第4話:再スタート
柚月が無事に帰ってきて、那月はまた一緒に遊ぶ相手が出来たこと、隆太はこれまでの不安から解放されたようで、以前のような笑顔が少しずつ戻ってきた。
しかし、悠太は彼女が帰ってきたことは嬉しいのだが、自分が彼女のようになってしまうのではないかという不安も半分あった。
ただ、来週からは柚月と一緒に登園できると思うとワクワクしてうれしさを隠せない様子だった。
そして、来週の分の買い物をするために近くのショッピングモールに行くことになったが、彼女は買い物などの不特定多数の人と接触する機会が多い場への外出はまだ心肺機能が不安定になることもあるため、1週間程度控えて欲しいと担当医から退院するときに言われていた。そのため、大事を取って柚月と那月が家でお留守番することになった。
家族4人で買い物に出かけようとすると柚月が「あー!」と泣きながら後追いしてしまうため、お母さんは「柚月はまた後でたくさんいろいろなところに連れて行ってあげるから待っていてね。」と何とかなだめてその場を離れた。
その頃、車の中では「柚月大丈夫かな・・・」と母親が不安を漏らしていた。確かに、柚月は3歳であれだけ大きな病気をして、病院の先生と看護師さんなど限られた人としか接一定期間していなかったことで、明日からお友達の輪に入っていけるのか、楽しく園に登園できるのかと親の立場でいろいろ考えてしまっていた。
そして、ショッピングモールに着き、店内を見渡すと柚希が好きそうなおもちゃや服がたくさんあった。そこで、家に電話して確認しようとしたが、可愛いと思った服は海外のブランドだったため、本人を連れてこないと実際のサイズは分からない。そして、日本のブランドしか買ったことがないため同じサイズでも若干のサイズ違いがあるということを知った両親はいつものサイズを買っていっても那月と柚月が着られるかどうか分からなかった。
そのため、今回は服を諦めて、後日柚月と那月が一緒に来られる時に買うことにして、お母さんは服屋さんの名前をメモして、衣料品店を後にした。
そして、エレベーターに乗り、いつも買っている靴屋さんの入っているフロアに移動すると、いつも買っている靴屋さんを見つける事が出来ず周辺をぐるぐる回っていた。なぜなら、いつもエスカレーターで移動していたため、降りて数十メートルで着いたが、今回乗ったエレベーターは靴屋さんとは反対側のエリアに着くエレベーターだったため、中央エリアにある靴屋さんにいくにはかなり距離を歩かなくてはいけなかった。その事に気がついたのはエレベータホールを出て周囲を2周した後に見た案内板だった。そこには“フランシュー:中央C-12”と書かれていて、地図を見るとこの通路をずっと進んでいかなくてはいけないという凡ミスをしてしまったのだ。
そして、その案内板に従って、その通路を進んでいくといつも見ている風景が目の前に広がってきた。
すると、いつも行っているフランシューが見えてきた。このお店はいつ行っても子供たちが履きたいと思っている靴が並んでいるのだ。そして、いつも担当してくださる斉藤さんがちょうどレジの所で接客をしていて、接客が終わった後に家族を見つけて駆けつけてくれた。
そして、“うちの娘の靴を買いたいのだけど、おすすめの靴って何かある?”と聞くと持ってきてくれたのは彼女の好きなキャラクターの描かれている新発売の靴だった。しかし、今回買いに来たのは彼女がリハビリで使う靴だった。そのため、キャラクターの靴ではなく、シンプルな運動靴を見せて欲しいとお願いした。
この時、斉藤さんは“なっちゃん(那月)とゆーちゃん(柚月)でおそろいの靴が欲しいのだろうな”と思っていたが、母親は「この前、那月の靴は買ったから今日は柚月の靴なの」と伝えた。
そして、子供用の軽量運動靴で女の子が好きそうなデザインを見つけてくれて、その中から柚月が好きな水色の靴を選んだ。
無事に靴が見つかり、母親は明日から再び登園する彼女がお友達に会ってどんな時間を過ごすのか、無事に行って帰ってこられるのか今から考えると不安だった。
両親と兄たちはショッピングモールを出て、帰路に就いた。
そして、帰宅して玄関のドアを開けた瞬間、お姉ちゃんに抱えられながら待っていた柚月が「まー!」と言ってお母さんに抱っこしてもらおうとしていた。
そして、家族でリビングに移動し、買ってきた食料品などを片付けながら、お留守番をしていた那月と柚月にお土産のパンを渡したところ、笑顔でパンを食べていた。
翌日になり、悠太は普段通り、柚月は久しぶりに幼稚園に行く準備をして、幼稚園の送迎バスを家の前で待っていた。
これまでは母親と悠太と一緒に自転車で登園していたが、不特定多数との接触が見込まれることから園に相談し、経過観察が終わる月末まで送迎バスにカーテンを付けたスペースを用意し、そこに乗っていくことになった。
そして、園に着いてからは部屋の中で経過観察が終わるまで過ごすことになり、他の子たちが外で遊んでいる姿を窓の所から眺める日々が続いた。
そして、定期検診で病院に行くときは柚月だけ園をお休みするため、お兄ちゃんだけ送迎バスに乗って園に行き、いつもよりも早い時間に迎えに行くことになっていた。
彼は妹が通院の日は早く迎えに来てもらえると思ってワクワクしていた。そして、彼は前の日にお母さんから「明日は柚月がお休みだから悠太だけ保育園に行くよ」と伝えると、いつもよりも早く起きて自分で身支度して、お母さんが用意したご飯を食べて1本早い幼稚園の子供たちが乗っていく送迎バスに乗って保育園に向かうのだ。
そして、悠太を見送ったあと、今度は柚月を連れて、家の近くのバス停からバスに乗り、彼女が入院していた総合病院に向かうのだ。この日は少し早く幼稚園の送迎バスが来たため、近くの公園を少し散歩して、病院に向かうバスに乗って病院に向かった。
病院行きのバスは後方が終点まで乗る利用者専用の席になっていて、カーテンで仕きられていたため、他の利用者の人たちの視線を気にせずに終点である総合病院まで乗っていくことが出来る。
彼女は退院してからまだ2回しか乗っていないが、いつも高校生が通学する時間に乗っていたため、交差点などで止まるとスクールバスを待っている高校生に手を振って、高校生が返してくれるのが嬉しいようで、通院の度に高校生のお姉さんやお兄さんに手を振っていた。
そして、バスに揺られること25分。病院の正面玄関に着いた。他の乗客は通常外来のため、正面玄関から入るが、柚月は退院後経過観察受診者のため、専用の入り口から入り、受付もその入り口に設置されているチェックイン機にカードを入れて、予約情報が書かれた受付票と呼び出し番号のレシートを取って、各科の受付に提出する。
彼女は小児科に向かうため、エスカレーターで2階に上がり、奥から2番目にある受付にファイルを出して、個室で診察まで待つことになっている。
彼女の診察は9:30で、リハビリは10:30から、言語療法は13:00からとそれぞれ時間に余裕があって、母親はその時間を退屈しないようにいろいろな物を持ってきていた。
そして、診察の時間になり、診察室に入ると退院してから初めて先生と会った。先生は彼女を見て「柚月ちゃんすごく元気だね。」と言った。すると、彼女はそう言ってもらえたことが嬉しかったのかニコッと笑って応えていた。
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