第8話 ダンジョンとは


<< Kaie side >>


 俺がいた世界の地下迷宮ダンジョンとは、世界を創った奴ら・・・・・・・・が残した地脈から魔力を吸い出すプラントの成れの果て・・・・・だ。


 本来はプラントを制御するために造られた地下迷宮の主ダンジョンマスターは、長い年月を経て自我に目覚めたために自分の存在理由すら知らない。そしてプラントの自衛手段の迷宮と怪物モンスターに、自分の趣味で勝手にアレンジを加えている。


 この低級地下迷宮ロークラスダンジョンマスターも、身体の構造自体は俺の世界の地下迷宮の主ダンジョンマスターと変わらない――『魔法解析マジックアナライズ』で解析したから俺には解る。


 あとは本人に訊いて、確かめるだけだな。


「なあ……おまえは自分が何のために造られたか知っているか?」


「貴様は……何を訳の解らないことを言っている。我が何者かによって造られただと? 我は地下迷宮の主ダンジョンマスターとして生まれたのだ」


 やっぱり知らないか……俺の世界の地下迷宮の主ダンジョンマスターと何も変わらないな。オレンジ色のツインテールにピンクの瞳。十代前半ローティーンの少女の姿をした地下迷宮の主は、無詠唱で上位魔法を発動して臨戦態勢を取る。


低級地下迷宮ロークラスダンジョンじゃ、世界を創った奴ら・・・・・・・・の記録が残っている可能性は低いしな……まあ、良いか。とりあえず、おまえの相手をしてやるよ」


 俺には魔力が見えるし、『魔法解析マジックアナライズ』も発動したから、こいつの実力は大体解っている。


「だから、貴様はさっきから何を訳の解らぬことを……人如きが我の地下迷宮を破壊したことを、後悔させてやるわ!」


 奴が発動した上位魔法は『重力球グラビディーボール』。相手を球体の中に吸い込んで潰す攻撃魔法だ。無詠唱で発動したから、それなり・・・・の実力なのは認めてやるが……俺に『重力球グラビディーボール』を使うなんて笑わせてくれるよな。


 ステラの周りに多重結界を展開して、安全は確保済みだ。俺は二本の漆黒の剣を具現化すると、『重力球グラビディーボール』を切って・・・消滅させる。


「な、何だと……剣で我の魔法を切ったのか?」


「ただの剣じゃないけどな……俺の魔力を具現化したんだよ」


 俺がもう一度剣を振ると、少女の二本の尻尾ツインテールが床に落ちる。


「次は容赦しないけど……まだ続けるか?」


 反応すらできなかったことに、奴は唖然としていた。まあ、本気で殺すつもりはないよ。こいつが死んだら地下迷宮が機能しなくなるからな。これだけ実力の差を見せつければ、馬鹿じゃなければ諦めるだろう。


「我の髪を……貴様だけは絶対に許さぬ!」


 あ……馬鹿だった。


「おまえさあ……俺の実力が解ってないだろ?」


「五月蠅い、人如きが! 多少力があるからと自惚れおって!」


 奴は二つの『重力球グラビディーボール』を同時に出現させる。一応隠し玉ってことだな……ワンパターンだけど。


 仕方ないか、こういうやり方は好きじゃないけど……俺は奴を威圧するために、認識阻害を解いて自分の魔力の一部を解放する。さすがにここまでステラに見せると後が面倒だから、その前に多重結界に細工をして視界を塞いだ……


「カイエ、大丈夫ですか……え?」


 視界を塞がれたステラが最後に見たのは、二つの重力球グラビディーボールを出現させた奴と俺が対峙するところだ。そして結界を解除すると……ツインテールが復活した奴が恭しく頭を下げて、俺の前に膝まづいていた。


「カイエ・ラクシエル様……このエリザベス・シュタインに何なりとご命令ください!」


 二本の尻尾ツインテールを嬉しそうに揺らす十代前半ローティーンの少女に、ステラF唖然としている。


「いや、命令なんてしないからな。エリザベス、おまえはこれまで通りに地下迷宮の番人としての仕事をしろよ」


「畏まりました、我が主様マイマスター!」


「カイエ……これって、どういうことですか?」


 ステラがジト目で見ている。


「どういうことって……地下迷宮の主を服従させただけだけど」


 ラスボスなんて倒したところで、得るモノは大きめの結晶体クリスタルだけだ。俺にとって地下迷宮の攻略とは、こういうこと・・・・・・なんだよ。


「地下迷宮の主を服従させたって……」


 ステラの目には、エリザベスは結構な化物に見えているだろう。無詠唱で上位魔法を連発する怪物モンスターなんて、中級地下迷宮ミドルクラスダンジョンのラスボスクラスだからな。


「まあ、それは良いとして……ステラ、俺が言う話じゃないどさ。今日見た事は全部、エミルに報告して構わないからな」


 一番面倒になりそうなことは隠したからな。今日使った魔法や地下迷宮の主を服従させたことくらいエミルに知らても構わない。あの自惚れが過ぎる王女様が、どんな反応をするか見ものだな。


「はい、解りました……カイエには申し訳ありませんが、私は宮廷魔術士ですから。エミル殿下に全て報告させて貰います」


 本当に申し訳なさそうな顔をするステラに、俺は苦笑する。


「いや、おまえが気にする必要なんてないって。そんなことよりさ……クロムウェル王国には、まだ他にも地下迷宮ダンジョンもあるんだよな? 勇者全員が職業クラスを決めるまで、もう少し掛かるだろうからさ……そっちの方も先に攻略させて貰うよ」


 下級地下迷宮ローレベルダンジョンを半日も掛からずに攻略して、地下迷宮の主ダンジョンマスターを服従させた俺を、ステラはもう止めようとしなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る