第9話 パーティー結成


<< Atsushi side >>


 この世界に召喚されてから五日目に、ようやく勇者全員の職業クラスが決まった。


 鍛錬場に集まった俺たちは、初期技能スキルの練習をしている。俺はもう三日目だから慣れたもので、片手剣技能を発動して素早く剣を振るう。


 召喚されるまで剣なんて触ったこともないけど、技能を発動させると身体が勝手に動くから不思議だ。最初は自分の動きに戸惑ったけど、慣れてくると自在に剣が扱える感覚が快感……うん、俺って結構強くない?


 結局、カイエ君は一度も鍛錬場に姿を現わさなかった。凪原なぎはらさんが言っていたけど、本当に一人で地下迷宮ダンジョンに向かったのかな?


 担当の宮廷魔術士のおねーさんが一緒だから、正確には一人じゃないけど。俺の担当のおねーさん――銀髪美人魔術士のマイア・アリストスさんに訊いた話だと、宮廷魔術士は地下迷宮ダンジョンについて行くだけで、手出しはしないらしい。


 宿舎でカイエ君を見掛けることもないし、いくら何でもちょっと心配だな……


「よう、淳士。おまえは聖騎士に決めたみたいだな」


「うわわわわ!!! 何だよ……カイエ君?」


 いきなり後ろからの声に、俺が驚いて大声を上げると、カイエ君が意地の悪い笑みを浮かべていた……絶対にわざとやってるだろう!


「あ、カイエ君だ。久しぶりだね!」


「ねえねえ、カイエ君。私技能スキルの使い方がイマイチぴんと来ないんだけど、教えてくれない?」


 突然現れたカイエ君に、女の子たちが集まって来る。声を掛けて来たのは、朱鷺枝加奈子ときえだかなこ二詩織紗枝にしおりさえ。召喚された日にカイエ君と真っ先に話していた二人だ。


「よう、加奈子かなこ紗枝さえ技能スキルの使い方ねえ……コツくらいなら教えてやるけど。ちょっと待っていろよ、俺は淳士と話があるんだ」


「うん、解った。大人しく待ってるから……できるだけ早くしてよね」


 ニシシという感じで笑う二詩織さん。ちょっと馴れ馴れしいと思うのは俺だけか?


「あの……カイエ君。私にも……魔法の使い方を教えてくれないかな?」


 次に現れたのは凪原結城なぎはらゆうき。派手な見た目と違って意外と大人しい性格で……あれ、カイエ君のことを名前呼びしてない?


「魔法の使い方って、名前を叫ぶだけだろ……ああ、上手く命中しないってことか。良いよ、結城にも後で時間を作るからさ」


「う、うん……ありがとう」


 これもカイエ君のコミュ力のせいか……いや、全然羨ましくないから。


「それで、カイエ君。俺に話って何だよ?」


「いや、大したことじゃないんだけどさ……なあ、淳士。地下迷宮ダンジョンに行くとき、俺とパーティーを組まないか?」


 勇者全員が職業クラスを決めたら、いよいよ地下迷宮ダンジョンで本格的な鍛錬が始まる。俺たち勇者はパーティーを組んで地下迷宮に挑むんだけど……まさかのカイエ君からのお誘いだった。


「俺は別に構わないけど……何で俺?」


 素朴な疑問だ。カイエ君は何かと世話を焼いてくれたけど、俺を揶揄からかっていただけで、あえてパーティーに誘う理由が解らない。カイエ君ならパーティーを組む相手に困らないよね。


「理由はさ……淳士が面白いからだよ」


 やっぱり、俺を揶揄からかってるんだな。


「あのねえ、カイエ君……」


「いや、半分は冗談だから」


「半分は本気なんだ?」


「何だよ、怒るなって……男の中じゃ、俺と淳士が一番仲が良いって思ってるのは俺だけか?」


 屈託のない笑みに、勝手にひがんでいた自分が恥ずかしくなる。そういうの……ちょっとズルいよね。


「俺だって……カイエ君とパーティーを組みたいって思ってたよ」


「だったら決まりだな……なあ、ステラ。俺は淳士とパーティーを組むことにしたから、エミルに根回ししておいてくれよ」


「カイエ、貴方はまた勝手なことを……解りました。エミル殿下には私から伝えておきます」


 金髪の綺麗なおねーさん、カイエ君担当の宮廷魔術士のステラさんがちょっと困った顔をしている。あれ……宮廷魔術士の人はカイエ君を敵視していた筈なのに、カイエ君を見る目が優しい……ていうか、ちょっと顔が赤くないか?


「エミル姉さんは……この男にすっかり懐柔されたみたいね」


 呆れた顔で言うのは、俺の担当魔術士の銀髪美人マイアさんだ。


「マイア……カイエに失礼ですよ」


「え、姉さんって……マイアさんと姉妹なの?」


「何だよ、淳士。そんなことも知らないのか?」


 いや、コミュ力抜群のカイエ君と一緒にしないでくれよ。でも……美人姉妹万歳って感じだよね。異世界召喚されて良かった!


「ねえ、カイエ君……話はもう終わったの? ていうか……今、宮村とパーティー組むとか言ってたよね? だったら、私も入れてよ」


「あ、紗枝ずるいよ……ねえ、カイエ君。私もカイエ君のパーティーに入りたい!」


 二詩織さんと朱鷺枝さんが戻って来て、すっかりカオス状態だ。


「あの……私もカイエ君のパーティーに入れて欲しいんだけど……駄目かな?」


 凪原さんまで……みんなカイエ君が目当てかよ!


「紗枝の職業クラスはレンジャーで、加奈子は神官プリースト。結城は魔法剣士だよな……バランス的に問題ないし、淳士は構わないか?」


 ねえ、いきなり話を振らないでくれよ……主役は俺じゃないじゃん。


「う、うん。俺としては問題ないって言うか……みんなを、か、歓迎するよ」


「宮村、ありがと! でもさあ……どうしてカイエ君は、私たちの職業クラスが解ったの?」


「うんうん、まだ教えてないよね……でも、ちょっと嬉しいかも」


「私は……この前カイエ君に伝えたから」


 凪原さん以外は、カイエ君に職業クラスを教えていないらしい。そう言えば、俺の職業クラスのこともカイエ君は知ってたよね?


「俺は技能なしで魔法が使えるからさ、職業クラスを判別する魔法を使ったんだよ」


「へえ……そんな魔法があるんだ? なんか凄くない!」


 何が凄いのかは良く解らないけど、とにかく瞬く間に決まった俺たちのパーティー……あれ、俺って流されてない?

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