第5話 カイエのクラス


<< Kaie side >>


 ステータスリングが表示した俺の能力値ステータスは、全て9999。初期能力値ステータスは俺の能力で決まるから、当然の話だな。


 能力値ステータスなんて余計な力が加わる感じで、邪魔なんだけどさ。いつでも解除できるし、職業クラスを試すには必要だから、とりあえずは放置しておく。


 職業クラス技能スキルには少しだけ興味がある。俺がいた世界には存在しない魔法効果マジックエフェクトだからな。魔法解析マジックアナライズで仕組みは理解したから……試してみるか。


 俺が選んだ職業クラスは……全部・・だ。


 能力値ステータス的には全ての職業が選択できて、転職クラスチェンジのペナルティーは全能力値マイナス10。能力値なんてどうでも良いけど、転職クラスチェンジを繰り返しても、能力値の数字は減らなかった……表示できる上限を超えているってことか。


 転職クラスチェンジをした時点で、新しい職業の初期技能スキルが習得できる。階級レベルが上がれば追加技能スキルが習得するけど、『魔法解析マジックアナライズ』で解析した最上位技能も、実用性では魅力を感じない……俺は試したいだけなんだよ。


 俺が鍛錬場に行くと先客がいた。凪原結城なぎはらゆうき……エミルにいじめられてた奴だな。


「よう、結城。おまえも職業クラスを決めたのか?」


「あ、カイエ君だ……うん。私は『魔法剣士』にしたわ」


 魔法剣士は近接戦闘技能がメインで、魔法系技能も使える職業だな。初期技能の魔法属性は地水火風から一つ選択できる。


「魔法属性は何にしたんだ?」


「風にしたわ……カイエ君は、どの職業にしたの?」


「俺は『勇者』にしたよ」


 嘘を言っている訳じゃくて、俺が最後に転職クラスチェンジしたのが勇者だ。


「『勇者』って……そんな職業があるの?」


「ああ、最上位職業みたいだけど。とりあえず選択できたよ」


「最上位って……凄い! カイエ君は……私みたいな偽物じゃなくて、本当の勇者なんだ」


 結城は何故か目を逸らして俯く。


「何だよ、偽物って……訳の解らない力を与えらて、戸惑っているのか。それを言ったら、俺だって同じだろう」


「ううん……カイエ君は初めから魔法が使えるし、エミル王女とも対等に渡り合っていたじゃない。カイエ君みたいな人が勇者になるべきで、私みたいな人に流される性格じゃ……!」


 結城の言葉が途切れたのは、俺が顎に触れて、強引に上を向かせたからだ。


「え、なに……」


「なあ、結城……人に流されるのが嫌なら、自分の頭で考えれば良いだろ。決めるのはおまえだから、俺は偉そうなことを言うつもりはないけどさ……おまえにも勇者の資格はあると思うよ」


 勝手な都合で召喚されて、勝手に力を与えられた。だったら、こっちも好きにやれば良い……召喚された時点で代償は払っているから、全員に勇者の資格はある。


「カイエ君……私なんかに勇者の資格が?」


「別に難しく考える必要なんてないだろう。結城は結城の好きなようにやれば良いよ」


 頬を染めて潤んだ瞳で俺を見つめる結城。ちょっとやり過ぎたかな……俺は結城から離れて、鍛錬場の中央に立つ。別棟の地下に造られた鍛錬場は、勇者が技能スキルを自由に試せるように、壁も床も天井も魔法で補強されている。


 さてと、技能を試してみるか。勇者の初期技能にある雷属性魔法技能で、俺は下位魔法『雷弾サンダーボルト』を発動させた。自分の魔力を使わないで魔法を発動させるなんて変な感覚だけど、MPによって放電する光の弾が出現すると……俺の身長くらいの直径になった。


「え……」


 結城が思わず声を上げる。俺が放った雷弾は床を破壊しながら突き進んで、轟音とも壁に命中すると一面に大穴を開けた。技能で発動した魔法は能力値ステータスの影響を受けるから、俺の能力値ならそれなり・・・・の威力になるんだな。


「カイエ君……勇者の魔法って、こんなに凄いの? 私の風魔法なんて……」


 呆然としている結城に、俺は苦笑する。


「いや、そこまで驚くことじゃないだろう。結城だって能力値が伸びれば、これくらいできるようになるよ」


 嘘じゃないけど、結城の能力値がどこまで伸びるかは怪しいな。まあ、能力値補正にも上限があるから、下位魔法なら上限まで伸ばせないこともないか。


「とりあえず、他の属性魔法も試してみるか」


 職業クラス『勇者』の初期技能には雷属性魔法しかないが、結城は『勇者』の能力を知らないし、まあバレても問題ないだろう。


「次は火属性魔法にするか……『焔弾ファイヤボルト』」


 焔弾も雷弾と同じ程度の大きさだった。同じ場所に命中させると効果が解りづらいから、今度は少し上向きに角度を変えて放つ。天井付近に命中した焔弾は、壁と天井を破壊して二つ目の大穴を開けた。


「……」


 最早言葉もない結城を放置して、俺は技能を考察する。


「威力は雷弾と大差ないな。下位魔法だと、どれも似たようなものか……そもそも、技能で発動する魔法は魔力効率が悪過ぎるんだよな」


 近衛騎士を引き連れたエミルがやって来たのは、このタイミングだった。


「さっきから、何が起きているのよ……これって! カイエ、貴方がやったの?」


 二つの大穴を見て、エミルは唖然とする。


「ああ、そうだけど。普通に下位魔法を試しただけだよ」


「冗談でしょ……鍛錬場を破壊するなんて、貴方の能力値ステータスはどれだけあるのよ? それに、こんな状態じゃ……鍛錬場は暫く使えないわね」


「いや、こんなのすぐに直せるだろ」


「あのねえ……ただ修復すれば良い訳じゃないのよ。魔法で補強するには時間もコストも掛かるわ」


「それも含めてさ……これで良いよな」


 俺は無詠唱で錬成魔法を発動して、鍛錬場を一瞬で元の姿に戻した。勿論、補強もしてある。やっぱり自分で魔法を発動した方が色々と効率が良いし、いちいち魔法の名前を叫ぶのは面倒だよな。


 目が点になるエミル……予想通り・・・・の反応に、俺は思わず笑ってしまう。


「でもさあ……毎回直すのは面倒だし。俺が技能スキルを試すのは、地下迷宮ダンジョンの方が良いよな」

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