第15話:悠太の変化
悠太は少しずつお兄ちゃんとして階段を上っていた。そして、海翔君と遊んでいるときは自分の弟みたいに可愛がり、賢太君と同じくらいなついてしまったのだ
当時、彼の友人の周りには自分とは血のつながりがない兄弟と暮らしている同級生が多く、彼の友人たちも全員ではないがそのような光景が増えていた。
理由としては、“自分の弟か妹が欲しい”・“自分の兄弟もしくは姉妹が欲しい”など家庭によって理由はさまざまだったが根底にあるのは“子供に辛い思いをさせたくない”という両親の思いからだった。
我が家は2人兄弟・4人姉妹ということもあり、施設から子供たちを受け入れる余裕はない。区で行っている交流プログラムに参加して、自分たちとはこれまでの境遇の違う子供たちと触れ合うことで自分がどれだけ幸せな生活をしているのかを感じることが出来てきた。
その影響は学校生活にも反映されていて、以前は上級生に媚を売ることや上級生のいうことを聞いていた彼だったが、さまざまな境遇の子供たちと交流していくことで、上級生が言っていることが正しいのかを少しずつではあるが、判断出来るようになった。
そして、彼はもう1つ出来るようになったことがあった。それは、“柚月の車椅子を押せるようになり、下級生にも同じような子がいて、その子に対して優しく出来るようになった”ということだった。
彼は以前背が低くて力もなかったため、毎回妹の事を自分が手助け出来ず、悔しい思いを何度もしてきた。
そこで、何とかして妹の車椅子を押せるようになって一緒に登校し、新入生の紗良ちゃんと星良ちゃん、陸翔君が困っているときに自分が手助けをしてあげたいと思ったのだ。その心が育ったのも兄・隆太が弟・悠太に見せてきた背中を今度は彼が追いかけているのかもしれない。
そして、彼には妹も生まれたことでお兄ちゃんになったという自覚もこれらの行動の変化に現れているのだろう。そして、お兄ちゃんになれたことでいろいろと自信が出てきたのかもしれない。
ただ、お兄ちゃんとしての自我の目覚めが時に彼を苦しめることになる。例えば、今はまだ柚月だけだが、万が一妹たちに何かあったときに自分は耐えられるのか?という不安は常にあった。
実は、彼は彼女が初めて入院したときもかなり心配をしていた。なぜなら、彼は彼女のように体調を崩すことはほとんどなく、至って健康体だったことで、“自分が彼女を苦しめてしまっているのではないか?”と感じることも多く、彼は彼女が一生懸命に病気と闘っている姿を見て苦しかったようだ。
だからこそ、彼は自分が出来る事は“彼女がどんな状況にあっても助けなくてはいけないと思ったのだ。ただ、彼はお兄ちゃんのようなスーパーマンになりたいと思っていて、今の自分ではいけないと思っていたのだ。
まだ小学校2年生の彼がなぜ、そうおもったのか?それは、数日前にあった近くの学校との学校間交流だった。その学校には特別支援学級がなく、どんな児童であっても普通学級に所属し、みんなで助け合いながらみんなで学校生活をしていこうという学校だったのだ。そして、2年生が交流するのは同じ2年生だったが、自分たちの学校とはどこか違っていた。
それは、同じクラスの子が同性・異性関わらず、お互いに助け合いながらクラス内でコミュニケーションを取っていたのだ。その光景を見た同級生たちは「意味分からない」と言って自分たちで話し始めたのだ。そのため、先生たちが慌てて「じゃあみんなでゲームしよう!」と言っても悠太の学校の子たちは悠太以外誰も振り向きもしなかった。
そのまま交流会の終了時間になり、悠太たちは交流もあまりないまま自分の学校に戻っていった。
数日後、交流をした学校の子供たちから手紙が届いた。そして、学年全員に当てた手紙の他に別の封筒が入っていた。その封筒を開けると“悠太君へ”・“俊輝君へ”・“愛斗君へ”と個人に宛てた手紙が入っていたのだ。先生は封筒を開けずにそれぞれに渡すとなんとその中に入っていたのは“文通したい”・“一緒に遊びたい”など個人的なやりとりをしたいという子たちからの手紙だった。
