第43話菜々華の葛藤 ③-1
彼女は彼の成長ぶりにびっくりしていた。なぜなら、以前に会ったときは彼女とほぼ変わらない身長だったのだが、今では彼女と並ぶと彼のお腹の辺りに彼女の頭が来るほど急成長していた。
そして、彼と一緒にテーマパークへ遊びに行き、1日中彼との時間を過ごした。そして、彼と電車で帰っている時のことだった。彼が、「菜々華に話がある」と言って2人の最寄り駅にあるファミリーレストランの個室に入った。
最初、彼女は何のことか分からなかったが、いろいろと思い返すと前日に楓華が話していた事を思い出した。
彼女は「彼が話したいことはこれかも」と思っていた。すると、彼の口から「来年度からインターナショナルスクールに転入することになったから、みんなと会えるのはあと何回でもない。ただ、まだみんなには話さないように先生から言われているから菜々華だけにしか話していないけど」とまだ誰にも伝えていないことを彼女にだけ話してくれた。
そして、道が暗くなっていたため、彼が家まで送ってくれた。送ってもらっている道中でも彼との貴重な時間を過ごせたことは彼女にとってはすごく嬉しいことだった。
そして、彼が誰にも言ってこなかったことを教えてくれたことで彼女の中ではすごく特別な存在になっていった。
そして、帰国前日になり、お土産や頼まれた物を買いにデパートに行くと、そこにはさまざまな国の人が買い物を楽しみながら店員さんとやりとりしていた。
その光景を見た瞬間、彼女がアメリカのモールで見た光景を見ているようだった。あの時はまだアメリカに引っ越してきて現地の事情も分からない時だったため、店員さんにいろいろと尋ねて情報を得ながら買い物していた。その時の店員さんもあの接客をしている店員さんのように笑顔で筆談を使いながら丁寧に対応してくれていた。
そして、夕飯の買い物をスーパーでジャスミンとしていた。すると、ジャスミンが「日本ってこんなにたくさん商品が売っているのね。私は小学3年生の時にアメリカに帰ったからスーパーには来ていたけど、紙が読めなかったから何を売っているのかは分からなかったけど」といって微笑みながら話しかけた。そして、買い物を終えて、日本での最後の夕飯をとり、一緒に寝た。
そして、帰国当日の朝になり、家の片付けと出発前の点検、荷物の確認と準備を済ませて、家を出ようとしていた。この日はフライトが15:00発だったため、お昼頃に空港に着くように家を出ることになっていた。
出発の時間がせまっているなか、出発準備をしていたジャスミンが「ナナ!私の服がない!」と慌てた様子で彼女の所に来た。
菜々華は「どこに置いたの?」とジャスミンに聞いたところ「多分、お風呂場か洗濯するところ」というのだ。今回、お風呂は近くの親戚の家で入ったが、洗濯はコインランドリーを使ったため、親戚の家かコインランドリーにあるのではないか?と思ったのだ。そこで、親戚の家にいくと偶然おばさんがお昼で帰ってきていた。すると、「菜々華ちゃん、どうしたの?」というと「ジャスミンが服をどこかに置いてきてしまって、探しているの」と伝えるとおばさんが「そういえば、家では見たことがないし、誰も着ない服があったのよ」と言って、洗濯物の山から丁寧に畳まれたワンピースとキャミソール、上に羽織るカーディガンを持ってきたのだ。その服をみて、ジャスミンが「これ私の。ありがとう」と慣れない日本語でおばさんに伝えると「いえいえ。家の子たちはこういう服は着るけどサイズが小さいから誰の頭と思っていたのよ。無事に渡せて良かった」とホッとした様子だった。
そして、2人は空港に着き、荷物を預けて、出発ゲートの中に入った。すると、その日は土曜日だったこともあり、多くの出発客でゲートの中はごった返していた。15時発の飛行機の搭乗口に行ってみるとそこには先発の飛行機が駐機しているが、搭乗開始をしている様子はなく、搭乗客がロビーで待機している状態だった。しかも電光掲示板の“先発13:00 パリ”という表記の横にあるモニターには“次発 15:00 ニューヨーク”と書かれているが、先発のモニターを再び見ると“3便は現在、機材トラブルのため搭乗を見合わせております。搭乗開始予定は14:30分頃の予定です。”と出ていた。そして、この便の出発予定時刻は15:00になったため、次発は遅延することが確実になった。そのため、時間が決まるまでゲートの近くにあるお店で雑誌や飲み物を買って“次発”と書いてある待合ロビーで待つことにした。
雑誌と飲み物を買って休んでいると、彼女の携帯が震えた。そこには“メッセージ受信”と表示されていて、送信者は悠太だった。
彼女は受信したメッセージを開くとそこに“今日、アメリカに帰る日だね。本当はお見送りしたかったけど、塾があったからお見送り行けなかった。楽しい時間をありがとう。また帰ってきてね。待っているよ。”と書いてあって、最後に“これから寒くなるから体調に気を付けてね。学校頑張って。“と彼の優しさが詰まったメッセージだった。
彼女はそのメッセージを保護して、何度も読み返していた。
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