サーガ編
西方大陸、ローゼ帝国。ラビア王国やルクシルア共和国のもっと南に位置する国だ。トレジャーハンターが活発な国である。王家が総力を挙げて取り組んでいるほど。
「ルクシルア登録、特級ハンター『サーガ・アルコ』。入国を認める」
「帰国ですがね」
穏やかな雰囲気のするラビアやルクシルアとは違い、入国には厳正なる審査と検査が必要だった。基本的に、他国とは敵国だ。自由に移動できる時代ではない。トレジャーハンターとは、世俗とは離れた職業なのだ。
「『怪盗アルコ』。その腕はどうした」
「名誉の負傷ですよ」
サーガは、この国で生まれ育った。だが、犯罪者であった。貴族出身の彼は何があったか怪盗に身をやつし、捕まった過去がある。
「……報告は以上か」
「はい。嘘はありませんよ。不安なら国際政府に裏を取っていただければ」
そんな彼が入国を認められたのは、かの『ネヴァン商会』に盗まれていた国宝、特級トレジャー『海を割る剣』の返還であった。彼が自分で、取り返したのだ。怪盗から一転、英雄的行動である。
「その怪我では、もうトレジャーハンターは無理か」
「はい。残念ながら。ルクシルアでのチームも解散してきました。隠居させて貰いますよ」
しかしその際に、左腕を失った。その『海を割る剣』の使い手に斬られたのだ。
「……良いだろう。一生暮らすのに困らない報酬を払ってやろう。英雄サーガ」
「ありがとうございます」
帝政ということは、独裁政治である。そんな帝国が出す報酬は巨大だ。例え元犯罪者であろうと、英雄には相応の待遇を。サーガは大手を振って、故郷へ帰ってきた。
それは町というより、村に近かった。酪農業が盛んな、自然豊かな村である。民家同士の距離は離れており、サーガの目的地は小高い丘の上にあった。
「………………あなた」
「マリー。待っていてくれていましたか」
彼を見つけるや。
どさりと、手に持っていた買い物袋を落とした。まさか。
まさか帰ってくるとは。思ってもいなかったから。
「あなた……っ!」
「ええ。ただいま」
犯罪者の妻と罵られても。ここで待ち続けた。彼の妻マリーは、大粒の涙を流しながら抱き付いた。
「あなたっ! う、腕が」
「ええ。その話もしなければ。どうせ中央での事件はここまで届いていないでしょう。色々と話すことがあります。けれどまずは」
片腕で、優しく抱き締めて。彼女と目を合わせる。
大どんでん返し。今や英雄の妻である。
「外国での活躍が認められて、国からお金を貰いました。私はもうローゼから出ませんよ。これからはずっと一緒です。マリー」
「………………!!」
最も彼女が欲した、最も安心させる言葉を伝えた。
「パパ……?」
「おお、ジャック。良い子にしてましたか」
「パパ!」
玄関での騒動を聞き付けて、息子もやってくる。サーガが国を出た時はまだ小さかったが、父のことを覚えていたのだ。
「ねえパパ、僕トレジャーハンターになる!」
「ほう、良いですね。あれは本当に楽しい。では色々、秘密の奥義を教えてあげましょう」
「やった!」
「なんと言ってもパパは、『特級ハンター』ですからね」
サーガは、思いを馳せた。自分の息子は、マルやあのミェシィより5、6歳ほど下である。いずれ国を出るだろう。出会うこともあるかもしれない。自分の仲間達の子らとも。
「まだまだ、未知の世界は広がっています。まだまだ、世界の謎は明かされていません。まだまだ、トレジャーハンター隆盛は続くでしょう。貴方の時代も、輝かしいものになりますよ。ジャック」
「うん! パパみたいな、英雄になる!」
自分の時代は終わった。最後にエフィリスら、若い者と一緒に冒険ができた。バトンは、繋がれる。
「……良い冒険でした」
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