第6話:次のステップへ
悠太と柚月は年長さんになり、あと1年で小学校に入学することになる。そのため、今年1年は小学校に入る前の健康診断や教育相談などが入ることでいろいろと忙しい1年になるのだ。
そして、小学校に入学するということはこども園のように担任の先生たちがずっと横にいるわけではないことから心配なことも多い。
特に、柚月の事が心配で、彼女は現時点で3回救急搬送されていて、いずれも先生や両親など大人が気付いて早急に搬送できていた。しかし、小学校の場合は子供たちしか周りにいないため、万が一彼女が倒れたときに周囲がパニックになってしまい、搬送が遅れてしまうことや先生への報告が遅れてしまう可能性が生じる。
そして、柚月の場合は辛いリハビリの甲斐もあって、他の子たちと同じように歩くことは出来る。しかし、平らな道は大丈夫だが、坂道や階段など勾配や段差があると転んでしまうこともあるため、誰かの補助がないと危ないのだ。
一方の、悠太は低血圧の持病はあるものの、柚月のように呼吸が苦しくなることは少ないため、学校生活も登下校も問題ないと思っていた。ただ、彼の場合はかなりの神経質のため、ちょっとでも不安やストレスを感じると身体に出てしまい、立てなくなることや過呼吸を起こすこともある。このような状態で2人とも小学校入学が無事に出来るのか、心配になっていた。
そして、小学校が夏休みに入って数日後に次年度の入学予定者向けの説明会が区役所の大きなホールで行われた。
そこには区内の小学校入学者の保護者が入学予定小学校別で集まり、教育長を始めとした役職者と担当者が登壇していた。
説明会が始まり、話を聞きながら資料を見ていた。ふと両親は同じ小学校のエリアに座っている保護者の人数を見て愕然とした。というのは、2人が通う予定の学校は1学年で100人いて、悠太と柚月のように双子や三つ子など複数の兄弟がいる家庭もあり、総勢120名という大きな学校だったのだ。
しかも、区内で3番目に大きい学校で、一番多い学校は160人、次に多い学校が140人と今まで通っていたこども園の1クラスあたり25人というのは小学校に比べると少ないと言うことを心から痛感した。
約1時間半続いた説明会が終わり、今度は学校別の説明会が行われる会場へ向かって歩いていた。すると、見たことがある顔のお母さんに出会った。最初は“誰だろう?”と思ったが、向こうから南都子に気がつき、声をかけてくれて誰か分かった。
声をかけてくれたお母さんは柚月のお友達である悠菜ちゃんのお母さんだった。悠菜ちゃんは学区が違うため、一緒の学校には入学できないが、柚月が登園しているときには彼女が出来ない事を横でサポートしてくれていた同じクラスの友人の一人だった。
少し立ち話をして、学校説明会が始まる会場に入ると入学説明に必要な資料と学校紹介の資料が入り口で配られ、会議室にはすでに100人ほどの保護者が着席していた。全員到着を確認できたところで小学校の教務主任の先生が説明会の開始を告げた。
そして、学校紹介とクラス紹介、教育方針の説明などこれから入学する学校について説明を受けた。
そして、説明が一通り終わり、質問の時間になった。すると、ある保護者の方が“教科書を入れるバックはランドセルだけなのか、それともリュックサックのようなバックも可能なのか?”と質問した。
すると、“基本的にはランドセルだけですが、怪我などで松葉杖や車椅子を使用しなくてはいけない場合にはリュックサックなどを使用することを認めています。”と校長先生が答えた。
この質問を聞いて母親は不安になった。それは、柚月がランドセルを背負って学校に行けるのか?・途中で歩けなくなった時に誰か介助してもらえるのだろうか?などこれまでとは違う心配だった。
仮に、この回答が尊重された場合に登校時には歩けていた彼女が突然途中で歩けなくなった場合はどうなるのかが不安に感じたのだ。だからといって、この場でそういう質問をすることは柚月の事をいじめる子が出てしまうのではないか?と不安に思い、説明会終了後に担当の先生にお時間を作ってもらい、話を聞いた。
この時点で悠太はすでにランドセルを父方・母方の祖父母に買ってもらったが、柚月は入退院を繰り返していたこと、経過観察が必要でショッピングモールなど多くの人が集まる場所には退院後一定期間はいけず、期間経過後も行くにはマスクを付けて車椅子を使わなくてはいけなかった。そのため、彼女はそういう姿を見られたくないと思ったのか、“ランドセルを買いに行こう”と両親が言っても行こうとはしなかった。
そこで、その日は家にいることになっていた那月と悠太も一緒に行ってもらい、一緒にランドセルを買いに行くことで柚月の不安を取り除くことにした。
そして、翌日になり彼女は2年ぶりにショッピングモールに来たのだ。
今までは入退院を繰り返していたことや一時酸素吸入が必要になることもあったため、うかつに外出することが出来ない日々が続いていた。
ショッピングモールに着くと、入り口の警備員さんに「すいません。車椅子駐車スペースの予約をした者です」と告げて、駐車スペースの利用許可書をもらった。
指定の駐車スペースに車を停めて、車から車椅子を降ろし、彼女が歩けるうちは自力で歩かせて、歩けなくなったときには車椅子を使うことにした。
そして、エレベーターに乗り、ランドセル売り場のある6階に向かった。
エレベーターの中で悠太は“僕はゆーちゃんと一緒にランドセルを背負って学校行くのが楽しみだな!”と嬉しそうに柚月に話しかけていた。彼女は“うん”と言って笑顔を見せていた。
6階に着き、悠太は一目散にランドセル売り場に走って行った。そこには柚月が好きそうなデザインのランドセルが並んでいた。柚月はハート柄のランドセルか水玉模様のランドセルが欲しかったが、両方ともすでに予約開始をしてから注文が殺到していることもあり、無事に予約が取れるのか分からなかった。彼女は歩くことがゆっくりであるため、悠太のようには歩けない。
彼に遅れること5分後、柚月がお店に到着し、彼女が希望していたデザインのランドセルがあるのかを探していた。
しかし、お目当てのランドセルはなかなか見つからず、彼女は「ないのかな・・・」と思っていたときだった。先に着いていた悠太が店員さんにこのデザインのランドセルを聞いてくれていて、店員さんが展示している場所に誘導してもらうように話してくれていた。
そして、悠太が柚月を見つけて、その場所に手を繋いで連れて行ってくれた。
しかし、売り場に向かう途中に“痛い”と言ってその場にうずくまってしまった。
悠太は急いで姉と両親を呼び、父親が彼女を抱きかかえて車椅子に乗せた。
すると、車椅子に乗れて安心したのか、悠太の手を持って彼女の欲しかったランドセルが並んでいる売り場に着いた。
すると、彼女はランドセルを指さして“これを背負いたい”と母親に書いて訴えた。
彼女は展示されていたサンプル用のランドセルを店員さんに背負わせてもらい、母親がデジカメで写真を撮っていた。
そして、候補のランドセルを全て背負い、最終的には水色の水玉が裏側に描かれているピンクバープルのランドセルに決めた。
彼女はランドセルが決まったことで安心したのか、レジ横の商談スペースでランドセルの購入予約をしているときも車椅子の上でワクワクしていた。
そして、ランドセルの購入特典の説明や装着品に関する説明を受けて、入院生活中は食べられなかった彼女の好きなハンバーガーとオレンジジュースを買って、お兄ちゃんとお姉ちゃんもそれぞれ食べたいものを買って、塾に行っているお兄ちゃんにも買って帰った。
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