いた。実際にエコノミークラスを見ると彼女たちの隣の席は誰も座っておらず、前の列には窓際も2人ずつ、中央、反対側も誰もいなかった。


 実は彼女たちの席は$20のシートチャージがかかる席で、エアラインメンバーでかつ1度で4人以上の予約が必要になる。


 今回はジャスミンの母親がフライトアライアンスメンバーで菜々華と孝太をグループメンバーにしたため、この席を予約出来たのだ。

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