第42話:菜々華の葛藤 ③

彼女はジャスミンからの連絡を受けて、1人で行くことに不安に感じていた彼女の気持ちが明るくなっていた。


 飛行機も彼女の席の隣に座ることになり、彼女は今までの不安を払拭して安心していた。そして、お昼過ぎの便で菜々華は日本へと旅立った。


 菜々華はこの時ある決心をしていた。それは、“悠太に会った時に告白しよう”という事だった。彼女は少し前に彼と話したときに「なーちゃんのところに遊びに行きたいな」と小声で言っていた、その言葉を聞いた菜々華は「彼が私に感心を持ってくれている」と思ったのだ。


 しかし、彼には朱莉という子が一方的に好きだと言っていて、その子に心が向いてしまっているのではないか?と不安になる面もあった。


 アメリカを出発して11時間後、日本の空港に着いたが、菜々華が日本を旅立った3ヶ月前とまた風景も異なっていて、アメリカに住んでいると感じないことがかなり多かった。そして、今回のフライトは隣がジャスミンということもあり、ゆっくりと過ごすことが出来ていた。


 空港での入国手続きを終え、ジャスミンと一緒に日本の家に向かい、菜々華は近所に住む子たちと遊び、ジャスミンは都内に出て、アメリカにいた時に仲の良かった友人達と彼女が通っていた学校の系列校であるインターナショナルスクールに遊びに行った。


 その頃、友人達との久しぶりの再会を喜んでいて、一緒に遊んでいる同級生達が彼女の知っている友人達ではなく、さらに成長した姿を見せていることに菜々華はびっくりしていた。ただ、友人達と会話していくうちに菜々華はある事実を知ってしまい、困惑していた。それは、「同級生の由奈が家庭の事情で転校して、目指していた同じ志望校に行けなくなった」というのだ。


 彼女はその理由を聞くと「由奈のお父さんがいろいろなところでトラブルを起こしたみたいで、会社には残れたけど、その事が原因で由奈のお母さんと毎日喧嘩していて、『離婚したのではないか?』や『子供を連れて出て行ったのではないか?』などと近所で噂されていた」というのだ。


 菜々華が遊びに行っていた頃はまだ家族の中で何か問題が起きているという印象はなかったし、由奈の両親も由奈のきょうだいも彼女が遊びに行くと笑顔で迎え入れてくれていた。


 そして、話しが悠太の話題になると彼女は顔を赤らめた。


 数日前に日本に行くことを伝えていたこともあり、何か良い情報を聞けるのではないか?と思ったが、あっさりと裏切られた。


 彼と同じ学校に通っている楓華が「悠太君、今度転校するみたいよ。」というのだ。この時、菜々華は心の中で「えっ?どこに転校するの?」と思っていた。そこで、彼女は楓華に「悠太君本当に転校するの?」と聞くと「実際は分からないけどこの前違う制服を着て学校に挨拶に来ていたからそういう噂が立っている」というのだ。


 数日前にテレビ電話をしたときには聞かなかった事だったため、彼女は不安しかなかった。


 ただ、悠太君とは明日会えることになっていたため、その時に確認することにした。


 3時間ほど話して、彼女以外の友人は塾の補講があるため、それぞれの自転車に乗って塾へと向かった。


 そして、家に戻るとまだジャスミンが帰ってきていなかったが、そのうち帰ってくると思って先に暖房などをつけて部屋の中をあたためて待っていた。


 2時間後、チャイムが鳴り、玄関の鍵を開けると、そこにいたのはジャスミンだった。そして、後ろに目を向けると彼女と一緒に何人かの友人が家の前に立っていた。


 この時、菜々華はジャスミンに「この人達誰なの?」と聞くと「私が日本にいたときに一緒に勉強していた同級生」だというのだ。


 菜々華はびっくりした。というのも、そこにいたのは女の子だけだが、身長は中学生とは思えないほど大きく、体つきも顔つきも中学生には見えなかった。


 そして、家の中に入ってもらい、リビングで談笑しながら彼女達との時間を過ごした。


 彼女は彼女たちと談笑しているうちに意気投合し、アメリカから帰国したときに一緒に遊ぼうと仲良くなった。


 その後、中学生ということもあり、家に泊まるのではなく、それぞれの家に帰っていった。


 翌日になり、彼女は昨日よりもかなり気合を入れて服を選んでいたため、ジャスミンに「ノノ、デートでも行くの?」とびっくりされていた。


 そして、悠太と待ち合わせをしている駅まで歩いて向かった。すると、彼女はどこか懐かしい感じがしたのだ。実は悠太の家と菜々華の家は駅を挟んでいたため、彼と遊びに行くときは必ずと言って良いほどこの道を通っていた。そして、今日は授業参観の振替休日なのか、菜々華が通っていた学校には学生はおらず、私服姿の子供たちが行き交っていた。


 家を出て15分後、駅に着くとそこは人がごった返していて、やはり都会だなと思ってしまうほどだった。


 その中で悠太を探したが見つからず、日本で使う携帯を取り出して悠太に連絡を取った。すると「西口の銅像の前に立っているから」と言っていた。実は彼女が立っているのは東口だったため、西口に向かうと銅像の前に何人かいたが、どれが彼なのかは分からなかった。というのも、テレビ電話をした際には座っていたため、身長が高いのか、低いのかが分からなかった。


 そこで、近くまで行って確認してみることにした。すると、「菜々華!こっち!」という声が後ろから聞こえた。彼女が振り返ると身長の高い男の人が彼女の元に寄ってきていた。彼女は最初分からなかったが、近づくにつれて誰が来ているのかを理解した。

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