第11話 初陣


<< Atsushi side >>


 そして三日後。俺たちは初めて現実リアル地下迷宮ダンジョンにやって来た……いや、カイエ君だけは初めてじゃないか。


 クロムウェル王国の王都から歩いて三十分ほどの距離にある初級地下迷宮ロークラスダンジョン『勇者たちの試練場』……名前がマンマじゃん。


 魔法の封印が施された入口を宮廷魔術士のおねーさんたちが開けて、俺たちが中に入ると、石壁に囲まれた部屋には四方向に扉があった。俺たち十三人の勇者は三つのパーティーに分かれて、別々の方向に進むことになる。


 俺たちのパーティーは五人で、担当の宮廷魔術士も五人。だけど魔術士のおねーさんたちはルートの指示と緊急時のサポート役で、戦うのは五人だけだ。


「カイエ君は、もう地下迷宮に来たことがあるんだよね?」


 質問したのは二詩織紗枝にしおりさえ。ピンクアッシュの髪をマッシュショートにした活発な感じの美少女で、ちょっと騒がしいと思うくらいに四六時中喋っている。職業クラスはレンジャーで、ロングボウを片手に黒いエナメルの革鎧をおしゃれに着こなして、ベルトに大型のバトルナイフを刺している。


「ああ、そうだよ。ちょっと様子見したくらいだけどね」


 カイエ君が応えると、担当魔術士のステラさんが何故か苦笑してる。


「それでも、カイエ君ならきっと頼りになるよ……期待してまーす!」


 可愛らしく笑うのは朱鷺枝加奈子ときえだかなこ。ナチュラルカラーの髪をポニーテルにして、少しソバカスのある顔に切れ長の目。いつも騒がしい二詩織さんの方が目立っているけど、朱鷺枝も普通に美少女だ。


 職業クラス神官プリーストで、銀色のワンピースタイプのチェインメイルの上に、白地に金糸で装飾したハーフローブを着ている。この世界では神官も剣も使えるけど、武器はメイスで……選んだのは、女の子が刃物で切るのは猟奇的でNGだからという理由だ。


「私も……カイエ君に色々と教えて欲しい。えっと……色々と言っても、変な意味じゃなくて」


 自分で言って勝手に赤くなっているのは、凪原結城なぎはらゆうき。明るい色のショートボブの彼女も普通に美少女だ。派手な見た目に反して奥手な性格な筈だけど……カイエ君には結構グイグイ行くんだな。職業は魔法剣士で、青く染めたプレートとチェインを組み合わせた鎧に、武器はバスタードソードだ。


 ちなみに聖騎士の俺は、白い甲冑にロングソードと、赤で十字を描いた角形の大きな盾のタンクスタイルだ。他のメンバーを考えたら、タンクは俺一択だろう。カイエ君は強いと思うけど……格好が格好だからな。


「最初はやりたいようにやってみろよ。何かあったらフォローするからさ」


 カイエ君だけは、召喚されたときと服装がほとんど変わっていない。胸元が開いた襟の広いシャツに、革のような生地の黒いズボン。ファンタジー世界の住人の筈だけど、俺の世界にもいそうな格好だよな。ベルトの左右に剣を二本刺しているけど、装備と言えるのはそれだけだ。


「そんな格好で……貴方は地下迷宮を舐めてるわね」


 文句を言ってるのは、俺の担当魔術士の銀髪美人マイアさんだ。


「マイア、カイエに失礼ですよ。それに貴方は何も解っていません……そんなことを言ったら、後悔することになりますよ」


 姉妹の視線が激しくぶつかる……美人が怒るとマジで怖いよな。


「それじゃ、行くか……淳士、先陣はおまえに任せるから、あとのみんなは適当に。俺はとりあえず、戦闘には参加しないからさ」


 今日を空気を読まないカイエ君……ようやく気づいたけど、カイエ君は空気を読めないんじゃなくて、わざと読まないんだよね。


「えー……カイエ君は参加しないの? 一緒じゃないと詰まんないよ」


「いや、俺が入るとおまえたちの鍛錬にならないだろう。紗枝、ホントに危くなったら助けてやるよ」


「うーん……まあ、良いか。宮村、ガンガン行くよ」


「いや、ガンガンって……じゃあ、凪原さんは前衛職業クラスだから、俺の後に続いて。その後はレンジャーの二詩織さん、神官の朱鷺枝さんの順で。あと、地下迷宮にいる間は、HPバーを常時公開モードにしておいてね」


「うん、解った……」


「へえー……宮村君って、結構慣れてる感じだよね。ゲームとか好きでしょ?」


「うわー……宮村ってオタクとか?」


「いや、オタクじゃないし! そんなことより……扉を開けたら、みんな俺の後に続いてくれよ!」


 カイエ君以外のみんながHPバーを公開したことを確認すると、俺は扉を開けて玄室に飛び込む。中には剣を持った四体のスケルトン……うわー、マジでリアルPRGだよ!


 タンクの俺は盾を前に構えてスケルトンを待ち構えるが……


「ちょっと、宮村。止まらないでよね、邪魔だから!」


 俺の横を擦り抜ける凪原さんと二詩織さん。


「ちょ……待てって! 前に出過ぎだから!」


「だって、カイエ君が好きにやって良いって言ったじゃん……行くよ!」


 二詩織さんがロングボウから矢を放つと、明後日の方向へ飛んでいく……そう言えば錦織さんって、鍛錬場で技能スキルの練習してたか?


「『風の刃ウインドカッター』!」


 凪原さんが風属性の下位魔法を発動するけど……今度は真っ直ぐ飛んで行ったが、スケルトンの頭上を越えて壁にぶつかった。


「動く相手に当てるのは結構難しいから、二人とも剣やナイフを使って! ていうか……とにかく突っ込まないで、戻ってきてくれよ!」


 ああ……全然駄目じゃん。俺の言ってることなんか、誰も聞いてないし。俺たちのパーティーの初陣は多難だ。

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