第23話:生きる意味とは?
那月の騒動から1週間後、隆太の担任の先生から進路に関する問題で急遽面談をしたいと連絡をしてきたのだ。そして、翌日には那月の担任の先生から進路と先日の診察の結果を知りたいという連絡が来たのだ。
その時、電話を取った母親は「分かりました。」と伝えるだけだった。そして、電話を置くと深く深呼吸をした。実は数日前に隆太の塾の先生からも連絡が入り、「最近の隆太さんの様子がおかしいような気がします。」と言われたのだ。なんと、先生がオンラインで受講したあとに一緒に添付してある課題を久しぶりに塾に行って授業を受ける前の2週間分が未提出になっているというのだ。
母親は急いで彼に確認をするために部屋に向かったが、彼の部屋は鍵が掛かっていて、入ることが出来なかった。そこで、子供たちの部屋のスペアキーは両親が持っていたため、隆太の部屋の鍵を取りに行き、鍵を開けて中に入ると彼の姿はなかった。そして、彼の勉強机の上を見ると塾の参考書はあるが、課題を送った形跡がない。そして、彼がオンライン授業で使っているタブレットを見ると、課題未提出の授業が溜まっていた。
母親は彼が“受験を放棄したのではないか?”と不安になった。そして、那月も進路を決める時期に差し掛かり、彼女の症状も日に日に悪化の一途を辿っており、進路のことを気にしていられるほど余裕がなかった。
数日後、隆太の担任との面接をするために小学校に向かった。すると、担任の先生から残酷な通告を受けた。それは、“彼のテストなどの点数が10点以上落ちることが増えて、周囲の友達とは上手くやっているようですが、受験するとなると少し心配な部分もあります。”という事だ。
先生は“彼も彼なりには頑張っている”と言っているが、母親からすると奥歯に引っかかって仕方がなかった。そして、先生から彼の現時点での成績を見せてもらうと、現時点ではとてもではないが、彼の希望する進路に進むためにはかなり難しい判断を迫られることになることは目に見えていた。
翌日には那月の中学校に終業後に向かい、話をした。担任の先生は昨年まで3年生を担任していた先生で、進路に関してはプロフェッショナルな先生だった。先生から教職員室と同じ列にある個別面談室に通された。そして、那月の個人票の入ったファイルとともに母親に彼女の希望が書かれた進路希望書を見せてもらった。すると、彼女は中堅都立高校もしくは隣県進学高校への進学を希望しているようで、先生からは“那月さんは希望している学校に進学することは可能なのですが、問題は彼女の成績よりも学校生活にありまして・・・”と申し訳なさそうに伝えてきた。
母親は思わず「那月は何か悪い事があるのですか?」と伝えると、先生から「実は少し前から那月さん学校で孤立しているように思える事が増えまして、ここ2週間で孤立している様子が以前に比べてもさらに顕著になったので、学校としても担任としても彼女の事がかなり心配です。現在、学校としても進学を目指して指導していますが、現時点では那月さんの状態が上がらないと進学が頓挫する可能性も十分考えられるため、ご家庭と学校との連携が必要になることも想定しなくてはいけません。」と伝えた。
面談が終わると、先生から「私たちも全力を尽くします。これからもよろしくお願いいたします。」と深々と頭を下げている姿を見て、母親は先生が真剣に考えてくださっていると思っていた。
そして、家に帰るために家までの道を歩いていると家のある住宅街に入る手前にある大きな交差点で信号が変わるのを待っていた。すると、背後から「緊急車両通過します。緊急車両通過します。」という緊急車両のスピーカーから発されている声が聞こえてきた。そして、その車両は1台ではなく、3台連なって走ってきたため、「この辺で事故でもあったのか?」と思っていた。しかし、その車両は曲がることなく、住宅街のある通りに向かって走っていっていた。
母親は信号が変わって、横断歩道を渡ると遠くで赤い光がたくさん光っているように見えた。実はこの先には年内に開通する都心とこの付近を結ぶバイパスと先程通ってきた都心に向かうバイパスが繋がり、アクセスが今までよりも便利になり、年明けからは路線バスも通るようになる。そして、バイパス開通に伴い、横断歩道も高架化されることになっていた。
母親が赤い光が集まっている方向に歩いて行くと、その場所は自宅から100メートル離れたすでに開通した道路の終点だった。その時にはまだ母親は分かっていなかったが、その手前から規制線が張られ、中をうかがうことは出来なかった。
