第41話:菜々華の葛藤 ②
しかも、彼女がお小遣いを貯めていた貯金箱から$30を抜いて、最寄りのバス停からセンターまでのバス定期券を買っていたのだ。
母親は「ちゃんと学校に行かないと本当に留年してしまって、みんなと同じ高校に行けないよ!」と彼女に対してきちんと学校に行くように説教をしたのだ。
しかし、翌日以降も学校に行っている気配はなく、州の役所にある学校教育課に出向いて相談をしようと思い、連絡を取ってみると日本担当の人が席を外していて、帰り次第折り返しをもらう事にした。
少し時間が経ってから日本の担当である金井さんから連絡が入った。そして、母親がその話をすると、金井さんは「実は数年前からこういう相談が増えてきて、私たちもどうするべきか分からないのですよ。」とやはり日本から現地に引っ越す子供たちの当たりやすい壁の1つであるということが分かった。そして、金井さんが「1番良いのはこちらから学習コーディネーターを学校側に設置要請をして、子供たちが環境に慣れるまでケアをしてもらうことなのですが・・・」と学校側に設置要請までは出来ても費用は州負担もしくは学校負担なので、交渉が難航する可能性が高い事が分かった。
母親は担任の先生に連絡を取り、後日、副担任の丸山先生と相談しながら先生の家でお茶をすることにした。(彼女の学校には日本人の生徒が数十名在籍していて、学校で日本人の先生を雇い、日本人の生徒がいるクラスには副担任として日本人の先生が配置される)
その日になり、丸山先生の家に向かうとびっくりする光景が広がっていた。なんと、先生は単身赴任で日本から来ていたのだ。そして、年に2回ほど家族がアメリカに来るため、昨年末に大きな家を建てて、そこに住んでいるのだという。
先生は「メアリー先生から聞きましたが、菜々華さんは大丈夫そうですか?」と母親に尋ねると、母親は「菜々華は近くのフリースクールのような場所に通っているみたいで、ブラッドさんという非常勤の先生が来るときだけそちらを休んで、学校に通っているとは言っていました」と答えた。
先生はこの事に関してメアリー先生と相談をしているということだったが、やはりアメリカと日本では価値観が違っていて、メアリー先生は「彼女が学校に来ないなら単位はあげられない」と“彼女がきちんと学校に来て、きちんと成績を取らないと進級させない”という主張していて、丸山先生は「彼女の進度に影響が出ている部分は動画などで授業をやらせて、遅れている部分の補講は私が担当します」と彼女を可能な限りサポートし、3年生になって欲しいと思っていたため、意見が対立していたのだ。
この時、母親はなぜ、菜々華が突然日本の友人達に会いたいと言ったのか理由が分かった母親はどう彼女を日本に連れて行き、どのように心のリフレッシュをさせてあげられるかを全力で考えるようになっていた。
ただ、母親は日本に向かわせるにしてもあることを懸念していた。それは“不定期に起きるパニック発作”だった。
これは彼女がアメリカに来て2年目から起きている症状で、精神科の先生からも「学校における人間関係や文化の違いによるカルチャーショックでしょう」と言われているが、現在も学校に登校するにはスクールサポーターのエリックさんやスチューデントアシスタントで近くの大学の医学部に通うジェシカさんなどが付き添って学校に通っているため、友人たちと通うことは出来ても学校では常にジェシカさんが症状の悪化に備えて授業がない日は学校に常駐している事もしばしばだった。
先月、ビザの更新のために家族で日本に一時帰国した際も様子がおかしく、何かあって学校を休まないといけなくなった場合に備えてすぐに連絡が取れるように担任のメアリー先生と副担任の丸山先生、スクールサポーターのエリックさん、スチューデントアシスタントのジェシカさんの連絡先を登録してから日本に向かったのだった。
この時、彼女は問題なく日本との往復は出来たが、今回は両親が仕事を休めないため、彼女1人で飛行機に乗って移動し、自分の力で日本に着いてから行動しないといけないのだ。今回、彼女にとっては初めての経験で、不安に感じていたのだ。そこで、彼女に連絡先を渡して何かあったときに連絡するように話した。
そして、彼女が出発する日の朝、彼女は誰よりも早く起きていた。すると、家の電話が鳴った。相手は仲が良いジャスミンだった。最初、彼女は「ジャスミンどうしたのだろう?」と思って電話に出てみると「ナナ!今日から日本行くの?私も行くよ!」と言ってきたのだ。菜々華はこの話しを聞いたときに「えっ?本当に?」と思っていた。実は彼女は母親が日本人で、菜々華のお母さんと同じ職場で働いている。そこで、ジャスミンのお母さんに菜々華が日本の友達に会いに行くということを話すと、ジャスミンも同じ日に日本の友人達に会いに行くことになっていたというのを聞いて母親が同じ便で出発し、一緒に行ってもらえるようにお願いしていた。
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