第34話:やっと見つけた理解者

那月は高校生になり、今までとは全く違う環境に進んでいた。彼女が進学した学校は家から電車で30分かかるその地域では有名進学校と言われる高校で、同じ学校からは誰も進学していなかった。


そのため、周囲には知っている子はいないことが彼女にとっては好都合だと思っていた。しかし、この事が彼女の学校生活に影を落とすことになる事はのちに分かる。


彼女がこの高校を選んだ理由に“志望校への合格者数が多い”・“知っている子がいないため、自分の事に集中する事が出来る”という個人的な理由もあったが、他にもいくつか理由がある。まず、この学校はいじめなどを校則で禁止していて、いじめをしていることが分かると休学以上の重い生徒指導をかされるため、いじめによる生徒指導はここ5年で2件ほどしかなく、退学になった生徒がいないということはそれだけ人間関係などが安定しているということを証明しているのだ。次に、“服装が選べる”ということだ。実は彼女が進学先の候補としてあげていた学校のほとんどは第1装がスカートにブラウスだったため、現在の制服と変わらないこと、冬場も寒い中スカートをはくことはかなり彼女の中では辛い出来事だった。しかも、ほとんどの学校では冬期は制服の下に履くことが出来るのは指定された服だけで、それ以外の服は着用不可だったのだ。


ただ、彼女は中学校まで悩まされていたいじめ問題や人間関係のトラブルなどは格段に減って、服装もスカートとスラックスなど数種類から選べるようになったことで嫌がらせもされることはなくなった。


 彼女はそういうことが増えていって、以前から優れなかった体調が少しずつ良くなっていき、彼女の病気も受診する度に快方に向かっていた。


 そして、彼女は今までルッキズム(容姿差別)に悩まされてきたこともあったため、彼女は自分の容姿などに自信がなかったし、他の子たちは背が伸びるのに自分は背が伸びないことでジレンマを抱えていた。


 そして、高校生になり、健康診断の項目が中学校の頃よりもかなり項目数が増えた。例えば、血液検査などの血液を使う検査が以前は1種類だったが、今回からは3種類に増え、胸部レントゲンや心拍などの検査も今回から増えた。


 これだけ検査項目が増えている背景にこの地域で起きている事があった。


 それは、小学生から高校生までの子供たちの間でここ数年の間に“機能の成長の早熟と遅滞”が顕著になっていて、約3割の子供たちは血液検査でホルモンバランスを調べたところ成長ホルモンが十分に分泌されていない事が分かり、早急にホルモン治療が必要と判断されたのだ。この事を受けて、小学生から高校生までの児童・生徒に対してホルモン検査や身長の成長比と体重の増減比など子供たちの成長の異変や兆候を早期に見つけるために検査項目が増えていったのだ。この検査を導入してから子供たちの異変や兆候を早期に発見することにつながっていた。


彼女も始めて検査を受けたところ、やはり、成長ホルモンの分泌量が正常値よりもかなり低く、成長曲線も-2を下回っていたのだ。


この事を知った彼女は母親と相談し、身長が伸びるようにホルモン治療を始めたいと伝えたのだ。


実は彼女は4人いる姉妹の中で3番目に背が低く、1番高い彩月は小学校3年生で姉の小学5年生の時の身長と3センチまで迫り、美月は彩月よりも2センチ低いが、学期毎の身長測定で2センチずつ伸びていることを考えると、追いつくことは間違いない。彼女はこの事を知り、家に帰りたくなくなっていた。


彼女が高校に入ってすぐに交流会でクラスの枠を越えて仲良くなった同級生がいる。その同級生の中には壮絶ないじめや虐待などを受けてきた子もいるし、頭が良すぎてコンプレックスになっていた子もいた。


その中に高校に入って出会った同級生の健太がいる。健太は5人兄妹の長男で、3番目の妹は柚月と同じで2歳から入退院を繰り返していて、末っ子の妹はまだ1歳と彼とは14歳も離れているが、母親はまだ35歳とまだ若く、彼を産んだときはまだ20歳という若さだったこともあり、彼女はびっくりしてしまった。そして、彼は身長が180センチオーバーと彼女と並ぶと子供とお父さんと言われても分からないほどの身長差があったのだ。その上、彼とは帰る方向も同じで、降りる駅も彼女の3つ先の駅と住んでいる場所も近かった。ただ、バイト先は学校の近くでファミリーレストランのウェイターとして働いている那月と平日はコンビニの配送センターで仕分けのアルバイトを、休日は新聞配達をしていたため、バイト先が遠い彼女と会う時間は多くはなかったが、彼は彼女の悩みに親身になり、ただ聞いてくれていた。そういう優しさを知り、入学して3ヶ月後から付き合っていた。


 ただ、2人の学校は異性交際を認めていたが、交際が学業に影響する場合にきちんと申請を出さないと生徒指導を受けることもあり、過去に友人関係だった先輩がカップルになり、週の半分以上を一緒に登下校していたことで先生たちが週に3回会っていた姿を偶然先生に見つかり、周囲の友人たちが口を閉ざしてくれていたが、怪しいということで生徒指導を受けていた事を知っていた。


 そのため、健太とは友人関係で通さないと万が一先生に見つかったときに先輩たちのように生徒指導の対象になり、場合によっては大学への推薦入学の道がなくなってしまう可能性があるのだ。


 そういう事を考えると相手である健太も先生から期待されている生徒であり、那月も小学校では初めての入学生ということもあり、彼女の行動1つで後輩たちの未来を創ることも、壊すことも出来てしまうのだ。そう考えると彼女は恋愛を公言することが正しいことなのか、それとも公言せずに黙っておくことが大切なのか?とあれこれ考える事で正しい答えを出すことが難しくなっていた。


 そして、彼の家は少し複雑で、一番下の妹と彼は血のつながらない異父兄妹で、双子の弟とは異父兄弟、妹とも異父兄妹という血のつながっているのは3歳下にいる弟だけだ。そして、再婚相手にも双子の女の子を含む4人の連れ子がいて、上2人は大学3年生と1年生になり、父親の所有する今まで住んでいた家から大学に通い、暮らしているが、下の双子はまだ中学2年生で、今まで通っていた学校に通いたいという希望があったが、学区の関係上転校するもしくは週末だけ家族と暮らすという選択をするしか方法がなかったのだ。そこで、中学校を卒業するまでは週末に家に帰り、平日は向こうの家で過ごすことにしたのだ。


2人ともも年は近いが、今まで父親と過ごしていたこともあり男の人と暮らすことには抵抗がなかった。


 しかし、双子の妹の茉里奈は姉の佑里奈にいつも主導権を握られていたことで自分の意見を言うことが出来ず、以前は周囲からも「明るくて良いわね」と言われていた彼女も今では別人のように変わってしまい、第三者を信用することが出来なくなってしまった。


 この事を近くで見てきた上2人は彼女に対して何とかしてケアをしてあげたかった。しかし、彼女は次第に不登校になり、今は週に1日~3日は行けても、毎日登校することは難しい状態になっていた。


 その事を知らなかった健太は付き合っている那月と茉里奈が重なって見えてしまっていた。


 ただ、那月はパニック障害を患った直後に一時的に不登校になったことはあったが、友人などの周囲の理解を得られていたため、症状が落ち着いて来た頃には友達が迎えに来てくれて、一緒に学校に行くなどスムーズに登校できていた。


 しかし、茉里奈は1年生で入ってから同じ小学校の同級生たちが他校の同級生たちに嘘をついて彼女から遠ざけるように、避けるように仕向けていた。

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