第38話:悠太の葛藤と恋愛 ②

彼女はドキドキしながら合格者番号が貼られている掲示板の前に立った。そして、深く深呼吸をして見上げるとたくさんの数字が並んでいた。しかし、普通の受験番号と異なり、この学校ではスクールコード+個人受験番号の組み合わせで受験番号になるため、ごくまれに不合格と勘違いして後から合格を知る人も少なくない。


 彼女もその1人になりかけていた。その理由として、彼女はスクールコードが“003”だったのだが、その番号が受験番号だと勘違いして番号が無かったため、落ちたと思っていた。しかし、一緒に受験した同じ学校の女の子が「結梨ちゃん、どうだった?」と聞くと「私は落ちたかも・・・」と悲壮感が漂う声で答えた。すると、彼女が見せてくれた受験票を見ると彼女は“A003018”という受験番号で合格していた。そして、結梨も受験票を取り出してみると“A003023”という番号が書かれていたため、急いで同級生と一緒に合格者番号一覧を見に行くと彼女の番号の2つ下に彼女の番号が書かれていたのだ。


 この瞬間、彼女は3年間この日のために頑張って勉強してきた成果が現れたのだと実感して、2人で喜び、その後も同じ学校の同級生と一緒にみんなで合格の喜びを分かち合った。


 そして、小学校の卒業式が終わり、春休みの間も合格したことに対する胸の高揚が抑えられず、新しい仲間との出会いが楽しみで仕方がなかった。そして、入学式の朝を迎えた彼女は真新しい制服に身を包み、中学校へと向かった。その道中、これから始まる中学校生活が楽しみな反面、同じクラスにどんな人がいるのかが不安だった。


学校に着き、両親は入学式が始まるまで保護者の控え室で待機し、子供だけが教室へと向かった。そして、初めて同じクラスの仲間たちと対面した。すると、同じクラスには同じ学校から入学した子たちはおらず、ほとんどが近隣もしくは区外の小学校の児童だった。この時、彼女はほっと胸をなでおろした。実は彼女がこの学校に入った理由が小学4年生頃から同じ学年の同級生からのいじめを受けたことで区立中学ではなく、別の中学校に入りたいという気持ちが芽生えていた。だからこそ、彼女は合格発表の時のモヤモヤが解消できて安心したのだろう。


そして、入学式の時間になり、新入生100名が式の会場に入場してきた。最初はA組から順番にB組、C組、D組と入場していくうちに保護者席がざわつき始めた。なぜなら、1年C組に今年の3月末まで有名な子役事務所にいて、4月から大手の芸能事務所に移籍した村野和佳奈、子役でモデルの枚方健太朗などテレビに出てくるような子たちが入学していたのだ。この時、彼女の中で“式の個人撮影は禁止とさせていただきます”の意味が理解出来た。それはこの学校を含めた私立校の多くに芸能人の子供や芸能人本人が入学しているケースが多く、そこから通学している学校の情報などが漏れる危険があったため、入学する生徒が所属する事務所などから正式な承認と配布許可を出してもらう事を条件に学校が責任を持って撮影し、後日、宣誓書を提出してもらえた家庭に渡すというやりとりに変えて、トラブルを起こさないようにした。


そして、新入生紹介で2人は6年ぶりに再会することになる。まず、A組の結梨が呼ばれて起立したときにはお互いに気が付いていなかったが、B組の悠太の名前を呼ばれたときに結梨が「あれ?」と思った。なぜなら、悠太の顔を見たときに「どこかで見たことがあるような・・・」とふと思ったのだ。そして、名前を聞いてから次第に昔の記憶がふと蘇り始めたのだ。


 この時、彼女は心の中でいいことが立て続けに起きていると思っていた。なぜなら、彼女が思っている事が徐々に自分の近くに引き寄せられているように起きていっているのだ。


 そして、彼女はこの日から「また悠太君と一緒の学校に通える」と心の中でワクワクしていたのは言うまでもないだろう。


 その後、彼女は悠太と同じ習熟度別のクラスになりたいと猛勉強をしたが、中間テストでは彼がAクラス、彼女がBクラスと勉強の成果は実らなかった。しかも、二人の通う学校には主要3科目は全て習熟度別で2年生になると希望する進路でクラスが分かれるため、彼女が医療系もしくは看護系を志望しないと同じホームルームになる事も習熟度別のクラスも離れる事になってしまう。


 彼女はそれだけは避けなくてはいけないと思っていたが、のちにまさかの結果が待っていることは知るよしもなかった。


 その頃、彼が小学5年生で別れた菜々華の家では家族会議が開かれていた。その内容が“父親の現地駐在が延長になった事”と“その延長期間は単身居住の指示が本社から出てしまった事”だった。この事を聞いて、母親と5人の子供たちは日本の家に住まなくてはいけなくなったのだ。しかも、父親の話では“あと5年程度は帰国することが難しい”というのだ。あと5年というと一番上の兄が大学4年生に、姉が大学2年生、菜々華が高校3年生になるなど子供たちの進路選択に重要な時期と重複しているため、現地に残ることは難しい。しかも、下の妹も来年には中学生と小学生になり、途中から転校するわけにもいかないのだ。


ただ、現在の家は父親の持ち家のため、日本とアメリカを行き来することに問題ないが、仮にこっちに住み続けるには子供たちのビザの関係で1度日本に戻らなくてはいけないのだ。


 両親は子供たちに選ばせるしか方法がないと思ったが、会社の家族手当などは日本の学校の年度末に当たる来年の3月までしか支給されないため、転校手続きを考えると年内には最終的な判断をしなくてはいけないため、どうするかを決めかねていた。


 これだけ悩む理由の1つに兄が出場したシンポジウムで彼が企業向けプレゼンテーションをした。すると、彼は10名いた出場者を差し置いて過去最高点で優勝し、国内に本社のある複数の企業から業務提携オファーが届くなどアメリカで活躍の場を広げられるチャンスが目の前にあったため、彼と父親で一緒に住んでそのオファーを受けるか、これらのオファーを断り日本に帰国するかで揺れていた。仮に兄だけがアメリカに残る場合は1度日本に帰ってビザを申請し、新しいセメスターが始まる前にアメリカに帰国するというハードスケジュールをこなさなくてはいけなくなるのだ。


 その他にも兄以外は日本の学校に転入することになるため、その学校の制服や必要な備品などを買わなくてはいけない。しかも、全て揃えると1人あたり数万円から数十万円とかなり負担が重くのしかかることになる。

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