第36話:壊れていく妹
数日経っても茉里奈が登校してこないことを心配し、先生が彼女の家に再度家庭訪問をすることにした。先生たちは茉里奈の家に向かったが、やはり誰も出てこない。
そのため、先生たちは“何かあるのではないか?”と疑い、翌日学校で彼女の家の近所に住んでいる同級生たちに聞こうと思っていた。
翌日、茉里奈と佑里奈の近所に住んでいる同級生に聞くとあることが分かった。それは、“彼女が大きな荷物を持ってどこかに行った”という情報だった。この情報を聞いた先生たちは首をかしげた。
なぜなら、彼女の住所はこの前に訪問した比較的新しい戸建ての家だと思っていたため、“彼女には別に家があるのか”、“どこかに彼女が引っ越したのか”、“家出をしたのか”など先生たちの間でいろいろな推測が飛び交っていた。
実は小学校からの引き継ぎ簿の観察事項に“小学校3年生の時に暴力行為を伴う性的いじめによる3ヶ月間の不登校”という気になることが書かれていた。
内容を見ると“7月中旬から9月の下旬にかけて3年1組の津野大貴を中心とした男子児童より暴力を振るわれる。そして、彼女を3人で無理矢理羽交い締めにして動けないように固定し、殴る蹴るなどの暴力を受けた際に全治2ヶ月の腕の打撲等を負い、10月より翌年1月まで登校記録なし。”という目を覆いたくなるような事が書かれていた。
そして、先生はある名前に着目した。それは“津野大貴”と“黒山龍太”という2人の名前だった。先生は心当たりを探して考えていた。すると、ある生徒指導案件を思い出した。それは“当時中学1年生だった小宮山七彩(ななせ)と津田優莉菜(ゆりな)が突然不登校になった”ことだった。この事件が起きた経緯を調べるとある男子生徒が関わっていた。それは、同じ小学校から入学した紺野翔と久留木大地だ。この2人は七彩の彼氏である松野亮太、優莉菜の彼氏である栗田拓也と共通の友人だったという。
2人は小学校だけ違ったが、塾やピアノ教室で一緒に学んでいたため、仲は良かった。ただ、紺野君は小学生の頃からしょっちゅう警察に補導されるなど素行が悪く、家族からも煙たがれていた存在だった。そのため、松野君と栗田君は彼らと距離を置いていた。しかし、小学校5年生の時に松野君のお父さんがPTA会長になると紺野君は黒山君に「松野君に手を出すな」と通告していた。そのため、松野君をいじめようと考えていた2人はいじめるのを止めた。
そして、中学校に入ったときにある事件が起きた。それは、松野君が登校するときに女子が周囲を囲んでいたことに対して久留木君が「なんであいつが人気なのかが分からない。」とぼやいていた。なぜなら、彼は父親がPTA会長をしていたこともあり、トラブルや変な噂などを避けるように2年間過ごしていたが、バレンタインや運動会ではいろいろな女子児童から声をかけられることやいろいろな学年の女子児童と写真を撮る、チョコレートのプレゼントがたくさん集まるなど人気で、栗田君もそうだが、2人とも小学生の時点で他の子たちよりも頭1つ抜き出ていて、学年で整列すると彼らを含めて3人ほどいる高身長男子が目立ってしまうのだ。
そのため、身長のことで黒山君が嫉妬しただけではなく、“ああいうやつは潰さないといけない”と彼を陥れることを目指すことを思いついてしまったのだ。
そして、彼らはまず、本人と仲が良い子たちをターゲットにして松野君と栗田君の悪口や噂話を同じクラスの男子に話して、彼らと仲がいい男子を引き離して孤立させようとしていた。そして、ある程度孤立させたタイミングで協力してくれる男子と彼らをいじめようとしていたのだ。
これを実行するために時間をかけて周囲から引き離しに掛かったが、やはり学年の人気者というだけあって、なかなか噂を信じてもらえず、計画が先に進まない。
そこで、紺野君を身代わりにしてクラスで問題を起こし、その罪を松野君と栗田君に押しつける事を考えた。このアイディアは津野君も黒山君も上手くいくと思っていた。
しかし、紺野君が二人に罪を押しつけたまでは良かったが、これまでのいじめの特徴などが2人と類似していたことや関係していた生徒の交友関係を調べられた時に先生から暴かれてしまったため、逃げ場がなくなっていたのだ。
先生はこの時の状況と今回の茉里奈の不登校がどうしても似ているように感じていたのだ。
そして、今回の事件の方はかなり闇が深いのではないか?と推測していた。というのも、茉里奈の交友関係はそこまで広くはないし、今回はいつも一緒にいる友達も部活動に参加しているという事実は動かない。他にも彼女は塾などの習い事をしているが、目立ったトラブルも起きていないのだ。
この時先生はある文字が脳裏をかすめた。それは“自宅謹慎”という4文字だった。理由として、いじめだった場合はいじめが発生したと思われる時期、人数などをきちんと校長先生と教育委員会に報告し、迅速な解決行動を取らないといけない。しかし、この事件が起きる前から予兆ともとれる行動や異変などが相次いで報告されていた。そのため、今回の報告書だけではなく、その前に起きたときの報告書も提出することが自治体の方針として通達されていたのだ。
そのため、子供たちに少しでもいじめの兆候が見られる場合、発生していても初期段階で分かった場合など早期に認知もしくは現認した場合にはきちんとその先生への聞き取りや子供たちのフォローなどを行わなくてはいけない。ただ、今回の場合はいじめの現場には誰もおらず、現認した生徒も教員もいないのだ。そのため、校内に設置されている防犯カメラの映像や彼女の周辺でいじめられていたと報告があった隣のクラスの菅野莉子、村野恵里、同じクラスの佐野菜々子、間野亮介など他の生徒から報告があったもしくは自己申告してきた生徒にも話しを聞いたが、やられた相手は同性で、異性が絡んでいたという事例はなかった。
一方、学校に来なくなった茉里奈のことを心配した優莉が彼女の家に向かったが、家の中には誰もおらず、途方に暮れていた。そして、彼女に送っているメッセージを見るとやはり読まれた形跡がなく、学校に来なくなった7月の上旬以降は彼女からの連絡も途絶えてしまった。
そのため、優莉は同級生のグループチャットに「茉里奈ちゃんの情報知っている人いる?」と書いた。すると、「この前駅前のコンビニで見かけたような・・・」・「この前病院の待合室にいたような・・・」といくつかの目撃情報が寄せられていたが、どれも彼女の自宅からかなり離れた場所で見かけられているため、信憑性が低く、彼女たちはあまり信用していなかった。
彼女が連絡を取って3日後のことだった。突然、夏実からある写真が送られてきた。それは“この写真の男の人と女の人って誰か分かる?”という文言に一枚の写真が付いていた。
よく見てみるとお母さんにしては少し若い女性と男性と一緒に茉里奈らしき女の子が一緒に歩いている姿が写っていた。しかし、この人たちは今まで2年間彼女と過ごしてきているが、一緒に行動している姿を見たことがなく、彼女から紹介された事もなかったため、「茉里奈が何か悪いことでもしているのか?」と疑問を感じていた。
そして、別の日には全く同じ人と一緒にショッピングモールにいたことが同級生の証言から分かった。
これらの話しを聞いていて一体彼女に何が起きているのか、なぜ学校に来ないのかが分からなかった。
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