第37話:悠太の葛藤と恋愛 ①

悠太は中学2年生になり、周囲に彼氏や彼女が出来はじめていた。そのため、彼は3年前の事が頭をよぎっていた。当時はまだ“恋愛関係”というよりも“友人関係”という状態で、お互いの家は行き来していたが、まだ付き合うというのは表面的だった。


 しかし、彼は彼女と離れて3年経ち、年々薄れかけてきた彼女に対する恋心が再び芽生えてきたのだ。


 ただ、彼は同じ学校に気になる子がいて、その子と付き合うか、彼女と付き合うかで悩んでいた。


 彼が悩んでいる相手はB組の高梨結梨ちゃんという小柄で顔立ちが綺麗な女の子だ。彼がこの子に思いを寄せていた理由として彼女の友人から「結梨ちゃんが悠太君のことが好きって言っていたよ」と言われたことだった。


 ただ、A組の悠太はB組の結梨とは直接関わりがなく、習熟度別のクラスも悠太はAクラスだが、結梨はBクラスとクラス内での交流もない。


 だからこそ、彼が疑問に思った事が“どうやって彼女は自分の事を知ったのか?”ということだった。そこで、その話をしてきた彼女の友人に彼女が自分を好きになった経緯を聞いてみた。すると、彼女が自分を好きになった理由を知って驚いた。


 実は悠太は結梨と同じこども園の幼稚部に通園していたのだ。そして、悠太のいつも誰に対しても分け隔てなく接している姿を見て当時から好きになっていたのだという。


 しかし、彼女は学区の関係で悠太とは同じ小学校には進めず、塾も入学試験で合格点に数点届かず、不合格となり、彼と同じ塾に通えないなど彼を追いかけてきたものの、結果に結びつかず、彼を追いかけるのを諦めなくてはいけないと思っていたのだ。


 そんなときだった。彼女が4年生になった頃から担任の先生から「この学校に行ってみてはどうだろう?」と提案されたのが、今通っている学校だった。彼女は最初提案されたときに「私はこの学校に通えるのかな?」と不安に思っていた。というのも彼女はこども園からお受験をしてきたが、受かったのはこども園だけで他は全て不合格だったことがあり、受験に対するトラウマが彼女から自信を失わせていた。


 しかも、当時の塾の定期テストや全国模擬試験などでも成績が振るわず、志望校は全てD~F評価で塾内でも40人いる同級生の中でも下位10人に入るなど志望校のいずれに合格するにもかなり難しい状況に変わりはなかった。


 しかし、先生は「結梨さんは志望校に受かりますよ。」と彼女にまだ希望が残っている事を伝えた。この言葉を聞いた彼女は友人たちと遊ぶのを止め、勉強に打ち込んだ。すると、5年生の第1回の塾内定期テストで5位の成績を取った。そして、2週間後の全国模擬試験では上位には入れなかったが、成績上位1000人以内に入るなど着実に学力が上がっていった。


 そして、先生は彼女に「君はこの塾にいるのはもったいない。先生の知っている塾にも通ってみなさい。」と言って先生が知っている有名講師のいる塾に体験入学する事になった。この話を聞いて彼女は当初は驚いていたが、新しい環境で自分の実力を試すことが出来るという挑戦が始まった。


 彼女がその塾に入塾した初日、彼女は塾のレベルの高さに驚いていた。なぜなら、先生が問題を出すとすぐに挙手の応戦が始まり、指名された子供たちがどんどん答えていた光景を見て今までの環境がどれだけ競争心に対する考え方との違いを痛感していた。


 その日の夜、彼女はいつもと変わらない時間を過ごしていたが、どこか新しい塾で使っているテキストなどを復習していると所々でつまずきが出てきて、“自分はこんなに出来なかったのか。”と今までに感じた事がない屈辱のような感情を感じていた。


 しかし、6年生になると以前の塾を辞めて、有名進学塾に通うことになっていた。そのため、受験に対する不安は無くなっていたが、受験日が近付くにつれて少しずつ不安要素が強くなってきた。その理由として“これまでの受験失敗のトラウマ”ではないか?と自分の中では認識していた。そして、受験前2回のテストでも700位台に入ったことで彼女は少しずつトラウマが和らぎ、自信を取り戻しつつあったが、まだ不安を感じることが多かった。


 そして、出願を終えて、受験者数と受験倍率が新聞に公表された。すると、彼女は新聞を読みながら固まってしまった。なぜなら、彼女の志望校は定員120名に対して500名の出願があり、区内と区外それぞれの出願人数を考えても約5倍という競争倍率を勝ち抜かなくてはいけないのだ。実は彼女は今まで受験の際に3倍を超えた受験をしたことがなく、どんな世界なのか分からなかった。


 そして、受験戦争に打ち勝って志望校に受かった友人たちが口を揃えて言うのは“これは単なる受験ではなく受験戦争だ”という言葉だった。


 この言葉を聞いて彼女は倍率の高さがその学校の社会的なブランド力の高さであることから受験する際に個々の独創性や個性を相手に伝える重要度が倍率を象徴しているのではないか?とも考える事があった。


 その後、塾などで受験対策や試験問題の過去の傾向と対策などをまとめた授業をやったり、模擬面接をして実際の面接をイメージさせて会場の雰囲気を感じたりと全員の志望校に対応した授業を展開していた。


 そして、受験日になり、緊張しながら学校に向かった。


 開門時間まで15分になり、受験生が門の周りに整列を始めていた。その光景を見た結梨は怖じ気付いてしまって右往左往していた。


 その後、開門時間になり、中に受験生が次々に入っていき、列をなして受験受付に向かって行った。


 その時、彼女は「この人たちに勝てるかな?」と思っていた。


なぜなら、彼女の受験する席に着いて、辺りを見回すと両隣は名門小学校の児童、前にはこの学校への進学率トップの学校の児童と彼女にとっては「どう考えても場違いではないか?」と思うくらいレベルの高いメンバーが揃っていて、試験開始時間が刻一刻と迫っていた。


 そして、試験が始まり、彼女の志望校への挑戦が始まった。


 この時、外で待っていた今の塾の先生と以前通っていた塾の先生が少し話し、会場を後にした。


 試験開始から5時間後、試験が終わり、受験生が一斉に試験会場である中央教室棟から出てきた。受験生の顔を見ていると合格の自信が確信に変わった子、何度も問題用紙を見返す子、参考書を読みながら出てくる子などそれぞれに試験で実力を発揮出来た子とそうではない子に分かれていた。


 入学試験の翌日、塾で前日に受験をした子供たちが前日の試験問題の答え合わせと解説を先生たちから受けていた。


 その時に答え合わせをしていると問題は解けているが、答えの出し方で減点されるのではないか?と不安に思う部分もあった。


 全ての採点が終わり、彼女の点数は3科目で280点とまずまずの点数だったが、前年の筆記試験の合格点が275点だったこともあり、まず1つ目のハードルはクリアしていた。しかし、面接では緊張してしまい、一部の質問を答えられない、もう少し詳しく説明が必要だった部分があるなど減点になる可能性のあるケアレスミスが目立ったことが気になって仕方なかった。


 他の子たちも筆記試験で失敗して、面接は大丈夫だったなど試験の結果に対して一抹の不安を感じていた。


 そして、試験から1週間後に合格発表が行われて、学校の前にはたくさんの受験生と受験生の保護者が合格者一覧の公開を今かと待っていた。


 全員が集まり始めてから15分後、発表を担当する職員が中から出てきて、掲示板の所に立ち、両脇の紐を引っ張った。


 すると、隠れていた合格者の受験番号が現れ、発表の会場では喜ぶ声と悲しむ声が交互に混ざり合っていた。

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