第14話:僕は幸せ
悠太は夏休み中に何度か何人かの同級生の家に遊びに行った。すると、以前は見たことがない子が子供部屋で遊んでいたのだ。
不思議に思った彼は友人に「この子は誰なの?」と聞くと友人が「この子は僕の妹と弟だよ」というのだ。その話を聞いて一瞬頭が混乱した。なぜなら、この子はお兄ちゃんとお姉ちゃんがいる事は知っていたが、妹と弟がいることは知らなかった。
そして、彼のお母さんが子供部屋にお菓子を持ってきてくれて「そういえば、まだ紹介してなかったわね。この子は萌夏と海翔です。」と紹介してくれた。
話を聞くとこの子たちは3ヶ月前に強制保護をされた子供たちで近くの施設でカウンセリングなどを受けて、体調や健康状態も回復してきたのだが、この子たちを両親の元に返すことは危険と判断されて、2週間前から試験期間として彼の家に来ているのだ。
そのことを知った彼は2人がこの家に来ることで、また遊べると思っていた。
特に、海翔君は悠太と友人である賢太と一緒に遊びたがっていて、毎日のように賢太が帰ってくると飛びついて喜んでいるというのだ。そして、彼には3歳上のお姉ちゃん・茉優がいる。萌夏は茉優にべったりでお姉ちゃんが帰ってくると「ねーね!」と玄関まで走っていくのだ。その光景を見た母親はこの2人を家に迎え入れたいと施設に連絡し、戸籍を施設から彼の家の戸籍に移した。
こうして、正式に賢太の家の家族になったことでまた遊びに来たときには彼ら苫田遊ぶことが出来るのだ。
そして、翌日には桑野さんの家に遊びに行き、新たに迎えた子供たちと初めて会うことが出来た。今回受け入れた子は6歳の政人君、9歳の琉愛ちゃんだ。彼女たちとは初めて会うような気がしていたが、実はこの子たちは隆太が通っている学校と交流プログラムを持ったときに参加していた子だったのだ。隆太はこの時はこの2人とは違うグループで交流していたため、直接の交流はなかったのだ。
桑野さんの新しい家も着々と進んでいて、あの家が完成すると小学生以上の子供たちの部屋が向こうに出来る。つまり、小学生の4人と中学生の2人はこの家から向こうの家に引っ越すことになるのだ。今はまだ使えないが、家と家の間には渡り通路があり、向こうの家との行き来には問題ない。しかし、父親にはある複雑な思いもあった。それは、菜々子、小雪、琉愛が大人になったときに自分の本当の親はどこにいるのか?という疑問を持つ可能性もあるし、桑野さんの子供たちと顔つきが違うことから学校でいじめられるのではないか?という不安もあった。
実は施設から子供たちを引き取るというのは桑野さんと奥さんの子供である愛梨沙ちゃんが生まれる少し前に決断したことだった。その理由として桑野さんご夫婦は結婚してから今年で20年になるのだが、実は長女を授かる5年前に男の子を身ごもっていた。しかし、その子は妊娠5ヶ月の時に胎児発育不全により流産してしまった。その時のトラウマから奥さんの柚美(つぐみ)さんが精神疾患を発症し、3年間子供を作る事に対して恐怖を感じていたのだ。
当時、桑野さんは今の会社の主任職をしていたが、自分の子供が流産したという喪失感が強く、誰かにフォローしてもらえないと仕事をする事が難しい状態だった。
そして、奥さんである柚美さんは毎日リビングの息子の骨壺が置いてある場所で「健太朗(生まれた時に付けると決めていた名前)ごめんね。お母さんあなたに会いたかった。」と涙を流しながら自分を責めていたという。
そして、彼を流産してから3年後、待望の第1子である愛梨沙を身ごもり、順調に成長し、今目の前にいるのだ。その時、引き取った奈津子ちゃんは今、16歳になり全寮制の高校に通っている。彼女は夏休みを実家で過ごすことが多いのだが、今日は友達と一緒にテーマパークに遊びに行っていて、不在だった。
その頃、隆太と悠太の家でも嬉しいニュースがあった。なんと、お母さんの陣痛が始まり、まもなく妹たちに会えるというのだ。もちろん、彼はこの話を聞いて桑野さんの家からバスに乗り、悠太も家にいる柚月と一緒に母親が入院している総合病院にバスで向かった。父親は緊急会議が入っていたため、病院に直接向かい、到着も少し遅れるということだった。
1時間後、家族全員が病院に到着し、母親のいる分娩室の前にある家族室で待っていた。ここの病院は家族の立ち会いをするには一緒に入室しなくてはいけないため、今回は家族室でモニターに映されている映像を見るしか方法がなかった。
そして、陣痛が始まってから6時間後に妹たちは無事に生まれた。生まれた時の身長と体重が姉・美月は35cmの1780g、妹・彩月は32cmの1570gと双子にしては大きい方だった。
2人の妹の顔を見たときに父親はガッツポーズを小さくした。なぜなら、彩月の目が父親そっくりだったからだ。前回、悠太と柚月が生まれた時は2人とも母親と母親の妹にそっくりで父親はショックだったことを思うと今回は父親もホッと胸をなで下ろした。
そして、柚月も車椅子から妹たちの顔を見るために兄二人に支えられて立ち上がり、初めてみる妹たちの姿を見て「私もこんなにちっちゃかったの?」と柚月がやっと少しずつ話せるようになってきた言葉たちで父親に話しかけると「実は柚ちゃんと悠太が生まれてきたときは柚ちゃんのほうが大きかったよ。」と父親から言われると「あたし悠太より小さいよ。なんで~」とお茶目な彼女が戻っていた。
そして、赤ちゃんを見た5人は母親に会ってから家に帰った。母親は経過観察で1週間ほど入院し、妹たちも健康診断などを受けるため同じくらいで退院することになった。
今からワクワクだった柚月と悠太は一番後ろで興奮していた。そして、那月と隆太は年の差がある妹が生まれたことは嬉しかったが、どう接して良いのか分からなかった。それは、年の差がありすぎると価値観も違うため、関係性を構築するためにはかなり難しい事も多く、末っ子になることから自分が振り回されてしまうのではないか?と不安に思ったのだ。
そして、家に帰ってからお父さんに「私は2人にお姉ちゃんとして見てもらえるかな?」と不安をこぼしていた。父親は「那月は柚月の時もちゃんとお姉ちゃんとしてみてもらえたのだから大丈夫だよ」と彼女に自信を持つように話した。
夏休みもまもなく終わる頃に妹たちが帰ってきて家が更に賑やかになった。そして、子供たちは喜びも束の間で夏休みの宿題の追い込みに入っていた。
果たして,宿題は全て終わるのだろうか?父親も母親も子供たちの宿題の状況はかなり心配していた。特に、柚月は学校には行っていたが、1学期間クラスで過ごせたのはわずかに20日ほどで、残りは保健室登校教室で過ごしていたため、宿題で分からない問題が多くあり、苦戦していた。
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