そして、母親は道を引き返し、一本手前の信号のない交差点を曲がり、家へと帰った。すると、家の前で隆太が警察の人と話していて、玄関に悠太と柚月が放心状態で座っていた。母親は「何があったの?」と悠太に聞くと2時間前に那月がパニック状態を起こし、自傷行為を始めてしまった。それを隆太が止めようとしたが、わずかに手をすり抜けてしまい、1時間前に着の身着のままで家を飛び出していった。そして、家を出て行ってから5分後に遠くから“キキーッ!ドン!”という音が聞こえてきた。まさかと思い、隆太が音のした方に走っていくと黒い高級SUVとシルバーのミニバンが止まっていた。そして、道路上に那月が倒れていたのだ。
彼が駆けつけたときには黒のSUVの運転手さんが警察と救急車を呼んでくれていて、シルバーのミニバンの運転手さんと同乗していた女性が介抱をしていた。
通報から5分後に警察と救急車が到着し、彼女をストレッチャーに乗せて救急搬送されていった。そして、現場検証などを行うために周辺道路を封鎖し、母親が帰ってきたときには隆太が警察に直前の動きを説明していたところだった。母親はまさかこんなことになるとは思っておらず、頭を抱えていた。
その後、那月は搬送されて、処置室での処置が早かったこともあり、意識が戻り、一命は取り留めたものの、検査のため、その日は入院することになった。
このことを父親に電話で報告し、父親が帰ってきてから病院に向かうことになった。父親の運転で病院に向かっていたが、その道中は普段なら長くない距離だったが、どこか遠く感じていた。
そして、病院に到着し、救急受付で名前を告げると近くまで看護師さんが迎えに来てくれて、彼女と対面した。その時、彼女は放心状態になっており、母親と父親が来たことが分かると「ごめんなさい。ごめんなさい。」と何度も繰り返し謝っていた。
その後、彼女とぶつかった運転手さんが「うちの車はそんなに壊れていないので、今回は示談しませんか?」と提案してきたことを父親の元に相手の保険会社の担当の方から連絡が入った。
父親は「今回はうちの娘が悪いので、修理代はお支払いさせてください。」と伝えた。すると、「それでは、その旨を本人にお伝えします」と言って電話は切れた。
数日後、保険会社の担当者と相手の運転手さんが近くまで来て、話すことなり、その週の土曜日に近くにある喫茶店で会うことになった。父親は今から心臓が飛び出しそうなくらい不安と心配をしていた。そして、近くにある個室のある喫茶店の予約を父親が取った。
この時、父親は悔やんでも悔やみきれなかった。なぜなら、那月がこの事故を起こす数日前から過剰に気にする仕草やいきなり泣き出すなど情緒不安定な状態になっていたのだが、父親も母親も「なっちゃん、もう大丈夫なの?」と聞いて、那月は「大丈夫だよ。昨日よりも少し良くなったから学校に行ってみる」と言って学校に行ったのだ。しかし、その日は複数の科目で新しい単元に入った事もあり、周りに遅れないように必死についていこうとしたのだ。すると、彼女の体調が次第に悪くなっていき、目の前がどんどん霞んでいった。そして、呼吸も次第に荒くなっていき、過呼吸状態になっていった。
彼女の様子の異変を察知した隣の席に座っている女子生徒が「先生、那月ちゃんが苦しそうにしているので、保健室連れて行った方が良いと思います」と数学担当の菅田先生に伝えた。そして、菅田先生が養護教諭主任の村田先生と副担任の村川先生に教室に備え付けられている緊急電話を使って連絡した。
連絡を受けて5分後に主任の村田先生と養護教諭で現場経験のある豊田先生が“生徒傷病観察カルテ”を持って教室に駆けつけ、そのあとすぐに村川先生が“生徒傷病観察報告書”をバインダーに挟んで持ってきた。村田先生が彼女の状態を見て、「このまま授業を1人で授業を受けることは難しいと思う。」と判断し、村川先生が空き時間だったため、教室の後ろで経過観察をすることにした。そして、この時間を終えると20分間の中間休み時間になる。そこで、1度保健室に行き、授業中の様子を報告して、再度経過観察することにした。
彼女は少しずつ体調が回復してきたように感じたが、念のため、隣の席の子に「何かあったときは先生に報告してね。」と告げて、先生は自分の担当する授業に向かっていった。
その後、彼女は何とか平静を取り戻し、最後まで授業を受けていて、下校するときにはいつもの彼女に戻っていた。
しかし、彼女が家の近くでフラフラし始めた事を近所に住む同級生のお母さんが見かけて、「なっちゃん、危ないよ!」と声をかけたが、彼女は聞こえていないのかそのまま家の方向に帰って行ったのだ。
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