このような手紙をもらったことがない彼にとっては嬉しいを通り越して、信じられないという気持ちが先行していた。なぜなら、彼は今まで女子からもよく思われておらず、学校で柚月と一緒に帰ろうとすると「妹好きってやばい」と女子から揚げ足を取られてしまい、下校の時に彼と女子児童がトラブルになり、他の子が担任の先生と男性の先生を呼ぶ騒ぎになる事もしばしばだった。
その理由として、彼は以前にも同じ幼稚園に通っていた他の学校の子から手紙をもらったこともあるが、この時はその子たちの派閥の子ではなく、別の子からだったことで大事にはならなかった。
しかし、今回もらった手紙の中にそのこと仲が良い子から入っていたのか、同じ学年の女子から嫉妬されているような雰囲気だった。その中にのちに有名な女優として活躍する川田悠奈も彼に対して手紙を送っていたことが分かった。
そんなに人気があると嫉妬されることも不思議ではない。ただ、彼以外の子たちもそれなりに周りの子たちからそれなりに人気を集めていたため、なぜ自分だけがこういうことをされないといけないのか疑問だった。
彼はそういう疑問を持っていても普段はあまり気にしないが、今回は違っていた。
そして、彼はそう言ってくる子たちを見返すためにスポーツやピアノなどに没頭したのだ。最初は、姉がやっているピアノ教室に通ってピアノを練習し、彼が所属しているスポーツチームを辞めて、地元の有名クラブチームのU-9のトライアウトを受けるなど彼はこのままではいけないと思ったのか、両親も見たことがないほど積極的にいろいろな事を始めたのだ。
この姿に両親は感心していた。その反面、彼がここまで行動するのは何かあるのではないか?と不安視する事もしばしばだった。
なぜなら、彼は今まで普通に頑張れただけですごいと思っていて、これまでどこかに“彼を甘やかしてしまった”という後悔が見え隠れしていた。ただ、今の彼を見ているといろいろな事に興味を持ち、以前は見せないような笑顔でその事に対して真正面から向き合っていたような印象だった。
そして、3人の妹たちに対しても以前からもやさしく接していたが、最近は彩月がソファーから落ちそうになった時に何も言わずに彼女のそばに行き、彼女の場所を直してあげるなどお兄ちゃんとしての顔も以前に比べるとかなり見せるようになり、両親も感心していた。
そして、両親が一番驚いたのは個人面談で担任の先生から“悠太君は児童養護施設との交流プログラムでよく向こうの子たちから声をかけられますし、その子たちと一緒に遊んでいて、何か問題があるときちんと施設の子なら施設の先生に、学校の子なら私にきちんと報告してくれるので、かなり助かっていますし、施設の先生からもかなり印象が良くて感心しています”と言われたのだ。
実は悠太は賢太君の家とは別にサッカーアカデミーで出来た友達とその妹で月に2回ほどだが、週末になるといつも交流に行っている施設で他の施設の子供たちとの交流プログラムが実施されて、そこに特別に参加させてもらっているのだ。
そして、2ヶ月に1回は隆太と一緒に桑野さんの家に行って政人君や健太朗君と裏庭でスポーツすることもあった。
彼の中では“どんな子でも僕が友達になることで”楽しそう”という姿を見せてくれて、悠太は心の底から楽しませているという実感を持つことが出来る事で彼が学校で孤立している姿とは別の姿を表現出来ていたのだ。
彼は今までの嫌なことや嫌な気持ちが邪魔して出来なかったことが出来るようになり、学校の成績も習い事もかなり順調にいっていた。
そんな彼を見ていて、まさかこの後に起こる事件が彼の心を揺さぶることになるとは思っていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます