第31話:悠太の決断
悠太は無事に志望校に合格し、中学校生活が始まった。彼の進学した学校には社長さんのご子息・ご令嬢、有名政治家のご子息・ご令嬢がいて、彼は場違いではないか?と思うことも多かった。しかし、彼がこの学校に来た理由として彼の将来の夢の1つに“社会貢献活動が出来る会社を起業する”というものがある。これは、小さいときから柚月を見ていて、柚月のような子が活躍出来るような社会を作りたいと思っていた。しかし、当時の彼には会社を経営できるほど知識がなく、これから勉強するところだったため、まだ本格的には始まっていなかったが、可能なら高校生くらいまでに始めたいと思っていた。
その理由に、1人で区立中学校に行くことを決めた柚月、小学校3年生になった美月と彩月のこともあるが、彼はある子たちとの交流があった。
それは彼が小学校4年生になったときに校外交流で仲良くなった別の学校の夏奏(かなで)と夢太(むうた)、別の学校の汐里と木乃花(このは)、大翔、悠翔のことだった。この子たちは現在、不登校で学校に行っていない。そして、不登校になった原因も“学年全体からのいじめ”だった。
特に夏奏と汐里、木乃花は容姿に対するいじめで、人間不信になり、今は家族であっても会話をすることが難しい状態になっていた。そして、大翔・悠翔は家が貧しく、みんなのような服を着ることが出来ず、いろいろと心ない言葉を言われたことで、不登校になってしまったのだ。
彼はこの知らせを聞いたときにみんなに連絡を取ったが、会話をすることが叶ったのは夢太だけだった。この時、悠太が“夢太くんから他の子たちにも手紙を送って欲しい”と頼んだ。すると、連絡をしてくれてから1週間後に大翔・悠翔から手紙が、3日後に木乃花と夏奏から手紙が、2週間後に汐里からそれぞれ手紙が届いた。
悠太はその手紙を読んでいると次第に心臓が止まりそうになり、読み終わると背筋が凍りそうになった。なぜなら、全員の手紙を読むと彼が想像できないほどひどい言葉や行為など本人たちがされてきた事が想像できた。
彼はこの手紙を読んですぐにでも動きたかったが、彼女たちの心理を考えるとすぐに動くと最悪の事態を引き起こすのではないか?と思ったのだ。そのため、まずは大翔・悠翔や夢太に対して何が出来るのかを考えていた。
まず、彼は大翔・悠翔を近くの公園に誘い、自分の着なくなった服を彼らに選んでもらおうと思っていた。しかし、彼らは“そんな良い服をもらうとお母さんに売られるかもしれない”という恐怖心と戦っていた。なぜなら、以前にも2人の友達からお誕生日プレゼントで服やお菓子などをもらったことがあった。しかし、プレゼントをもらってから数日後に彼が好きなキャラクターの服を母親に勝手に売られてしまい、そのお金を母親がギャンブルにつぎ込んでしまったことがあった。その事があってから彼らは家に服を持って帰ることが恐くなっていた。しかし、彼らにとって学校に再び行くためには悠太がプレゼントしてくれた服を着ていくことしかないと思った。
その後、夢太と連絡を取り、彼の家に遊びに行った。すると、彼はしばらく合わないうちに悠太よりも背が高くなっていたのだ。そして、彼の部屋に行くとバスケット選手のポスターやバスケットシューズなどの道具が置かれていた。実は、彼が不登校になった理由が“スポーツが出来て、女子から黄色い声援を受けているのが気に食わない”という理由だった事には驚いた。
そして、彼の話を聞いていくと少し引っかかる事があった。それは“自分って何のために生きているのだろう?”と夢太が言っていたことだ。彼の家は裕福ではないが、3歳離れた兄と6歳離れた妹がいる。しかし、兄は背が高く、区外の中学校でも強豪校にスカウトされて、バスケットをしている。そして、妹も体操やピアノ、バレエなど何をやらせてもすぐに吸収してしまうほど上達が早いため、習いごとに行くたびに先生やコーチなどから“本当にプロになって欲しい”と言われるほど期待度が高い。
しかし、夢太は幼少期から何をやらせても習得するまで時間が掛かった。特に、3年前に彼を兄が所属していたバスケットボールの少年団に連れて行ったときには他の子がボールを追いかけていても彼はすぐに追うのを諦めてしまう姿やボールを持っても投げられないなどルールが分かっていても身体が動かないということが多かった。そして、ピアノを習わせても1つの曲を弾けるまで2ヶ月かかってしまうなど他の兄だいと比べられることが増えていった。
そのため、両親も夢太よりも兄の富太(ふうた)や妹の希夢(みゆ)に対して愛情を注ぐようになり、彼はどんどん家族の輪からも孤立していった。しかも、学校では他の学年の女子からも罵詈雑言を浴びせられるほど人気がなく、学校でもまた自分の居場所がなくなっていた。
この事を知ってから彼は学校に帰ると、自分の部屋に閉じこもるようになり、家族とも話すことがなくなった。そこで、彼は部屋に小さなバスケットゴールを兄の部屋から持ち込んで、1人で練習していたのだ。そして、学校でも1人でバスケットゴールのところで練習をしていたのだ。その姿を見て、同級生たちは“また何かやっている”という視線で見ていた。そして、“夢太が1人で変なことをしている”という噂が学校内に流れて、彼は“おかしな人”というレッテルを貼られてしまったのだ。
その結果、次第に今まで仲良くしてくれた友人たちが離れていき、いつも一緒に帰ってくれていた同級生も一緒に帰ってくれなくなった。
しかし、彼の地道な努力がある結果をもたらすことになる。それは、彼が所属しているチームで近隣チームとの練習試合が行われることが決まり、そのチーム編成が発表された。そこにはいつもエースナンバーを付けている小村隼汰の名前がなく、ベンチメンバーのリストに紺野夢太の名前があったのだ。
これを見たチームのメンバーは監督に「なんで隼汰ではなく、夢太なのですか?あいつは毎試合二桁得点を取るなどして活躍していたのになぜ外すのですか?」と詰め寄った。そして、監督は詰め寄ったメンバーに対して言い聞かせるようにこう話した「隼汰は少し休ませる。なぜなら、この前のAチーム対Bチームの試合を見ていたが、彼がどこかスランプ状態になっているような印象を持っていたから、彼のスランプがチームに悪影響を及ぼす可能性があることを考えて、今回は彼を外して、少し落ち着いて欲しいと思ったからだ」という。
その話を聞いたチームメイトは「監督がそういう考えなら自分もベンチに入りません」と監督の話を一刀両断したのだ。
そして、元のベンチリストに入っていたAチームの3人がベンチを外れて、Bチームの選手3人が入った。
それから彼はもらったユニフォームが嬉しかったのだろうか、家に帰って両親と兄だいに見せたのだ。
すると、両親は「夢太、これは監督の勘違いじゃないのか?夢太はそんなに上手くないって言っていたのに何でベンチ番号をもらえたの?」と半信半疑状態だった。しかし、兄は「ベンチ番号もらえるって夢太も成長したな!おめでとう!」と喜びながら祝福してくれていた。
ただ、彼の中にはチーム内に漂っている不安要素が彼を尻込みさせる要因になっていた。
次の練習日になったが、彼は練習を休んだ。理由は“僕が練習に行ってもチームの雰囲気をぶち壊すだけ”という先日言われたことが影響していたのだ。
この事を両親は少し心配し始めていた。なぜなら、彼はこのチームのアカデミーチームに所属していたときも無理矢理ユニフォームを奪われて試合に出られなくなったことがあったからだ。今回は小学6年生までの大会だったことからそういう懸念はなかったが、彼の中には“また同じ事をされた時はどうしよう”というこれまでの不安よりも追い込まれる状態になる可能性が高くなっていた。
そして、その次の練習には父親が同伴して、参加することにした。彼が練習をしている姿を見ていると彼の中にどこか戸惑いや不安が入り交じっているように感じていた。そして、プレー自体は問題ないが、チームメンバーとのコミュニケーションが不十分で孤立しているように感じていた。
この時、父親は彼の急な抜擢に違和感を覚えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます