第7話 ダンジョンマスター


<< Kaie side >>


 それからも俺は怪物モンスターを瞬殺しながら地下迷宮ダンジョン突き進んで、二時間ほどで第五階層まで辿り着いた。


 五階層には巨大甲虫ジャイアントビートル下級悪魔レッサーデーモンなど多少は強い怪物が出現したけど。結局瞬殺で、俺は下位魔法の名前を叫んでるだけだから全然面白くなかった。


「本当に……カイエに掛かると、低級地下迷宮ロークラスダンジョンの攻略なんてあっという間ですね」


 ステラの反応が柔らかくなった気がする。二時間掛けて地下迷宮を攻略しながら、ずっと雑談してたから、多少は気心も知れたってところかな。


「まだ五階層だけどな。なあ、ステラ……この地下迷宮は全部で十階層だったよな?」


「はい、そうです。勇者様が師匠階級マスターレベルになるまで鍛錬する場所が、この低級地下迷宮ロークラスダンジョンです」


 師匠階級マスターレベルとはステータスプレートに表示される階級レベルが10になることで、魔術士系職業クラスなら中位魔法が使えるようになり、戦士系職業なら複数攻撃が可能になる。そこまで行けば一人前の戦力として認められるらしい。


 ちなみに、あまり意味はないけど俺の階級レベルはすでに13だ。勇者ではないステラはカウントに入っていないから、単独戦闘ソロプレイ扱いで怪物を倒した経験値が全部俺に入る。


 今の俺の職業クラスは勇者だから、雷属性の中位魔法と剣による多段攻撃技能が発動できるようになり、新たな技能として光属性魔法技能を取得したが……全職業の初期技能取得済みだから、光属性魔法も初めから使えるんだよな。


 中位魔法の『雷撃の槍ライトニングジャベリン』も試したけど、威力が多少アップしただけで大差はない。中位魔法から範囲攻撃魔法になるけど、俺の下位魔法は巨大化するから纏めて敵を倒せるし、下位魔法でもオーバーキルだからな。


 ここから、あと五階層か……五階層の怪物の強さから、十階層の怪物の強さも大体想像がつく。低級地下迷宮ロークラスダンジョンなのは初めから解っていたけど、時間を掛けて戦う相手じゃないな。それに……いちいち名前を叫んで技能スキルで魔法を発動するのも飽きた。


「なあ、ステラ。ここからは技能スキルを使わないけど、構わないよな?」


 俺は『氷弾アイスボルト』――水属性下位魔法の一撃で巨大蠍ジャイアントスコーピオンの群れを殲滅してからステラに告げる。ステラにはステータスプレートを見せたから、俺が全初期技能を取得済みなのは知っている。


「ええ、構いませんが。カイエ自身の魔法を使うってことですか?」


「勿論魔法は使うけどさ……もう少しスピードアップしようと思ってね」


 俺が無詠唱で魔法を発動すると、俺とステラの身体が床スレスレの高さに浮かび上がる。上位魔法『多人数飛行マストラベル』だ。


「どうして、私まで……範囲効果のある浮遊魔法ですか?」


 ステラは『多人数飛行マストラベル』を知らないようで、驚いているが……驚くのはまだ早いって。


「ああ、別に俺の身体に掴まる必要はないからさ……喉を痛めるから、あんまり叫ぶなよ


 俺は『加速ブースト』を多重発動すると、一気に音速を超える速度まで加速した。


「きゃゃゃゃゃゃ!!!」


 ステラの叫び声が聞こえるが、悪いけど慣れて貰うしかない。多重結界を張っているから空気を突き破る衝撃もないし、普通に会話もできるから、スピードにさえ慣れれば快適だと思うけどな。


 玄室の扉を破壊して飛び込こんで、魔法で怪物を瞬殺して再び回廊に飛び出す。やってることは大差ないが時間が短縮できるし、自分で魔法を発動した方が効率が良くて気分が良い。


 だから、技能スキルで発動する魔法って魔力効率が悪過ぎるんだよ。消費する魔力10に対して効果は2か3ってところだな。俺が自分で魔力を操作して効率とタイミングを最適化すれば、魔力10に対して10どころか、魔力1に対して10だって可能なのに。


 いや、俺のMPはカンストしているから効率なんて関係ないし、俺自身の魔力もほとんど無限だけど。魔力操作も禄にしない効率の悪い魔法なんて、使いたくないんだよ。早くも技能スキルを封印しそうだな。


 スピードアップしたおかげで、残りの階層を走破するまでに掛かった時間は約三十分……一階層当たり五、六分てところか。まあ、こんなものだろう。


「さてと……ここが最後だな」


 『多人数飛行マストラベル』と『加速ブースト』を解除して、俺は玄室の扉の前に立つ。一応階層ごとにボスもいたけど、全部瞬殺したから特に感想はない。


「カ、カイエ……あ、貴方ね……」


 叫び過ぎで喉が枯れて、疲れ切った顔のステラが睨んでいるから、とりあえず回復魔法を発動する。一瞬で痛みが消えて体力全回復のステラは驚いているけど、無理矢理付き合わせたから、これくらいはしてやらないとな。


「まあ、言いたい事は解るけどさ……俺に付き合うなら、慣れるしかないよ」


 玄室の扉を開けると、中にいたのはボロボロのローブを纏う骸骨と、銀色の金属のような鱗を纏う悪魔デーモン。リッチと上級悪魔グレーターデーモンってところか。それなりに魔法耐性があるから、普通・・の魔法じゃキツいかもな……俺には関係ないけど。


 『地獄の業火ヘルフレア』――相手の魔法耐性を無効化する上位魔法で瞬殺する。力押しするのは簡単だけど、効果的な魔法を使った方が気分が良い。


低級地下迷宮ロークラスダンジョンとはいえ、『地下迷宮の主ダンジョンマスター』まで瞬殺なんて……さすがはカイエですね」


 ステラは驚きと喜びが入り混じった表情で言うけど……何を言ってるんだよ?


「こいつが『地下迷宮の主ダンジョンマスター』だって……ただのラスボスだろ。 もしかして、おまえはこれで終わりだって思ってるのか?」


「え……カイエ、どういう意味ですか?」


 ステラの反応で、本当に何も解っていないことに気づく。


「なあ、ステラ……本物の『地下迷宮の主ダンジョンマスター』は、不可侵区域にいるものだからな」


 俺はそう言って、玄室の床を破壊した。魔力が見える俺には『地下迷宮の主』の居場所が解っている。


 再び聞こえるステラの悲鳴。いきなりだから仕方ないかと、俺はお姫様抱っこの格好でステラを抱えると、飛行魔法フライを発動して不可侵区域の床にゆっくりと着地する。


「き、貴様は……何てことをしてくれるのだ! 我が地下迷宮ダンジョンを破壊して……絶対に許さぬぞ!」


 甲高い声――人型の『地下迷宮の主ダンジョンマスター』は俺を睨みつけた。

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